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ウォールナットグローブの復讐

「落ち着いて話そう、ローラ。20年も前の話だ。誰も正確に覚えてなんていない。君は子供だったからショックだっただろうね。だが……」

銃声は激しい雨の音にかき消された。神父はご自慢のしみったれた教会を転がり、情けなく這い回った。
「話をしたいわけじゃない、オルデン」
「痛い、痛い、血が」
「どうせもう死ぬ」
心底どうでもよさそうに言い放つと、乗馬靴の爪先をオルデン神父の口に捩じ込む。頬の肉を踏みつけ、拳銃をこめかみに押し付けた。
撃鉄を祈りの数だけ動かす。チャールズ。キャロライン。メアリー。キャリー。グレイス。

弾倉が回る。あの頃、家族の夢と空きっ腹を運んでいた車輪のように。
とうさん。とうさん。あの頃の何が幸せだったのか、もうわからないけれど。

微睡むような祈りから覚めると、神父の頭に銃弾を叩き込んだ。チャールズ。キャロライン。メアリー。キャリー。グレイス。

「お父様やみんなのことは気の毒だったと思うわ。でも……」
「その話はいい。やめろ」
ネリー・オルソン・ダルトンは口を噤んだ。不意に訪ねてきた旧知は、記憶にある彼女とはあまりに変わりすぎていた。無法者めいた格好。腰には拳銃。獣じみた眼が、不意に彷徨った。

「あの頃はお前にムカついてばかりだったのに、いい思い出みたいに思える」
「私たち、友達だった」
「そうかもな。そうかも」
急に、目の前の相手がローラ・インガルスである実感が湧いてきて、ネリーは涙を落とした。
「ローラ。私、結婚したのよ。子供だって」
「黙れ」
ローラの眼が獣じみたそれに戻っていた。
「神父さまは」
「聞いてどうする?」
ネリーは絶句した。やっぱりだ。ローラが。つまり。
「お前の親父も殺す」
「お願い、ローラ」
「黙っていなければお前も殺す。あの日、ラシターの奴に従った連中はみんな殺す」

インガルス家最後のひとりの眼が、獣じみて燃えていた。

(続く)

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