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【特別公開】一人暮らしの歳時記 8月

【注意】この記事は、自由炊事党機関誌「自炊のひろば」第3号に掲載されるはずだった(が諸々間に合わなくて発行中止になってしまった)記事を、特別に公開するものです。都合により予告なく公開範囲を変更しまたは公開を取りやめる場合がありますので、ご了承ください。

8月

茄子

 茄子5本入りの値段が徐々に下がってくると、夏を感じる。200円前後になったところで、そろそろ今シーズンの茄子料理をはじめようかと思い立って、5本入りを買う。1本は小さいように見えても、茄子を5本一気に使い切るのは難しいから、1袋買ったら2品くらいつくることが多い。
 夏バテ気味のときに作るのが、茄子と卵の旨辛炒め。家にある食材で作ってみたら結構美味しかったので、それ以来夏になると必ず作っている。
 卵4個を割りほぐして塩胡椒少々を加え、多めの油を引いたフライパンでさっと炒める。かき混ぜすぎず、固まったところを少しずつ剥がすようにして、半熟で火を止めるのがポイントだ。卵は一旦フライパンから出して、ボウルか食べるとき用の皿にあけておく。玉葱1/2個はスライスしチンして、フライパンに油を足して弱火でみじん切りのニンニクと鷹の爪の香りを出したところに入れて、しばらく炒める。ヘタを落として乱切りにして水に晒した茄子を加えて更に炒め、料理酒を入れて蓋をして弱火で蒸し焼きにする。
 家庭用のコンロでは火力が出ないし、焦げ付かないフライパンを大火力にかけると塗装がはがれるおそれもある。気長にのんびりと火を通しながら、タレを作る。豆板醤、砂糖、醤油、水溶き片栗粉を適当に混ぜて、茄子に火が通ったところでタレを絡める。最後に卵を戻し入れてさっくりと混ぜて、出来上がりだ。
 赤・紫・黄の原色が皿の上で混ざりあい、油をまとった茄子と卵が、パンチのあるタレを受け止めてくれる。麻婆茄子とトマトと卵炒めを合わせたような料理だから、美味しくないはずがない。
 大汗をかきながらご飯をワシワシかきこめば、夏バテ気味だったことを忘れてしまうほどだ。
 もう一つ、毎年欠かせないのがトルコの冷菜「パトゥルジャン・サラタス」。パトゥルジャンは茄子だから、意味はそのまま「茄子のサラダ」。日本人には馴染みが薄いヨーグルトで和えたサラダである。と偉そうに語ってみたが、僕はトルコに行ったこともなければトルコ語がわかるわけでもない。とりあえず、ネット情報を拾い集めて、レシピを見なくても作れるようにはなったが、それが本場の味からどれぐらいかけ離れているのかもわからない。
 とりあえず、自分なりの簡単な作り方を紹介しよう。まず、ザルにキッチンペーパーを置いてヨーグルト1パックを空け、水切りヨーグルトをつくる。ヨーグルトから出てくる水分を受け止められるよう、底にボウルを重ねておく。茄子からよく水分が出るから、一晩かけてよく水をきるのがおすすめだ。
 茄子5本は軽く洗って、予熱した魚焼きグリルに入れて強火で皮を焦がす。
 短時間で火を入れてしまうのと、全面まっ黒焦げにするのがポイントだ。焼け残りがないことを確認してから、冷水をとったボウルに空けてジュッと冷まし、粗熱が取れたところで皮をむく。表面は冷めても、触っている間に中から熱い汁が飛び出してくる場合もあるから注意されたい。ボウルの中で焦げた皮をペリペリと剥がし、むき身になった茄子の水気を軽く絞り、まな板に引き上げてトントントンと叩く。
 細かいみじん切りにしたニンニク1カケ分と、レモン汁1/2個分とともに、水切りヨーグルトと茄子をよく和える。塩を多めに振って、オリーブオイルで少し伸ばしたら出来上がりだ。
 一日経つと茄子の水が出てくるが、よく混ぜてから食べると生ニンニクの角が取れて味が染み込んでいる。クラッカーや薄切りにしたバゲットにスプーンで山盛りに乗せて食べると、ほんのり酸味の効いた爽やかな味。茄子の身にはかすかに表面のこんがり焼けた香りが残って食欲をそそる。

パトゥルジャン・サラタス

 冷えた白ワインと合わせると、一品だけで素晴らしい晩酌になる。茄子5本とヨーグルト1パックで、丼いっぱいにできるから、数日は楽しめる。
 ちなみに、水切りヨーグルトを作るときに出てくる水分(ホエイ)は、栄養豊富らしいから毎回その場で飲んでしまっている。色々な使い道はあるらしいが、一品作れば満足してしまうからホエイを使った料理には手を出せていない。

イワシ

 料理にハマりはじめて、魚をさばけるようになりたいと思った。一度、動画を見ながら真鯛をさばいたことはあるが、身はガタガタで骨に身が残り、散々な結果だった。アジやイワシなら手開きによってさばけるというから、やってみたら意外と簡単だった。
 それ以来、目が透き通ったアジやイワシが氷の入った発泡スチロールに並んでいるのを見ると、つい買ってしまうようになった。
 イワシのエラに指を入れて頭をひねり落とし、そこから腹に指を進めていって開ききったら、ハラワタを取り除く。途中で切れないよう、力加減に注意が必要である。軽くなった身を腹開きにして背骨と背骨についた骨を合わせて外し、背びれのところでポキっと追って二枚におろす。
 手開きにしたイワシは不格好で崩れやすいから、フライにしてしまうことが多い。おろしたイワシはキッチンペーパーで水気をよく拭き取り、塩コショウを両面にしておく。その間に衣を用意しよう。
 薄力粉を薄くまぶしたイワシの身に卵液をまとわせ、たっぷりのパン粉をまぶす。こぼれたパン粉を両手ですくい、身の上にまんべんなくかける。これを両面繰り返して、油を熱したフライパンで揚げ焼きにする。一人分なら、小さなフライパン1cmほど油を敷くだけで十分だ。下側がこんがりとしてきて、上面まで火が通り始めるまで、決して動かしてはいけない。動かすと衣が剥がれてしまうから、大人しく待ち続ける。廃油の処理は面倒だし捨てるのもしのびないから、最低限の油で揚げ焼きにしている。
 一つずつ着実に揚げている間に、よく手を洗ってキャベツの千切りやトマトの櫛形切りを用意しておく。
 揚がったフライはキッチンペーパーを敷いた皿に並べておく。全部揚げ終えたら、すぐに食べる分だけ付け合わせを載せた皿に移して、残りはキッチンペーパーを替えてラップをかけて保存する。中濃ソースや櫛形に切ったレモン、辛子などを用意して食べるのだが、これが抜群に美味い。サクッとした衣からは青魚の独特の香りを帯びた脂が溶け出し、ふわりとした食感の身はコクがあってご飯にもビールにも合う。

イワシのフライ

 食べ終えたらすぐに、イワシの頭と骨を小さなビニール袋にまとめて捨てるのがポイントだ。幸いなことに我が家のゴミ集積所はいつ出しても構わないから、夏に魚を食べるときはすぐに捨てるようにしている。
 イワシを手開きにして、フライを作り、キャベツの千切りなんかも用意するから、決して簡単な料理ではない。それでもスーパーで新鮮なイワシを見るたびに作りたくなるから、季節の魔法がかかっていると言っても過言ではないだろう。


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