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#逆噴射小説大賞2019
「まほうつかい」を探して
「私は魔法使いではないよ」
終生、私が「先生」と呼ぶことになる人は、困り顔でそう告げた。
年若い私は、夜通し馬で駆けてきた疲労で朦朧としながら、両の手をついてこう繰り返したのだという。
「大賢者アーヴィエリ様、どうか名高い魔法のお力をお貸しください。どうか、どうか」
目を覚ましたのは広間の長椅子だった。夜は明け、朝霧の美しい気配が窓から立ち込めてくるようだった。側には帳面を手にした先生がいた
ウォールナットグローブの復讐
「落ち着いて話そう、ローラ。20年も前の話だ。誰も正確に覚えてなんていない。君は子供だったからショックだっただろうね。だが……」
銃声は激しい雨の音にかき消された。神父はご自慢のしみったれた教会を転がり、情けなく這い回った。
「話をしたいわけじゃない、オルデン」
「痛い、痛い、血が」
「どうせもう死ぬ」
心底どうでもよさそうに言い放つと、乗馬靴の爪先をオルデン神父の口に捩じ込む。頬の肉を踏み