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【ラッパー・T-STONE】フリースタイル・ダンジョン出場で気付いた「本当にやりたかったこと」【2/3】

前回《難病を抱えるラッパー・T-STONE アンダーグラウンドからメジャーへ【1/3】

「お前は王道」と言われ続けて

その存在をまわりから認められるようになるまで時間はかからなかった。18歳の時、MCバトル「UMB徳島大会」のタイトルを奪った。

「そこから3年連続で全国行かせてもらったんやけど、その頃の僕はバトルに向いてたのかもしれない。強面のラッパーの先輩らもようけいらっしゃった時代やったけど、でも対峙したら戦わなきゃいけないじゃないですか。見た目でビビっちゃったら話にならないじゃないけど、バトルってそこでビビっちゃうヤツ多いんですよ。でも僕は言い返せた。特別上手いタイプやないけど、気持ちだけは誰にも負けないつもりでバトルしてたんです」

UMB全国大会でも3年目に準々決勝進出。その実力を認められ、当時高視聴率を誇っていた人気番組『フリースタイル・ダンジョン』からオファーが来た。テレビカメラに囲まれながら対戦した相手は、ベテラン実力派のERONEだった。

「強かったですね。マジで強かった。でもあの負けがターニングポイントになったんです。そろそろ通用してこんくなってるわって、薄々気づいたんです。僕よりフリースタイル上手い人は死ぬほどいるわけじゃないですか。気持ちだけじゃこれ以上は上に行けない。それに『お前はバトルがしたいのか?』って自分に問いかけるきっかけになった。バトルは好きやけど、それが全てじゃない。俺はただ、音楽がしたいんやって目標がハッキリできたんです」

22歳の時、本気で音楽に打ち込むために、大好きだった故郷を出て上京した。初めて住む東京は刺激に満ちていた。地元では出会えない色んなタイプの人間と出会った。時代の最先端の空気を浴び、胸いっぱいに吸いこんだ。そうして吐きだされた楽曲「Let's Get Eat」は、見事ビルボード「TikTokチャート」で総合1位を獲得。見たことのない額の金を手にし、粋がってゴールドのチェーンも買った。夢にまで見た生活のはずだった。なのに、見えない何かがずっと心に引っかかっていた。

「これまでは周りからずっと『お前は王道や』って言われてて、『王道やから王道な方をしたほうがいい』って自分でも思ってた。でも『王道って何?』って疑問が沸いてきたんですよ。ケンドリック・ラマー? アナーキーさん? あの人たちみたいになればいいの? って聞いても、みんな『王道は王道や』って。誰も答えれないから、僕も(期待に)応えきれてなくて……だけど最近、やっと自分の中の王道みたいなものを見つけられたんですよ」

「ずっとロックがやりたかった」

左手の指先を見ると、黒く塗ったネイルの先が剥がれていた。「今ギターにごっついハマってて。恋しちゃってるんです」。ライブで披露するためギターを猛練習中だという。

「ずっとロックがやりたかったんです。『お前は王道や』って言われてる時も、正直ずっとロックしたかった。めちゃくちゃしたかったんです。元々ブルーハーツは大好きだし、洋楽だったらマネスキンとか。あいみょんもよく聴きます。だから今、ヒップホップやけんこうしなきゃダメだってことに囚われないようにしてて。もしかしたら『これヒップホップじゃなくね?』って言われるかもしれないけど、短いかもしれへん人生、自分のやりたいことをせなもったいないなって」

「ちょっといま汚いんですけど…」と見せた指先のネイルは、ギターを弾くために短く切られているものや、剥がされているものも

T-STONEが「短い人生」と語るには理由がある。22年、彼は1stフルアルバム「Type 1 Diabetes」をリリースした。タイトルの「Type 1 Diabetes」とは、自身が抱えている 1型糖尿病の英訳になる。10万人に1人といわれるその難病を、彼は今も患っている。

「一度死にかけたことあるんですよ。友達の家でいきなり痙攣しだして、一歩間違ったら低血糖で死んでたんです」

つづく《「1型糖尿病」発症から15年──新EPは「めちゃくちゃロック」【3/3】


▼2024年7月2日リリース
3rd EP『藍(アイ)』/T-STONE

配信URL▶https://linkco.re/F3Vnsfam

《収録曲》
M-1.向日葵/Lyric:T-STONE 、Track : ill rain
M-2.メトロ/Lyric:T-STONE,G:nt、Track : NEWLY
M-3.白鷺/Lyric:T-STONE,G:nt

■ T-STONE ■
1999年、徳島県うまれ。小学5年生で1型糖尿病を発病、中学2年生で父と死別。高校生から本格的に活動を始め、MCバトルコンテスト「UMB 2017~2019」徳島大会で3年連続優勝。20歳で「フリースタイルダンジョン」に出場したことにより知名度は全国区へ。今夏、全曲にギターを取り入れた意欲作の3rd EP『藍』を発表、全3曲収録。
SNS▶InstagramXYouTube

取材協力=葛西 彫しの

↓掲載雑誌

【著者プロフィール】
鈴木ユーリ(すずき・ゆーり)
ライター。代表作『ヤカラブ』。『実話ナックルズ』誌上の連載『ゲトーの国からこんにちは』を収録した単行本を刊行予定。X@yuri_suzuKii

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