国語辞典の図版を数える : ③辞書ごとに見る
Lakkaです🐰
みなさま新年あけましておめでとうございます!今年も様々な記事をお届けしたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
少し時間が空いてしまいましたが前回に引き続き、それぞれの辞書の特徴を確認していきたいと思います。
📍はじめに
今回は三省堂から出ている3つの辞書、<三国8><三現新6><新明国8>について見てみましょう。
↓↓ <新選10><現国例5>はこちら ↓↓
↓↓ 概要と結果はこちら ↓↓
💡<三国8>三省堂(2022)を見る
初版:1960年
ターゲット層:中学生~社会人
「三国(サンコク)」の愛称で親しまれる『三省堂国語辞典』は、新語・新語義を積極的に採録していることが特徴です。編纂者の1人、飯間浩明先生は様々なメディアに出演されています。
そんな三省堂国語辞典は、初代編集主幹見坊豪紀(けんぼう ひでとし)による「辞書かがみ論」が有名です。
三省堂国語辞典が目指しているのは"鏡"としての辞書、つまり今使われていることばに重きを置いているということです。ゆえに使われなくなったことばはすぐに削除される傾向があります。その「消えたことば」は2022年の改訂時にメディアを中心に注目を集め、『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』としてまとめられました。
こうした側面が注目されがちな三省堂国語辞典ですが、他にも重要な特色があります。最新版である第八版の序文を見てみましょう。
例えば、みかん【蜜柑】の語釈を見てみましょう。
みかん【蜜柑】《植物名》皮をむくと、ふくろにはいった実がまるくならんでいるくだもの。さわやかなすっぱさとあまさがある。一般にウンシュウミカンを言う。
他の辞書を確認してみると、みかんは「ミカン科の常緑小高木で~」といった説明をされることが多いようです。しかし三省堂国語辞典では見たままの姿が説明されており、それがどんなものか頭の中でイメージすることができます。
<三国8>には390個の図版があり、調査対象の9種類の辞書の中では3番目の多さでした。以下が<三国8>にのみ載っている図版のリストです。(表3)
個人的には「ツインテール」「ポニーテール」「ポンパドール」の図版があるのが面白いと感じました。また「シュシュ」や「ブラウス」の図版もあることから、ファッション分野に力を入れているのではないかと推測されます。
「要するにどんな意味か」を説明する三省堂国語辞典は、ユーザーがそのイメージを湧き起こすような語釈を提示します。その一助として多くの図版が用意されたのではないでしょうか。
💡<三現新6>三省堂(2019)を見る
初版:1988年(当時は『三省堂現代国語辞典』)
ターゲット層:高校生~社会人
唯一の “高校教科書密着型辞書”を自称しており、教科書や入試問題の調査から他の辞書にはないことばを多く採録しています。改訂サイクルが早く、2023年10月に第七版が発売されました。(今回の調査では第六版を使用しています)
第七版では「評論文キーワード」の強化や「重要古語」の採録が行われており、より高校教科書に密着した内容となっています。
こちらも序文を見てみましょう。
新語・新語義の積極的な採録は三省堂国語辞典と共通していますが、高校密着型であることがアピールされています。
<三現新6>には140個の図版がありました。これは9種類の辞書の中で5番目の数ですが、上位4つ(<新選10>574、<旺国11> 466、<三国8> 390、<学現新6>294)を考えると、飛び抜けて多いとは言えません。しかし、図版がその語釈の下や隣ではなく、見開きの左端に集められるという点はかなり特徴的でしょう。類似の工夫がなされている辞書は他にもありますが、三省堂現代新国語辞典は全てのページで一貫してそれが行われています。頑張って再現図を作りました。
三省堂現代新国語辞典は、見やすさを重視しているのではないかと感じました。文字は文字、図版は図版と分けることで、ぱっと見たときに情報が整理しやすく、ユーザーフレンドリーな辞書と言えるでしょう。
<三現新6>のみに載っている図版は62個ありました。これは全体の44.3%と、独自性が高いように思います。(表4)
その中には「家紋」「十二単」「定置網」といった、高校生の学習において必要なものも多く含まれていることがわかります。
三省堂現代新国語辞典の高校教科書に密着する姿勢は、図版にも反映されているのではないでしょうか。
💡<新明国8>三省堂(2020)を見る
初版:1972年
ターゲット層:高校生~社会人
日本でいちばん売れている小型国語辞典と言われており、そのシャープな語釈が度々注目されています。第八版が発売された2020年には、考える人モチーフの新明国グッズが生まれました。今も私の机の上で異彩を放っています。
まず、第五版の序文を見てみましょう。
『三省堂国語辞典』と『新明解国語辞典』の前身はどちらも『明解国語辞典』です。『三省堂国語辞典』の見坊豪紀に対して、山田忠雄は保守的な姿勢をとり、踏み込んだ語釈を書くことに努めました。
例として、れんあい【恋愛】を見てみます。
れんあい【恋愛】
特定の相手に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。
とにかく長い!!!!
しかしかなり踏み込んでいて、本質を突いているように感じられます。
最新版である第八版でも以下のように書かれており、その姿勢は健在です。
源流を同じくする<三国8>とは対照的に、<新明国8>には図版がひとつもありません。これには、ここまで述べてきた新明解国語辞典の特質が大きく関わっていると考えられます。
第八版特設サイトで「考える辞書」宣言をするなど、「言葉の使用例を徹底して調べ尽くした、深い思索の結果としての語釈」を提示する新明解国語辞典は、その事柄をことばで説明することにこだわっているのではないでしょうか。
📍まとめ
<三国8><三現新6><新明国8>についてまとめました。
同じ出版社、特にうち2つは同じ辞書を源流としながらも、異なる方針・特質の辞書であることがわかりました。
次回も引き続き、個別の辞書に注目してまとめていきたいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました!
④を投稿しました!(2024年8月23日追記)