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【行列ゼロ!じんたろ法律相談所】松本人志の性加害「文春」報道をどう読むべきか?


世間の騒ぎをどう見るか?

世間はえらく騒いでいる。

松本人志が8年前、複数の女性に性交渉を強要したとか。

お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志(60)が、「スピードワゴン」の小沢一敬(50)に女性を集めさせ、1泊約30万円の超高級ホテルで飲み会を開催。「ゲーム」と称し、「俺の子ども産めや!」などと、参加女性に性行為を迫っていたと報じた。2015年9月、11月の飲み会に参加した女性を含む複数の参加者が、事実関係を認めている。

それに対して吉本興業は、こう言うコメントを出した。

「本日発売の一部週刊誌において、当社所属タレントダウンタウン松本人志(以下、本件タレント)が、8年前となる2015年における女性との性的行為に関する記事が掲載されております。しかしながら、当該事実は一切なく、本件記事は本件タレントの社会的評価を著しく低下させ、その名誉を毀損するものです」

松本人志の容疑を否定する人、やっぱりなと思う人たちの報道でまた世間は賑わっている。

今田耕司も「僕が知ってる松本さん、小沢(一敬)くんがとても言うとは思えないですし、僕は聞いたことがないです、松本さんから、記事に書かれているようなコメントを。合コンとかしたこと、何度もありますから。そこで何度もそういう発言をしているのを、生で見て、聞いたことがないです」と驚きを隠せなかった。

刑法上、民法上はどういう問題なのか?

「不同意性交等罪」というのができたらしい。
でもそれはいつから施行されるのか?


刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律は、2023年6月23日に公布され、同年7月13日に施行されました。
そのため、2023年7月13日以降に発生した性犯罪については、改正刑法が適用されます。

ってことは、8年前の事案なので、刑法上は不同意性交等罪っての適用はないってことね。

従来の強制性交等罪は、暴行・脅迫を要件とし、準強制性交等罪は、被害者の心身喪失・抗拒不能(抵抗が著しく困難な状態)を要件としていました。暴行・脅迫要件は、被害者の抗拒不能を総合考慮する際の一要素として位置づけられていたため、暴行・脅迫があっても、外形的に抵抗困難だったことを認定できる要素がないと、加害者の故意の認定が難しくなり、強制性交罪が成立しないと解釈されるケースもありました。
いずれの罪でも焦点になる抗拒不能という基準は曖昧で、加害者からみて明らかにわかるような形で抵抗を示せていないなどという理由で処罰されないケースが相次ぎ、拒絶意思を示せなかった、抵抗できなかた被害者の心理状態に対する理解不足が指摘されていました。
そこで、これらの要件を見直し、前述のとおり、性的行為に同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせた(あるいはその状態に乗じた)ことを中核とした要件に改められました。

要するに同意かどうかがこれまでの「強制性交等罪」では問題になっていたってこと。
刑法上は、その「同意」を証明が難しかったので今回の法律で要件を緩和した。

○刑法177条
(強制性交等罪)
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

刑法上の強制性交等罪で有罪になれば、5年以上の有期懲役になる可能性もある。
しかし、民事上の「示談」で終わる場合もある。

示談とは、当事者間で行う合意で、事件を解決済みとするものです。示談では、加害者が被害者に示談金を支払い、被害者は加害者を許す旨の合意をし、これを示談書に記載することになります。示談の成立により、当事者間では事件が解決したという事になります。示談書等を検察官に提出することで、加害者は刑事手続きで不起訴処分となる可能性が高くなります。

示談では、当事者によって、この損害賠償義務の有無・金額・支払方法が合意される。損害の内容には、①所有物を破壊されたり、金銭を奪われたり、怪我で治療費を支出させられたりといった経済的な損失(財産的損害)もあれば、②違法行為によって受けた精神的なダメージ(精神的損害)もあるらしい。

その金額はいくらくらいになるのか?
金額に影響するのは、①被害者の被害感情、②犯行内容の悪質性、③結果の重大性、④加害者の経済性がある。

①被害者の被害感情
示談は交渉ごとですから、被害者の被害意識が強く、加害者に対する処罰感情も強ければ、要求する慰謝料も高くなります。
②犯行内容の悪質性
犯行の計画性、暴行・脅迫行為の内容と程度、長時間にわたる執拗な犯行か否か、犯行後の口止め工作の有無などから、加害行為が悪質であるほど、慰謝料は高額化します。
③結果の重大性
強制性交等罪では、加害者がその目的を遂げるために、相手の抵抗を著しく困難にするほどの強度の暴行が加えられる例が多くあります。怪我をして治療のために入通院すれば、その期間に応じた慰謝料(入通院慰謝料)が加算して請求されます。さらに、被害者が重傷を負って深刻な後遺障害が生涯残ったり、PTSDを発症するケースも珍しくはなく、その場合は後遺障害慰謝料も加算されます。
④加害者の経済力
加害者に、「大きな出費に代えてでも刑事処分を軽くしたい」という気持ちが強くあり、現実に支払能力があるときは、被害者の要求に応じて高額な慰謝料で合意する傾向となります。

一般的には、100万円程度から500万円程度までの間におさまる事案が多いらしいが、松本人志の場合は、事実が認定されれば、④加害者の経済力というので破格の額になるかもしれない。

事実はどうなのか?

