エピソード1

『椎名桔平とジョディ・フォスター』(エピソード1)


こんにちは。

いち編集部のリアルです。

椎名桔平とジョディ・フォスター。

2人ともすごく好きな俳優さんでして、椎名桔平といえば、やっぱり『アウトレイジ』のいかにも悪そうな、いつもほくそ笑みを浮かべた演技が印象的で、ちょっぴりセクシー、最後のシーンは袋を頭から被せられて悲惨だったけど、アウトレイジで一番ヤクザを演じていたのは北野武でなくて、椎名桔平。と思うのですよね。

アウトレイジ

出典:https://www.hachi8.me/even-if-kuhei-shiina-of-outrage-is-saying-anything/

そういえば、私の周りには椎名桔平のように肌がほんのり浅黒くて、苦み走った表情で、ちょっと短髪。それでいて颯爽として、笑うと白い歯がチャーミング、そんな医療関係者が2人います。1人はdoctorで鹿児島で救急医としてドクターヘリやドクターカーを駆使する救命のスペシャリスト。もう1人はスポーツ関連のphysical therapist(PT)。日ごろからとてもお世話になっています。

本を出すときは、①企画、②制作、③販売という工程が1セットになりますが、当然①がよくても②がダメなら「×」、②がよくてもそもそも①がダメならやっぱり「×」、③がよくても①②がダメなら救いようもなく「×」で、とどのつまり、これらは三位一体組み合わさって、はじめていい本ができるわけです。

それと、もう1つ、④時の運がなければ、いい本でも「読まれるとは限りません」。この④に恵まれるか、恵まれないかは、たらればさんの呟きでありませんが「徳を積みましたなぁ~」と申しますか、編集者のスキルや努力以外の領域の問題でして、いってみれば「徳」(もちろん著者のそれが一番左右しますが)のようなもの、人間力や人徳、陰徳のようなものの積み重ねの中から、ようやく天のおこぼれとしていただけるのかもしれません(なんとなくですが、この頃そう思うようになりました)。

で、2人の椎名桔平さんには、①の企画のとき、企画の目利きをお願いする関係性です。企画取材とか、ヒアリングとか、ユーザー調査、とか言いますが、いち編集部のリアルでは医療系の出版物が多いため、「ぶっちゃけ、この本つくってお医者さんに売れますかね」「研修医のカリキュラムにあった内容でしょうか」「この値段だと、手が届きます…?」「こんな本、今までなかった視点じゃないですか…」という感じで、企画通過の肝となる言質(げんち)を医療専門職に伺うわけです。ま、ヒアリングに行く前にさんざん内部で吟味するので、ドクター取材の際には、もう8割方、頭の中ではGoサインなのですが、最後のひと押し「いや~、この企画、いいっすよ。医療者も買うし、私もほしいかな…」といった確証を求めにお伺いする、といった感じでしょうか。

もちろん若い頃は、もう医学の世界なんて、右も左も上も下もわからない雪山の遭難状態でしたので、本当にゼロベースで訓えを乞うという聞き方が多かったのですが、年の功と申しますか、根ほり葉ほり訊かなくても企画の勘所はだいたい掴めるお年頃(ふふふ…)、なのかもしれません。


それと、ジョディ・フォスター。この女優さんは、純粋に顔が好き。『タクシー・ドライバー』の頃から少女役で出ておりますし、何といっても『羊たちとの沈黙』、あの頃はロバート・レスラーの『FBI心理分析官―異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記』とか、プロファイリングの捜査手法の黎明期で、ちょっとしたブームでした。プロファイリングといえば、先日、丸善市民大学で桐生正幸先生の話を聞いたのですが、これがなかなかすごいのですよ。犯罪者(窃盗犯)の心理を「なぜこの場所を選ぶのか」「どのルートで逃走するのか」などを逆張りの発想でたどっていくと、逆に、犯罪が防げてしまうという統計の手法(ルーティン・アクティビティ理論)を駆使した地域防犯の話を聞いて、その知恵の集積と応用のすご技に身震いを覚えたのですが、あの映画でもハンニバル・レクターに振り回されながらも、真実に懸命に食らいつく、クラリス・スターリングを演じたジョディ・フォスターは知的で、美人で、少し影があり、未知の異常性に怯えつつも身構えた感じの演技がエレガンス、ハンニバルとの仮想恋愛のようなやりとりがなんともいえずスリリングで、素敵。と思うのです。

