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劇団5454『ト音』感想

ファンレター

こんにちは。いろはです。『ト音』お疲れ様でした。とても印象に残る舞台でしたので感動し、是非とも感想をおかきしたく筆を取りました。
少し話が遡るのですが、私が松田昇大さんを応援しようと思ったきっかけはヒプノシスマイク Rule The stageです。松田さん演じる二郎の演技、歌、ダンスはもちろん、演出の豪華さ、耳に残る特徴的なリズムのラップに魅了されました。あまりにその中でも二郎くんが輝いていたので、松田さんの別の舞台にも行ってみようと思い、ブレークフリースターズにも行きました。そこでもラップを楽しめて、とても楽しかったです。
しかし、松田さんという役者さんを好きになり、様々な舞台を見に行けたのがMateyになっての1番の幸せでした。私は元々舞台に行く習慣が無かったので。しかし、ブレークフリースターズ以降、松田さんの舞台を楽しみつつも、ラップやダンスとはかけ離れた舞台なのが少し寂しく思いました。また、神無くんのように二郎くんに似た無邪気で、人好きのするキャラクターだと嬉しくなりました。つまり、どうしても最初に好きになった二郎くんの面影を追ってしまっていたのです。でも、いくらデュークくんがラップしてても、神無くんが無邪気でも、二郎くんでは決してないし、そう思ったり求めたりすることは松田さんに失礼だなと思いつつも、どうしてもまた二郎くんみたいな役をやって欲しいなと願っていました。
今回の藤くんはいい意味で私のその感情を壊してくれました。私は、またか弱い松田昇大さんの役をみたいって思ったんです。繊細で、日常の中に悲しみと弱さと辛さがあって、それを表現するのが偉そうな言い方になりますが、松田昇大さんの凄い魅力だと思います。
『ト音』が発表された時、私はまだ前述のような感情を持っていたので、松田昇大の主演舞台、ということにしか興味がありませんでした。内容を見て分かったのですが、ネタバレが極端に少なかったことや真面目そうなチラシなど、「あぁ、今回は二郎くんと遠いタイプの舞台だ」と思いました。でも、松田さんの主演ということで、チケットはきちんと前の方の席を取ろうとして、2日目のA列を取ることが出来ました。でも、学校もあるし……と思いつつ、舞台はナマモノだという松田さんの言葉を思い出して、学校帰りに咎人の刻印ぶりに紀伊国屋ホールを訪れました。
何も予習していなかったので、最初は松田さん演じる藤くんが、気の弱そうなか弱いキャラクターであることに驚きました。何となく、松田さんは二郎くん、神無くんのような無邪気なキャラクター、國神 やデューク、伊織のようなクールなキャラクター、どちらかを演じることが多い印象だったからです。
しかし、悪い気はしませんでした。私も学校ではどこか人が怖くていつも怖気付いているような生徒だったからです。
しかし、藤くんは人見知りとか、大人しいとか、そういうことに収まらない奇妙さが気になり始めました。そこで私はフィクションにありがちなことに、藤くんは自閉症などの発達障害なのでは無いかと思うようになりました。独特な話し方、人と全く関わらなくても許されているところ、「藤くんの居場所を作らなければ」と先生が気遣われる感じ。そして極めつけは、2人が声を合わせて「会議を始めます。よろしくお願いします」と言うところが気になりました。私はそれを特定の行動にルーティンのきっかけとなる声かけを決める自閉症などの療育のひとつではないかと思いました。
そう思った理由は他にもあります。私の高校時代は人が怖くて、人との交流を避けていて、それは私が発達障害だったからです。
もちろんわかっています、藤くんが発達障害だという事実や設定はありません。
でも、舞台を見て、私はそんな妄想を介して藤くんに感情移入出来て、泣いたことは紛れもない事実です。
私は高校一年生の頃に発達障害だと分かりました。他の生徒と話せなくなったんです。他の生徒が怖かったんです。私とは違うことが。私とは違い発達障害を持っていないことが、怖かったんです。嘘が見える藤くんが、嘘を見えてしまう自分ではなく、嘘が見えない、ノーマルなはずのみんながとっても怖かったように。人と話す時、俯いて足を震わせて、喉を絞り出すように離す藤くんが今でも脳裏に焼き付いています。そのくらい怖いんです。私たちにとって、「人と関わる」「人と人間関係を築く」ということは。藤くんは、多人格を作ることで人との関わりを断ちました。
私も、そのような能力は持っていませんが、とある方法で関わりを断ち切ることが出来ました。『配慮申請』『合理的配慮』です。最近の学校は発達障害を持つ子供にきちんと配慮しないといけません。私はそれを悪用したことは決してありません。でも、例えば「人との関わりが苦手」と言っても、完全に絶つことも出来れば、少しづつ挑戦するなど、いろいろなやり方を選べます。私は、ほとんど完全に断ちました。厳密には色々話したりしたと思いますが、「私はこの子達と違う種族だ」「卒業まで、最低限の会話のラリーを続けよう」と思い、本当の意味での『人間関係』は、程遠いものでした。私にも秋生くんが欲しかったなぁ。藤くんが懐くのもわかるなぁ。でも、そんな都合のいい存在がいるのだろうか、と秋生くんの前だと顔を綻ばせる藤くん、それ以外だと固くなる藤くんを見ていました。コミカルな会話劇の合間に笑いつつも私はところどころ、辛かった高校生活を思い出していました。
自分がおかしいって思われてること、先生たちの接し方で分かるよな、と「俺たち、何かおかしいですか」と心底怖そうに聞く2人を見て思いました。分かるんです。どれだけ気を使っていても「いろはさんは障害だから」と思っているのが、嘘が見える2人のように、分かるんです。辛いんです。
先生の腫れ物に触る話し方も、分かったような話し方も怖いよな、と最後の場面でも思いました。古谷先生のこと、藤くんは本当に好きなんでしょうか。私は嫌いです。
藤くんの足の特徴的な震えは私を安心させました。人と関わることってあんなに辛いんです。辛いって思っていいし、辛い人だっているんです。でも、関わらないと人間は生きていけないんです。藤くんの足の震えに乗って、私の過去の辛さ弱さ脆さが思い出されました。私は彼がどのくらい脆いか痛いほど分かりました。
藤くん、1人の人間として人と関わらないといけないことって辛いよね。私は「あの子は健常者、私は障害者」ってバリアを張りました。藤くんも、多人格を作ることでバリアを張りました。
私、大学でそのバリアを解きました。ちゃんと、1人の人間として関わることにしました。怖いけど。足が震えるけど。(松田昇大の足は長いので震える演技が効果的でした。)
藤くんも謹慎期間が開けて、どうやら「一人の人として人と関わる」ということをもう一度始めたようです。
藤くんは私と違って発達障害じゃないし、嘘が見えるし、何もかも違うけど、舞台の不思議な魔法で2人の人生はリンクしました。
藤くんは私の心の中にいるし、私は藤くんが頑張っていることを知っています。藤くんの足が今も震えていることを知っています。
だからこそ、私も、今日も、頑張れるのです。
素敵な舞台を、経験を、松田昇大さん、ありがとうございました。

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