見出し画像

松平頼曉声楽作品集

画像1

今まで、CD、レコードではあまり聴くことが出来なかった、松平頼暁の声楽作品を6曲集めたCDが来月リリースされます。収録作品は、収録順に

画像2

《アーロンのための悲歌》(1974) 太田真紀(Sop)

《歌う木の下で》(2012,19) 太田真紀(Sop)、溝入敬三(Cb)

《ローテーションII》(2011) 太田真紀(Sop)、白井奈緒美(Sax)

《時の声》(2013)太田真紀(Sop)、山田岳(e-Gt)

《サブスティテューション》(1972) 太田真紀(Sop)、中村和枝(Pf)

《反射係数》(1979,80) 太田真紀(Sop)、甲斐史子(Vla)、中村和枝(Pf)

の6作品です。

昨年10月30日、東京オペラシティ・リサイタルホールにて開催された個展で演奏された作品が主となりますが、サクソフォンとのデュオ《ローテーションII》は、当日には演奏されなかったものです(サックスの白井が、当時は遠方に在住だったため)。

私は、ブックレットのライナーを書き、写真を撮り、ノンクレジットで某曲の演奏にも参加しております。結構働いた。でも太田真紀はさらに頑張っております。常々、太田のコンサートに通っている方からも、今まで聴いた限り、彼女の最高のパフォーマンスだったとのお言葉を頂戴しております。

さて、松平頼暁は、間違いなく現代日本最高の、というより世界レベルでトップクラスの作曲家の一人ですが、玄人筋(後継世代の作曲家やコンサートに足しげく通う現代音楽ファン)の評価に、まだまだ音楽界が追いついておりません。その原因の一つに、今まで松平頼曉が自作の録音にさほど熱心でなかったことが挙げられましょう。松平頼曉の作品集といえば、fontecから2枚、Naxosから旧放送録音などを集めたものが1枚、ALMコジマ録音からピアノ作品集が2枚。これだけしか出ていません。うち、fontecから出ていた管弦楽作品集は現在版元品切れ。CDで聴くことが出来る松平頼曉作品は、オペラから電子音楽に跨る膨大な作品群のうちの、ほんの一部分でしかないのです。

加えて、松平頼曉には、その作品を聴けばその作曲家の全てが理解可能な、たとえばメシアンにおける《アッシジの聖フランチェスコ》のような作品があるわけではないのです。今回の作品集に収録された6作品にしても各々驚くほどに違う。ただ、全ての作品を聴けば、どれにも紛れもない松平頼暁の個性が刻印されている、必ずやそのことに気付くはずです。松平頼暁の評価は、一見アナーキーなほどに多方面へ拡散している、複数の作品の共通点を認識することから始まります。多様なコンセプトに基づき、かつ音色的にも多彩な今回の新譜は、松平頼曉入門にこの上ない一枚となるに違いありません。当盤に親しんだ上で、松平頼曉の他の音盤、たとえばピアノ組曲《24のエッセーズ》や管弦楽作品集を聴くなら、目から鱗が落ちるように、作曲におけるそのアイディアの凝らされようが判るようになるかと思います。もしそれでも判らないことがあれば、私が過去に書いた解説「松平頼曉のための祝詞」が理解の助けとなるでしょう。

それにしても、収録曲のうち半数は80歳を超えて書かれたものだというのに、この若々しさには正直驚愕する他ありません。「若さが単に年齢で計られると思うなら大間違いだ。自らに新しい何かを取り込ための、隙間を空けておくしなやかさこそが若さ」(「松平頼曉のための祝詞」)なのです。

加えて、《反射係数》は、潜伏キリシタンのオラショとそのオリジナルであるグレゴリオ聖歌との対照がコンセプトで、4月に亡くなった皆川達夫氏の仕事に多くを拠っています。松平頼暁と皆川達夫とは、立教大学として理系・文系の垣根を越えて情報を交換する仲でありました。と同時に、水戸藩主徳川頼房の末裔と水戸藩士皆川氏の末裔という関係ともいえます。

このように、諸々の理由から、2020年にはこれがあった、と後々に回想される一枚となることは、まず間違いないかと思われます。

ご期待ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?