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地域金融機関のビジネスモデル転換~サプライチェーンファイナンスを中心としたDX戦略~

1 中小企業はより良い資金調達環境を求め続ける

 前回、資産担保貸付(ABL:Asset-Based Lending)について、私の貸付の実務経験も踏まえながら、調達をしてみたいという中小企業経営者や経理担当者向けの情報収集的な記事を書かせていただきました。

 そこでは貸し手となる金融機関も借り手側のニーズに高度に応え続けていくことの重要性にも触れました。借り手側も情報を得る機会が増えています。Fintech技術の活用やクラウドファンディング等の調達手法を目にする機会も増えています。このことについて、金融機関内部では強い危機感があることも想像に難くありません。

2 地方銀行と信用金庫の現状と活路

 近年、金融環境の変化は大手銀行よりもむしろ地方銀行や信用金庫に大きな影響を及ぼしています。低金利政策の継続により、これら地方の金融機関もまた、伝統的な収益モデル、特に利息収入の減少に直面しています。さらに為替の影響も受けています。
 11月14日には、"東京証券取引所などに株式を上場する地方銀行・グループ74社の2023年9月中間決算が14日、出そろった。全体の約6割となる44社の純利益が前年同期から減少し、1社は純損益が赤字だった。"という報道もありました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/df68345e220d8d63bd4a8d7a2c905b032a281c33


 この収益減少傾向は、地方経済の低迷と相まって、これら機関にとって二重の打撃となっています。 さらに、1でも触れましたが、Fintechの台頭も、地方銀行や信用金庫に大きな課題をもたらしています。これらの金融機関は、大手金融機関に比べてデジタル化への投資が限られています。新しい技術の導入に追いつくための投資原資が限られており、また、デジタル化への適応能力も鈍る傾向にあります。しかし、顧客はSNSの活用や非金融取引に金融機能が組み込まれている状況下で、サービスへの要求水準が極めて高いです。特に若年層の間では、デジタルサービスの利用が当たり前となっています。 これに対応するために、地方銀行や信用金庫としても、業務効率化や地域密着型サービスの強化に力を入れているとのニュースを目にしますし、制約があるとはいえ、デジタル技術の導入も進めています。モバイルバンキング、オンラインでのローン申請などの事例も目にします。変革を遂げることは容易ではありませんが、成功すれば地域経済の活性化に存在感と貢献を示し、地域事情にあった金融サービスを提供できるようになります。


3 サプライチェーンファイナンスの実践への期待

 サプライチェーンファイナンスは、サプライチェーン上の各企業が資金調達を容易に行えるようにする金融サービスです。サプライチェーンの全体最適化、企業間取引で発生するキャッシュフローのギャップ解消、効率的な資金循環を促進するという観点での売掛金のファクタリングや在庫の担保による融資などが含まれています。
 サプライチェーンファイナンスの一形態である在庫ファイナンスとABLは似ていると思われがちですが、実は異なります。在庫ファイナンスは、企業が保有する在庫を利用した資金調達です。一方、ABLはより広範な資産を担保にした融資で、在庫だけでなく、設備や売掛金も含まれます。在庫ファイナンスはABLの一部分と考えることができますが、特に在庫資産に特化しています。
 在庫ファイナンスでは、在庫の買い取りやオフバランス取引も含まれることがあります。ただ、オフバランスにおいては、銀行が直接在庫を買い取る役割を担いません。銀行の主な役割は貸し手としての機能を果たし、在庫を担保にした融資を提供することに限られます。在庫の直接的な買い取りは専門のファイナンス会社や第三者機関によって行われることになります。これらの機関は企業の在庫を購入し、後に企業に再販する形での取引を行ったりします。この取引は企業の財務諸表から在庫をオフバランスさせることができ、財務の健全化に寄与します。また、サプライチェーン上の最適化の機能も果たします。
 専門ファイナンス会社はアレンジャーとしての機能も果たします。銀行が自らのリソースやネットワーク内では在庫ファイナンスを完全にアレンジできない場合があります。この場合、専門のファイナンス企業にこのサービスをアウトソーシングするという選択肢もあります。これにより、銀行は新たな取り組みにおいても一定のリスクコントロールが図れ、専門のファイナンス会社は自らの得意領域である在庫評価やリスク管理をサービスとして提供する役割分担が図れます。
 サプライチェーンファイナンスに関して、従来の商社機能との類似点があるかもしれませんが、その焦点は異なります。商社における金融機能は、主に自社が関わる取引の促進を主眼とし、物理的な取引に密接に関連しています。金融機能の範囲は、商品の購入、輸送、販売といった貿易等になります。一方、サプライチェーンファイナンスは、企業の資金調達と流動性の管理、チェーン全体としてのキャッシュフロー最適化に焦点が当たります。


4 地域経済圏確立の中心はDXを推進する地域金融機関でありたい

 サプライチェーンファイナンスは、大手行のグローバルなサプライチェーンの強靭化という観点でも検討されていますが、私は地域金融機関が積極的に参加する地域経済圏の活性化に関心があります。地域金融機関がサプライチェーンファイナンスを推進することは、企業単体や商流のみならず、さまざまな関連取引先や地域と共に成長するための動機付けにもなります。その意識から新たな地域社会の課題解決への発想も生まれることになります。資金とデータを利活用してこその地域DXの推進役としての適任者が地域金融機関であることが望ましいと思います。
 小規模な経済圏が成立していけば、資金調達の枠組みそのものも再定義されていくことになります。地域中小企業の経営革新はもちろんのこと、金融機関にとって新しい収益モデルの確保のプラットフォーマーへの展開可能性も十分にあります。さらなる理解と実践で地域経済の未来を切り拓いていただきたいと願っています。

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