で、実際の加害と被害はどうなのだろうか?
「週刊文春」で確認できるのは、二人の被害者の証言である。

《Aさん》
ベッドルームに行った松本仁志がAさんに「俺の子供産めるの?養育費とかそういうのは払うから」と言い。「そんなことは無理です」というAさんを無視して強要しようとしたとAさん側は証言しています。
「松本さんは『俺の子どもを産めや』と呪文のように唱えてきて、それでも拒否していると大声で『なあ! 産めへんのか!』と。恐怖で震えている私を見て、ますます興奮しているようでした。私は『このまま本当に殺されるかもしれない』とパニック状態になりました」

週刊誌では、集めた女性3人と共に松本人志スピードワゴン小沢、放送作家Xが、

「ジャンケンでベッドルームに松本と女性」
「メインルームのソファに小沢と女性」
「バスルームに放送作家と女性」

というように分かれていたと女性は証言している。

もう一人の証言者であるBさんは、電話で連絡があり、彼氏と同棲していたので部屋飲みが嫌で断ったものの、小沢がしつこく「VIPは外のみできないから」と誘ってくるので参加したとか。
そこで松本氏に性行為を強要されたと証言している。
「ダメなら口でやって」「口が嫌なら手でやって」と強要されたとか。

《Bさん》
芯が強くて涙を一度も見せたことのなかった彼女が、ずっと電話口で泣いていました。『松本さんと体の接待みたいなこともしないといけないらしい』と。彼女は、こういう事態が普通に起こってしまう芸能界にも絶望していました」

という知人の証言もある。

ただ、物証と呼べるものがほとんどない。
あるのは、スピードワゴンの小沢のアリバイ作りのLINEと言われているもの。

小沢「いまどんな感じですかー?」
小沢「大丈夫?」
小沢「無理すんなよ」

これはベッドルームにいるAさんに小沢が送ったLINEらしい。
文春によれば、携帯に出ることの出来ないAさんにこのメッセージを送り、偽装工作をしたのだとか。

これは彼の常套手段で、万が一トラブルが発生したときに『俺は心配して連絡したから』と言い訳ができるように、白々しいLINEを送っているだけ。彼女からの返事がないことで肉体関係は合意の上だったとする証拠作りの一環でしょう。こういうことに関して、彼はとにかく用意周到なんですよ。

というのは文春で書かれているある人の解釈。
わかっている事実が少なすぎるのと、すべて被害者の証言であること、物証は解釈のみのLINEとなかなか事実認定が難しそうではある。

松本人志側の名誉毀損裁判はどうなるか?

松本人志と吉本興業側は、

「当該事実は一切なく、本件記事は本件タレントの社会的評価を著しく低下させ、その名誉を毀損するものです」「今後、法的措置を検討していく予定です」

と言っている。

もし今回の報道が事実と違うなら、当然、松本人志側が名誉毀損裁判で勝訴するだろう。

しかし,名誉毀損裁判が厄介なのは、名誉毀損罪が①公然と②事実を摘示し、③人の名誉を毀損した場合に、④その事実の有無にかかわらず成立するのだが、阻却事由というのもあることだ。

刑法では、

①公共の利害に関する事実
②その目的が専ら公益を図ることにあった
③真実であることの証明があったとき

という3つの条件を満たせば、名誉毀損罪は罰せられない。

民法ではこれが、

【事実適示型の名誉毀損での違法性阻却事由】
①公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
②専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
③摘示された事実が真実であると証明されること(真実性)

という条件になる。

本来、違法性阻却事由を満たしている証明するのは名誉毀損をした側だが、「これは本当だ」と証明することに比べると、「これは嘘だ」と証明することは一般的に困難であり、証拠となる資料も確実なものを充実させる必要がある。

また、真実であると証明できなかったときでも、「真実であると信ずるについて相当の理由がある」ならば、故意・過失がないとして、加害容疑者側が損害賠償請求ができなくなる。

今回の場合、Aさんは週刊文春の再取材にこう答えている。

「吉本さん(吉本興業)のコメントを読み、大きなショックを受けています。『当該事実は一切ない』としていますが、『事実』とは一体どの部分を指すのですか。飲み会自体が行われていないとでも言うのでしょうか。それとも私が松本さんとの性行為を好んで受け入れたとでも言いたいのでしょうか。本当に馬鹿にされた気分で、心の底から怒りが湧き上がってきます」

ホテルに誘った事実は否定できないだろう。
その小沢のLINEは物証として残っているようだ。

そこで性交渉が行われたのかどうか、それが強制だったのかどうか?
この証明は難しいし、事実ではないという証明も難しいだろう。

今回、8年前のことをAさんが告発したことについてこう語っている。

「飲み会の当日、小沢さんから『粗相があったら、この辺りを歩けなくなるかも』と言われていた。これは、芸能界に関わる仕事もしていた私にとって脅迫に聞こえましたし、正直、告発する勇気も出なかった。ただ、今年、ジャニーズ被害者の方々が告発する姿を目の当たりにして、このまま放置してはいけないと痛感させられました。これ以上、被害が出ないことを願ってお話ししたのです。今回の文春の記事を読むと、私以外の女性も証言されており、松本さんから酷い仕打ちを受けた方は他にもいるはずです」

ジャニーズ事件の場合は加害者がすでに他界している。
本人に事実を確かめようもない。
しかし、今回は加害容疑者が生きている。

ジャニーズの場合、事実が確かめられないケースもあるようだ。
そもそもジャニーズに所属していたという記録も残っていないケースもある。

しかし、今回の松本人志の性加害容疑は、事実を確かめる裁判はできる。
ホテルの宿泊記録もあるだろう。
スピードワゴン小沢、放送作家Xもいるし、当日泊まったという3人の女性も法定に立つことが出来る。

どうしてAさんが刑法犯罪に当たる行為について訴訟しなかったのか?それは不思議である。

法治国家であるなら、強制性交であれ名誉毀損であれ、事実を認定し、法的措置を取るべきだろう。
性加害は無くすべきだが、噂やデマ、推測や偏見で世の中が動くことも避けるべきだろう。

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