【即席カンタン】キャンパスことば辞典のレシピ
やあやあどうも、ふずくです• ᴥ •
卒論提出が迫り、古辞書とにらめっこしている今日このごろ。
最初本当に意味が分からなかった漢文も、2年もやっていれば読めるようになってくるものだと知りました。
さて、今年卒論と同じくらい力を入れてきた活動についても、このへんでまとめておきたいと思います。
今回は、私が個人で作っているキャンパスことば辞典『中央辞』ができるまでをご紹介!!!!
どうぞ最後までお付き合いくださいまし〜。
『中央辞』とは
概要
『中央辞』という名前は、中央大学の受験生応援マスコットキャラクター「チュー王子」からきています。
Googleフォームで公募し、私のほうで4つまで候補を絞ったあと、X(旧Twitter)のアンケートで決定しました。
主にX(Twitter)で活動しており、中大用語紹介のほか、学内のイベントレポートなどもしています。
ぜひフォロー&いいね&リポストをお願いします(宣伝)。
http://twitter.com/chuo_dictionary
活動実績
2023年7月には、中央大学入学センターとのコラボレーションサイト(以下「特設サイト」)を開設しました。
この企画が始まったのが4月29日なので、2ヶ月15日で一応の完成となりました。
不定期(木曜日が多い)で中大用語を追加しています。
2023年8月には、オープンキャンパスにて展示を行い、しおり型の『ミニ中央辞』を配布。たくさんの来場者の方に楽しんでいただきました。
2023年10月には、中央大学法学部の小室夕里先生のお誘いにより、JACET英語辞書研究会にて研究発表を行いました。
参加レポはこちら。
作製の動機
私は2020年度入学生でしたが、ちょうどそのころはコロナが直撃。
入学後半年〜1年の間、キャンパスに入れない状態でした。
友達もできず、不安な日々を送ったのを覚えています。
4年生になった今年、ようやく全ての授業が対面になりました。
そして、ちょっとだけ大学のことが分かってきた。
そんな今年の5月、あることを思いつきました。
期間は違えど、大学入学を控える3月の高校生も同じことを思っているかもしれない。実際に大学に行く前に、雰囲気を知ることができるものを作りたい。
そんな思いで始めたのがこの『中央辞』です。
また、何より辞書ヲタクとして、これを機に大学生の同世代にもっと辞書に興味をもってもらいたいという思いもあります。
完全公開!『中央辞』の作り方
材料
・Googleフォーム
・Googleスプレッドシート
・X(旧Twitter)アカウント
・スマホ
・辞書数冊
・先行研究
・やる気(←いちばん大事)
①使用者の想定
「誰が」「なんのために」は、辞書を作るうえでもっとも重要です。
よい辞書は、ユーザーが欲しているものを理解し、その導線が明確に敷かれています。
『中央辞』では、以下のように使用者を想定しています。
■受験生
進学先選択の参考に
■新入生(高校3年生の3月〜)
大学に通う前に大学生活のイメージをもつ
■在学生
身内ネタ・話題として楽しむ
②用語の募集
キャンパスことば辞典に載せる語を選ぶために、大学用語を募集します。
そのために以下の2点について検討します。
■採録方針
どの範囲のことばを集めるかを検討します。
先行研究をいくつか読むと「キャンパスことば」と一口にいっても色々あることが分かります。
『中央辞』の場合は、「中大生の生活にかかわることば」とし、中央大学のキャンパス内でしか通じないことばだけでなく、学生生活で必要となることば全て(米川明彦『若者ことば辞典』でいうところの「学生語」を含む)を対象としています。
また、この手の辞書の面白いところは、「知らないことばを見つけること」にあると考えているので、用例の多寡は問わず、少ない場合には「用例は少ない」と明記して採録することにしています。
■募集方法
どのようにしてことばを集めるかを検討します。
『中央辞』では、以下のようになっています。
募集方法:Googleフォーム
質問内容:入学年度/学部/見出し語/読み/使い方/備考
※2023年11月より、問い合わせ対応の都合でメールアドレスも回収するようにしました。ただし、この機能の導入には匿名性が失われ、投稿数が減るというデメリットもあります。ご利用は計画的に。
Googleフォームを利用するメリットとしては、回答の管理をGoogleスプレッドシートで行うことができる点にあります。
回答を自動転記する設定にしておくと、投稿があるたびにスプレッドシートへ新しい回答が記録されていきます。
『中央辞』が2ヶ月半という短期間で特設サイトを公開することができたのは、以下の手順でデータを管理していたのが大きいと考えています。
A:Googleフォームの回答から自動転記(フォームの回答1)
↓
B:回答を50音順に並び替える(50音順)
↓
C:語釈を追加する(採録データ)
上に示しているのは、実際に作業しているデータのうち、執筆した語釈を追加し、公開するだけの状態にしてある手順Cのものです。
ここでハッシュタグ(後述)の分類や、実際に特設サイトの更新を行ってくださる入学センターの方とのやり取りもしています。
③用例採集・現地調査
ことばが集まってきたら、実際にそのことばがどのように使われているかを調べる必要があります。
これを、用例採集といいます。
『中央辞』では、主にX(旧Twitter)で用例採集をしています。
以下のような使い方ができます。
■用例採集
自分の大学の学生をたくさんフォローしておいて、「フォロー中のユーザーのみ」に設定して検索すると、学内におけることばの使用状況を確認できます。
■投稿紹介
ポストが拡散されることにより、引用リポストや募集フォームから追加情報を得られることがあります。
また、実際の投稿を紹介することで、どのようにフォームに投稿すればよいのかが分かり、投稿件数全体の増加が期待できます。
■アンケート
アクセントや定着度の調査を行うことができます。
参加型であることも親しみやすさにつながるでしょう。
アンケートについて実例をご紹介します。
「国企」のアクセントについて。
これは、法学部の設置学科「国際企業関係法学科」の略称です。
投稿者から備考欄に「未だにアクセントがトッポなのかホッケなのかわからない」とあったので、アンケートを取ってみました。
アンケートの結果、7割以上が「トッポ」と同じアクセントを使用していたことが分かります。
この結果は、特設サイト版の語釈に反映されています。
また『中央辞』は受験生や新入生を使用者として想定しているため、施設に関する情報の確認も必要となります。
大学公式ホームページなどで調べることも可能ですが、やはり現地で見たほうが早いだけでなく、確実です。
実際、公式ホームページの内容が誤っているものもありました。
ということで、現地調査へレッツゴー!
