会員制の粉雪　＃毎週ショートショートnote

　一人暮らしを始めた姉のアパートへ行くと、「すこやか歓節」と書かれた未開封の袋がそこここに転がっていた。コンドロイチンやグルコサミンという文字が見える。いくらミーハーな姉でも先を行き過ぎている。来たばかりの私への第一声は、ここのシャインマスカットのタルトが人気なんだって、今から行かない？だった。

　店頭で一時間待ち、ようやく案内されると、景色がいいからという姉の意向で、陽光眩いテラス席に座った。間もなく運ばれてきたタルトに気づいていないのか、姉は夢中でスマホをタップしていた。私が、お先にと口を開けるやいなや、フォークの代わりにパールの飾りが付いたスマホを持たされた。唖然としていると、姉がふいにスクワットの姿勢を取ったため、うっかりスマホを滑らせかけた。同時に姉の鞄から、ブーンと季節外れのカブトムシが飛び出した。よく見れば、ごく小さなドローンだ。姉の頭上近くでホバリングし、粉雪を舞わせ始める。
「ほら、早く撮って！５秒しか降らないんだから！」
　私は言われるがまま、夢中でシャッターボタンを連打した。

　帰りの電車でスマホを見ていると、粉雪のリアルエフェクトを纏い、タルト片手にすまし顔の姉の写真がSNSに投稿されていた。下へスワイプすると広告が流れ始めた。
――すこやか歓節プラチナ会員になると、今なら散歩がちょっと涼しくなる粉雪ドローンプレゼント。

＜了＞

---

※ヘッダー画像は、Adobe Fireflyで生成したものです。

---

たらはかに（田原にか）様の下記の企画へ参加しています。