画像3

出典:http://cinema200.blog90.fc2.com/blog-entry-5.html

と,ずいぶん話が遠巻きとなりましたが、11月新刊、「極めに・究める・リハ」シリーズの第5弾極めに・究める・スポーツリハ』(相澤純也監修・著、塩田琴美共著)の著者が、この椎名桔平とジョディ・フォスターの風貌にどことなく似ていらっしゃるのですよ。

え、そんな展開かよ! とまたお叱りを被りそうですが、その前に、相澤先生、塩田先生、こんな紹介の仕方で、本当にごめんなさい。


さて、話は、3年前に遡ります。

いち編集部のリアル、会社よりあるミッション(新規事業の試み)を授かりまして、チームでいろいろと検討したうえ、1つのアイデアを出したのです。それが、

『極論で語る』シリーズのリハ版をつくること。

基本、新しい試みはとても好きです。ちょっと風変わりなやわらかめの医療本ばかりを出しているように見えるかもしれませんが、でも一歩前に踏み出すときは、結構慎重です。逡巡の美学と申しますか、自分の経験値のない領域、こちらの手持ちのスキルを駆使しても、エンドユーザーとコミュニケーションが成立できないような(読者に届かない)領域には、なかなか足を踏み出しません。新規、新規、新規といっても、結局ものごとの95%は先人の足跡をたどっているだけですし、残り5%(5%もあれば十分斬新!)で「いかに脱線してみせるか」が新味さと思うのですが、まぁ現実のお話として,いち編集部のリアルチームの「ヒト・モノ・カネ」の限られたリソースの中からほんの1%だけでも前へ踏み出すというのはなかなか容易ではありません。そこはやっぱり成功実績という「ファンダメンタルをからの一歩」という新規性になります。幸い、当編集部には研修医向けのシリーズとして、『極論で語る』を展開しており、多くの方にご贔屓されておりますので、会社上層部を説得するにしても、書店の認知度に訴える意味でも、紙面の見せ方のバリエーションとしても、別(新たなリハビリ)の市場へ転換(参入)すればよく、

『極論で語る』シリーズのリハ版をつくること。

となったのです。安易すぎるだろ、と言われそうですが、プランなんてものは、最初はこうした思い付きなんですね。しかし、そこからが問題でした。

通常、医学書の執筆者はひと昔前でしたら大学の教授クラス、あるいは学会の理事クラスが監修や監訳に名を連ねておりました(今もそれが王道)。それこそ大御所先生たちの人間関係や政治力で執筆陣や翻訳陣が組織され、その結果,ボリュームがあって、単価が高くて、A to Zまで網羅した成書がつくられるというのが医学書の定番と思います.ところが『研修医当直御法度』(1996年)が刊行された頃あたりからでしょうか、医学書の形も、より要点に的を絞った親しみやすい流儀の本が登場するようになり、著者の年齢層も30代から40代の(それまでの医学的ヒエラルキーであれば「若手医師」と目される世代)、まさに臨床経験と個人研鑽の蓄積が年齢的にもいい塩梅にフィットし、新しい医療の考え方を身につけたドクターが「本音ベース」で、かつ読者目線で「わかりやすく」著述するようになったのです。

2011年登場の『極論で語る』シリーズの先生方もまさにそのような方々でして、「読者ファースト」「本音(本当に大切なこと)ファースト」の論旨を、肩ひじの張らない自由な語り調で、イラストや漫画入りで展開し始めたのでした。皆さんもご存知の香坂俊先生などの米国臨床帰りのイキのいい先生方が医療界のヌーベルバーグ(新しい波)さながらの情報発信を試みるようになったのです。岩田健太郎先生もしかり(岩田先生はすでに独自の道を歩まれていましたが)、河合真先生もしかり、です。


で、リハの世界でも…という話なのですが、そのようなイキのいい若手のphysical therapistを探すという作業がなかなか難儀しまして、

1. (いち編集部のリアルチームに)リハ分野の人脈が少ない
2. リハ分野で人気の著者は、もうすでに他社から本を出し切っている
3. リハ分野は、医学分野のように大きく内科/外科,そしてサブスペシャリティとしての「循環器科」「感染症科」などの専門領域の定義が明確化しておらず(2018年に理学療法学会が各分科会に分かれ、現在はカテゴライズされていますが…)
4. そのうえ、リハ分野の教科書、参考書は、依然として海外翻訳や従来どおりの王道的な硬派系専門書が多く
5. 本音ベースで、要点のみを「極論(=正論)」でズバリ串刺しするような臨床書の波は,これから(かも)という機運であり
6. そもそも論として、リハ分野の大きな体系を網羅的に監修できる適任者を探すのが難しい
7. かつ若手で(イキの兄貴的な)のphysical therapistを探すのもまた難しい

