見出し画像

トリのトリコ(はい笑うとこです)

30代半ばまでは、やたら出張する営業職についていた。ご当地グルメやご当地スーパー、比較食文化が大好きな自分にはうってつけの職業だったと思う。ふだんは家から一歩も出たくないインドア派だが、好きなスーパーのためなら靴をはける。それが見知らぬ土地のまだ見ぬローカルチェーンならなおさらだ。なので「〇〇県の地元スーパーで大ヒットを飛ばしているあれ」なんて記事を業界誌で読んだらもうたまらない。そのスーパーに出張帰りに寄れる距離感の客先を探す。なかったら作る。当時とある大きめの会社の口座を開いたことで、東京本社や他の営業所の人からめっちゃ感謝されたことがあるが、まさかその原動力が「スーパーに行きたいから」だとは部長も専務も夢にも思わなかったに違いない。

そんなわけで当時の私ときたら、客先はすべて食べ物に見えていた。A電気は豚まん、B商事はシュークリーム、Cシステムは豚足とちまき。電光石火の素早さで商談を済ませたら、一刻も早く街に出る。商店街があれば散策し、スーパーがあればローカルメーカーを探し、デパートがあれば地下に潜る。そんなある日のこと。私は新幹線の止まる街で、そう期待もしないで生の鶏肉を買って帰った。

その鶏肉がなんともおいしかった。普通にフライパンで焼いて塩胡椒しただけなのに、とてもクリアできれいな味がする。鶏肉というものは、近所のどの店で買おうともパックを開けた時には独特の鶏肉臭があるものだが、それがない。かといって薬で洗浄したとかいう話ではない。臭みを消すための激しい味つけを施してあるというのでもない。まるで「すっぴんできれいな人が、すっくと素のまま背筋を伸ばして立っている」かのような透明感なのである。

それからしばらくは、その鶏肉のトリコになった。その鶏が買いたいがために、その街に出張するという本末転倒。出張帰りのスーツ姿で、大きな丸鶏を抱えて帰ってくるのも二度や三度ではない。ついには休日を潰して、自腹で新幹線に乗ってまで鶏肉を買いに行くようになった。たかが友達とクリスマス宴会するために、新幹線で買いに行ったこともある。えらく高いクリスマスチキンになってしまった。

焼き鳥3

そこまで私をトリコにした鶏とは、どんな高名な地鶏かと気になることだろう。だがこの鶏は地鶏ではない。なんと鶏種はいわゆるブロイラーと同じ。ただし餌を吟味し、飼育期間を通常より長く取り、開放鶏舎による平飼いで大事に大事に育てられた、分類上は「銘柄鶏」と言われるものだ。それまで私自身が「おいしい鶏=地鶏」と思い込んでいただけに、それを知ったときはひどく驚いた。

ちなみに鶏全体の中で「地鶏」を名乗れるのは、わずか1%にすぎないんだそうだ。それもそのはず。調べると「地鶏」と名乗るためには、とてもとてもめんどくさい基準がある。ちょっと書いてみよう。

明治時代までに国内で成立・または導入された在来種の血が50%以上の、出生証明ができる素びなを使用。孵化から80日以上飼育、かつ28日齢以降は1㎡あたり10羽以下で平飼いで飼育されたもの


味ではない。血筋である。血筋と育ちなのである。貴族か。これがホントの鳥貴族か。つまりこの基準からひとつでもはずれたものは、もう地鶏を名乗ってはいけない。「在来種の血が48%」だったり「1㎡あたり11羽」で飼ったりしようもんなら、どんなに美味しくても問答無用で貴族の称号をはずされてしまう。ただし飼育方法や飼料に工夫がしてあることを明記できれば「銘柄鶏」を名乗ることはできる。

匂わせ

レコード会社にいた友人は、海外から来日したミュージシャンの世話をするのが仕事だった。特に食事は重要で、連れて行く店には毎回悩まされたという。日本に来たから日本料理を食べたい人もいれば、日本だろうがどこだろうが自分スタイルを完璧に通さないと気が済まない人もいる。人それぞれに信じる神があり、守るべきオキテがあり、好き嫌いも千差万別である。

だが焼き鳥屋なら、なんとかなることが多いのだという。素人頭では「世界中で最もタブーがないのは羊肉」かと思うのだが、鶏肉というより、焼き鳥という料理がいいらしい。甘辛いたれが日本料理のテイストっぽくあること、どんな地方へいっても名店があること、そして何よりお値段が優しいこと。ポール・ウエラーとサシ飲みする羽目になったのも、名古屋の焼き鳥屋だったそうだ。あーうらやま。

昨日はオットのリクエストと、下北沢オオゼキの特売リストが合致して、久しぶりに家で焼き鳥を作った。その中で、数人の方に作り方を尋ねられた「柚子塩つくね」のレシピを公開しよう。

うち焼き鳥

【柚子塩つくね】

鶏モモひき肉 300g
塩 小さじ1/3
卵白 1/2個
柚子皮のみじん切り 小さじ1〜

・ひき肉と塩だけをボウルに入れ、ねばりが出るまでよく混ぜる。

・卵白を入れ全体によく混ぜたら、柚子皮を入れ均等に混ぜる。

・串に巻きつけるように肉をまとわせる。

・軽く塩をふって、備長炭や、電気式焼き鳥機、魚焼きグリル、フライパン、ホットプレートなど好きな熱源で焼く。鶏肉の生はダメ絶対、なので中まできっちり火を通すこと。大丈夫、やってるうちに「中まで火が入ったけどパサつかないジューシーつくね」が焼けるようになるから。

つくね

割と単純な料理である。肉と塩だけを最初にねばりが出るまで混ぜるのがコツといえばコツだが、全部一度に混ぜてしまってもなんとかなる。なんとかしてきた。

玉ねぎや長ネギのみじん切りを加えてもいい。入れるとしたら小さじ1〜大さじ1くらいかな。私は肉肉しいつくねが好きなので、入れるとしても少なめである。

生姜の絞り汁、もしくはすりおろしたものを小さじ1程度入れてもいい。柚子がないときは生姜は特に有効。山椒や胡椒もイケる。

なま焼き鳥

生のひき肉は串からハズレやすいので、平らな串を使うか、入手できなければ画像のように普通の串を2本取りにして使う。

生から焼くと失敗するのが怖い人は、先に軽く火を通すやり方もある。店によってやり方は違うが、私は表面だけさっと揚げておくのが好き。串にさすのが下手な人も、揚げてからあら熱が取れた状態のものを串刺しすると簡単である。

今回は柚子の風味を生かすため塩だけでいただいたが、プレーンなつくねにいろいろなソースを添えて食べるのも大好きだ。次回はそれも教えます☆

焼き鳥たくさん


めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。