見出し画像

たけのこの山

タケノコの季節である。

「シーズンに何度も」とツイートにあるのは嘘ではない。ビニール袋に入った2〜3本のタケノコが週に一度はやってくる。週に二度だったり、6本だったりもする。自分はもう年だから食べきれないからとおっしゃるものを無下に断るのも悪いからありがたくもらうものの、お裾分けするような友人もそんなにはおらず、しまいには穂先の柔らかいとこだけ食べてあとは捨てるみたいな罰当たりをしていた。天国でおばあちゃんに会ったら謝りたい。あとこんなコンクリートジャングル世田谷のどこでタケノコ堀りをしていたのかも問い詰めたい。

タケノコを大量にもらっていたことは過去にもあった。最初の結婚は神社の嫁だったことは何度もお話ししているので「またか」と思われるだろうが、今回も当時の話である。あの数年間は、タケノコ地獄の日々だったのだ。

神社の周囲は竹林で、春になれば無数のタケノコが出る。山あいの集落のさらに小高い山に神社はあったので、そこはさながら「たけのこの里」ならぬ「たけのこの山」だ。兼業神主だった義父はちょうど仕事をやめ神職のみに切り替えたばかりで、ヒマと体力が有り余っていた。なので春は毎日山をくまなく歩きまくり、目についたタケノコはすべて収穫していたものだ。

そこそこ広い竹林だから、毎日歩けば、毎日収穫はある。シーズン初めは「まだ土の中にいるタケノコを探すのがコツだ」などと味を重視し、取捨選択する余裕を見せているが、数日を待たずとして「掘る喜び」のスイッチが入る。このスイッチが入ってからが、たけのこ山の本番だ。義父は掘る。ひたすら掘る。目に入ったタケノコはすべてこの世から駆逐してやるとばかりに破壊行動を繰り返す。もう義父の頭からは「旬のタケノコを美味しくいただく」などというノンキな発想は消えている。ただ掘る。掘るために掘る。オノレの欲望のためだけに掘る。「お義父さん、それもうタケノコじゃなくて竹だよ。育ちすぎてる」と言われても、無視して掘る。小一時間もすれば手押し車はタケノコでいっぱいだ。

義父はタケノコに取り憑かれていた。来る日も来る日も手押し車いっぱいのタケノコを家に持ち帰り、茹で、いくらかは近所に配り、いくらかは自分らでも食べ、そしてほとんどは「息子夫婦にあげるため」に冷蔵庫へしまわれる。週末、いつものように義実家へ行くとキッチンの冷蔵庫も、離れの冷蔵庫も、車庫にある冷凍庫もタケノコ、タケノコ、タケノコだらけだ。なのに「おお来たか。ちょうど茹で上がるところだぞ」と今朝の分をさらに追加しようとしている。それが毎週だ。なんだこれは。スティーブン・キングが書いたホラーか。地球侵略を企てるタケノコ星人が、食べさせることで人間を宿主とし仲間を増やそうとしているのか。タイトルは「たけのこ山の男」なのか。いやそんなことよりこのタケノコの量!

どんなに断っても「いいから、持っていきなさい」とタケノコが山のように車に乗せられる。女の力では持ち上げられない重さの段ボールが、次々と後部座席にも押し込められる。例の「タケノコというより竹」もちゃんと入ってる。せいぜい頑張ってレパートリーを増やし、職場の人にもお裾分けなどしたが、それでさばききれるような量ではなかった。申し訳ないが、9割は捨てていたと思う。でも全部食べてたらタケノコ星人に体を乗っ取られてたから、それでよかったんだよ。な?知らんけど。


【タケノコご飯・タイプAとB】

結婚する前からタケノコご飯は好きでよく作っていた。その頃よく作っていたのは、スーパーで茹でタケノコを買ってきて、鶏肉・人参・干し椎茸などと一緒に醤油味で炊いたもので、オーソドックスな炊き込みご飯にタケノコが加わっただけのものだった。それはそれで美味しいけど、今は自分でゆでたタケノコを使い、タケノコを味わうためのご飯を作っている。

・タイプA(白いタケノコご飯)

鰹節をきかせただしを取る
タケノコは根元の方を細かく、先の方は大きめに切る
油揚げは米粒と同じくらいの細かさに切る
だしは塩でお吸い物として飲めるくらいに味つけし、香りづけ程度にほんの少しの薄口醤油をたらす
米を研いだら炊飯器に入れ、だしを規定の量まで入れる。上にタケノコと油揚げを乗せて一緒に炊き上げる

・タイプB(茶色いタケノコご飯)

だし、醤油、みりんで甘辛い、茶色い煮汁を作る(甘めが好きなら砂糖も)
タケノコは根元の方を細かく、先の方は大きめに切る
汁気を吸わせつつタケノコにしっかり味が入るまで煮含める(汁気はあまり残ってない状態)
ご飯は固めに水加減して炊き始める
スイッチが切れたらタケノコを汁ごと米に加え、蒸らす
蒸らし終えたらよく混ぜて出来上がり

この画像↑は醤油は醤油でも「白たまり」で作ったからちっとも茶色くないけど、作り方は同じなので、みんなの心の中で茶色くして見てね。



めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。