という7つの壁が立ちはだかったのです。それこそ『進撃の巨人』で塀の中に住む人々があの高い壁の外の世界を瞥見するのも困難なような、居丈高な高い壁がで~んと立ちはだかったのです。

本シリーズの立ち上げについては、いち編集部のリアルチームのやり手の女性編集者のH(「やり手のH」と呼びましょう)にシリーズを担当してもらいました。もちろん当方もチーム責任者として助言やキーとなる検討の舵取りを行いましたが、まずは、やり手のHにシリーズの監修者選びに着手してもらったのです。SNSで人気のPTブロガーとか、『一週間で股関節が一機に180度開く』みたいな本(そんな本、ねぇか)の健康本の著者とか、あとは数少ないphysical therapistの人脈に聞いてみたり、最後はお門違いだったかもしれませんが『極論』の著者(Doctor)にまで聞いてみたり、二人三脚で模索の日々。

そんなある日、やり手のHから「こんな先生がいます」と出された資料(メールだったかな)に目を通すと、

なんとそこには、椎名桔平がいたのでした。

アウトレイジ

出典:前述のとおり

善は急げ。即座にアポ。そのあと、シリーズラインアップの検討(全12巻)の話など、さらに試行錯誤のプロセスがあるのですが、そこは割愛し、いち編集部のリアルとやり手のHは、はやる心を抑え、足早に椎名桔平の元へ挨拶に伺ったのです。


さる大学病院、スポーツ関連のリハビリ部門の責任者。案内された部屋。

見た瞬間、

きーーーーーーたーーーーーー(心の中でガッツポーズ!)

まさに、椎名桔平、「イキのいい兄貴!」なのでした(相澤先生、お許しください)。そのとき何を話したのかは鮮明に覚えておりますが、くどくどしくなるので、ここでは申し上げますまい。ですが、お会いした瞬間に「この兄貴なら、イケル!」と思ったのは事実です。

ちょっと企業秘密になりますが、編集の仕事を長年しておりますと、最初にお会いした著者のFirst Impressionで、だいたいその本がイケルかどうか、なんとなくわかっちゃうんです。逆に最初にお会いしたとき、著者のFirst Impressionがあんまり芳しくないと、やっぱり最後まで芳しくない(笑)。結果、アウトプットも芳しくない(涙)となります。

猫の手も借りたいくらい忙しい少人数による編集チームという事情もあり、(残念ですが)基本持ち込みの企画はお断りせざるを得ません。それでも「いい本になる可能性ある(かも)」というお話もたまにはありまして、そういう企画の場合は直接お会いして話を聞くことがあります。でも、そうしてお会いした方でもFirst Impressionが芳しくない場合は,やっぱり仕事はスルーするようにしています(そういう印象の方の持ち込みの場合、よくよく話を伺っても,その内容に世に問うほどの必然性も偶然性もない場合が多い)。

いくらビジネスでも、こちらも人間ですからね、お互い気持ちよく仕事をさせていただきたいじゃないですか。「この人の本をサポートしたい」「この方と仕事をご一緒したい」、そこがモチベーションとなるわけです.もちろんこう申し上げる以上は、著者となっていただく方には、こちらからも最大限のサポート(いかに気持ちよく仕事をしていただくか、その環境づくりのお手伝い)は可能な限り善処しますので、こんな偉そうなものいいもご海容いただきたいのですが、要はお会いした瞬間にダメな方とは、どんなに頑張ってもよい本はつくれない。そのぐらいの目利きはあるという屁理屈です(霊感みたいなもの)。


というわけで、相澤先生にお会いしたときに「この兄貴なら、イケル!」と思ったというところまでで、今回はお開きにしましょう。

次回は、いよいよ本シリーズの立ち上げコンセプトのお話、そしてジョディ・フォスターです。

ご清聴(読)ありがとうございました。

2019.11.29


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