上のような案内板を、1号館から11号館までほぼ全ての学部棟で集めました。
中央大学多摩キャンパスはディ◯ニーランドより敷地が広いですから、大変でしたね……。
途中建物の中で迷って出れなくなったり、熱中症になったりもしましたが、この作業がなければ『中央辞』は完成しなかったでしょう。
(真夏の調査では、しっかり水分をとるようにしてくださいネ)
現地調査してよかった!!!!という例を2つご紹介します。
1.「さくらひろば」の表記揺れ
「さくらひろば」とは、多摩キャンパスの白門前にある花見スポットです。学内の案内板を見てみると、「さくら広場」と「桜広場」の表記があります。『中央辞』特設サイト版には、この両方の表記を表記見出しとして記載しています。
2.教室番号について
教室番号は、新入生がつまづくもののひとつです。
各キャンパスで示し方が異なるため、調査する必要があります。
(先日のJACET英語辞書研究会でも、「教室番号の一覧はぜひ作ってほしい」とのご意見を中大の先生からいただきました。早急に全キャンパスの調査を行います)
とくにも茗荷谷キャンパスの場合、方角を表すのにN(北)E(東)W(西)のアルファベットを使用しますが、S(南)はなく、その代わりC(Center/中央)があります。
どうですか、楽しくなってきましたね?
現地調査には、たくさんの気づきが潜んでいます。
その他、大学公式ホームページや大学の資料課、図書館などを利用して情報を集めましょう。
④語釈の執筆
さあ、いよいよ語釈(説明文)を書きます。
以下の2点を考えてみましょう。
■載せる要素
語釈に掲載する要素を検討します。
『中央辞』特設サイト版では、以下のようになっています。
仮名見出し/表記見出し/品詞/語釈/用例/参考
※空見出しはなし(サイトの特性上の問題)
#(ハッシュタグ)で位相・分類を提示することもできます。
ここでいう「位相」とは、募集フォームの「入学年度」「学部」に相当します。つまりは属性のことです。
『中央辞』特設サイト版では、以下のようになっています。
位相:学部、キャンパス
分類:暮らし、グルメ、交通、サークル、施設、学び
■辞書調の記述
辞書を普段から読んでいる私も、いざ語釈を書き始めると
「あれ、辞書ってどういうふうに書いているっけ」
となる時間が来ます。
そんなときは、国語辞典やキャンパスことば辞典の記述を参照するとよいでしょう。
『中央辞』執筆にあたり参考にしたのは、主に以下の4冊です。
・岩波国語辞典(参考)
・旺文社国語辞典(品詞)
・三省堂国語辞典(新語・若者言葉)
・早稲田大辞書 2015(キャンパスことば)
私は旺文社国語辞典が好きなので、ベースを旺文社国語辞典にして、他の辞書のよいところを採り入れるかたちにしました。
また、キャンパスことばは少し特殊なので、同じキャンパスことば辞典の記述方法も確認するとよいです。
辞書を書くために辞書を読む。
こんなにも楽しく、学びになることはありません。
おわりに
記事を出すごとに長くなっている気がするな……
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか。
ぜひ皆さんも、キャンパスことば辞典を作ってみてくださいネ。
ガクチカにも、大学の記録にもなります。
もちろん、学生時代の思い出にもなりますよ。
また、おこがましい話ですが、この記事を読んでくださった学生さんにより、多くの大学でキャンパスことば辞典が編まれることになれば、少しでもキャンパスことば研究の一助になるのではないかな、なればいいな……と考えています。
(学問的価値は置いといて、取っ掛かりくらいには)
さて、満足したので私は卒論に戻ることにします。
卒論が終わったら、同人誌版『中央辞』に取り掛かろうと考えているので、完成したときにはまたご報告しますね。
ではでは• ᴥ •
参考文献
稲川智樹ら(2015)『早稲田大辞書 2015』早稲田大学辞書研究会
米川明彦(1997)『若者ことば辞典』東京堂出版
『岩波国語辞典 第八版』岩波書店, 2019年
『旺文社国語辞典 第十一版』旺文社, 2013年
『三省堂国語辞典 第八版』三省堂, 2022年
『中央辞』特設サイトの下のほうにある【参考文献】に、この記事で紹介した以外にも先行研究やキャンパスことば辞典を多数掲載しております。もし面白そう!と思った方がいたら、覗いてみるとよいかもしれません。
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