見出し画像

大学の教職員は学生の学費を返してという気持ちにどう答えるべきか?

まず、今回は最初に考えてたこと、今やろうとしていることを書きます。

1. 今、大学で何が起きているか

オンライン授業のモタモタ

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために学生は大学のキャンパスに入れなくなった。
学生のせいじゃないのでほんとうに申し訳ない。
でも、大学のせいでもない。
だからオンライン授業を始めた。
始めたのはいいけど、学生は動画を受けられる環境になかったりする。何割かは格安SIMとか、パソコンを持っていないとか、持っていても親と共有とかなんですね。パソコンだけでなく、プリンタを持っていない学生もけっこう多い。これ、緊急調査でわかったことだけど。
教員はふだん使ったことのないTeamsやZoomとかでストレスが溜まる。教員は学生と違ってデジタル・ネイティブじゃない。私立大学では60~70歳代の教員もけっこう多いんです。
学生に紙の資料100枚を課題として出す教員もいて、pdfで送る送らないで職員ともめる。
文部科学省はシラバスを柔軟に考えていいとか通知があったけど、教員はそんなもの簡単に書き換えられるか! 授業をなんだと思っている!とかメールが飛び交ったりする。これは教育熱心な善意からなんです。

あれれ、電子署名?

そんなときに学生の電子署名が始まっていた。
学生数5000人くらいの大学なのに、あれよあれよという間に学生が目標にしていた1,000名をすぐに超えた。
要求しているのは学費の半分減額。実習を実施できなかったら実習費を全額返還せよ!と。
うん、そう考えるのはある意味もっともだとも思う。

けれど、これは高等教育無償化FREEとかいう団体が煽っているだけなんだ、とか。
大学の教員で煽っているものがいるといかいう声も聞こえる。
FREEが記者会見したけど、13人にひとりが退学を考えているという。NHKがそう報道した。私のfacebook友だちはNHKの調査だと勘違いしてfacebookにそう載せる。
もう世論は、このままでは大学から学生が去って行くと。
FREEのホームページでアンケートを見た。
選択肢がちょっとねえ。5つのうち4つが退学を考える程度を聞いている。これは社会学や心理学の調査じゃダメなやつね。
退学回答に誘導的すぎる。

でも、考えた。
そういう拙いアンケートでも手を上げてやってみる学生はえらいんじゃないか。
同調圧力とかなんとかいう風潮のなかで褒めるべきことなんじゃないかと。

2. 大学はなにをすべきか

パソコン、ルーターのない今の学生

で、いろいろ考えて、まずオンラインでも何がなんでも教育を続けることから始めました。
パソコンとネット環境がない学生には無償でノートパソコンとルーターを半年貸し出す。
でも、これを決めるのもオペレーションを考えるのもけっこうたいへん。
大学によっては、有償にしているところもある。
これは費用のこともあるけど、すでにネット環境にお金掛けている人との公平性を考えたためでもあると思う。ケチなわけではない。
でも、うちの大学ではパソコンとルーターはタダにした。この際、宅配代も大学が持つ。
その理由はあとで。

学費を減額、一律給付をすべきか、いやいや大事なのは...

それから学生の要望にどう答えるか考えました。
学費を減額するかどうか。施設設備費のいくらかでも。
就学支援金とかの名前でいくらか一律で支給するか。
通信料名目で一律支給するか。

まず、やることに決めたのは、ひとりの退学者も生まない給付奨学金をつくること。本当に家庭がコロナ倒産や休業なんかで退学しなきゃならない場合は、できれば4年間支給する。
学生が要望している学費減額や、一律給付は、今の段階ではどれもやらない。

なぜ学費を減額や一律支給しないのか?
まず、学費は学生が入学するときに、学生が4年間で学位を取るために、大学が教育を提供するって契約なんです。
施設設備費も施設を使用の有無に関わらず、支出は発生している。とくにオンライン授業の実施で職員が出勤するとそこの電気代、水道代とか清掃費とかかかっている。
オンライン授業のためにシステム改修とかサーバーの増強とか、貸与するパソコンやルーターにもお金がかかっている。
だから、減額はできない。政府から全額補助があれば別だけど。

でも、○万円一律給付!や○○億円パッケージ!なんて新聞やテレビでニュースが流れます。実際に施設整備費を一部返したところもある。なんか大学が、そういうこと競い合っているような。うちはスゴイみたいな。
そのたびに役職者の私のところにどうするんだ、あっ、またこの大学もあの大学も一律いくら出したとかプレッシャーがかかります。

そのたびに、私は今、大学がほんとに大事なことって何かを考えようと職員に呼びかけます。
まあ、うちの大学がよその大学みたいにお金に余裕がないって事情もあるんですが。

大事なのは、他人の苦しみを共有すること

まず、大事なのはコロナで不幸になっているひとの苦しみを共有することなんじゃないかということ。
ほんとうに学費で困っている人に給付奨学金をつくろう!ってきれいな言い方だけど、誰か困っていないひとの学費を困っているひとに回すことなんですね。
パソコン・ルーターの無償貸与も同じこと。
すでにある人と不公平になるのはわかっているんです。
でも、今大事なのは苦しみを共有すること。
学生や保護者自身がそういうことを考えてほしい。

言うは易しで、ひとりの退学も生まない給付奨学金をつくるって結構大変なんです。
高等教育無償化のための日本学生支援機構の給付奨学金が始まったけど、それをもらっている人、貸与奨学金をもらっている人、落ちた人とか、そもそも申請していない人との公平感の問題がある。
「退学しないといけない人」ってどういう定義で、どう判定する?
これまではなんかの基準でマル・バツしか考えていなかった職員も知識や脳ミソを総動員して一人ひとりの学生を思い浮かべて考えなきゃいけない。
でも、苦しみを共有するってそういうことなんじゃないか。
こんなときこそ、一人ひとりの学生と向き合うこと。
3密回避で直接会えなきゃ、オンラインでも電話でもいい。
一人ひとりの学生と向き合うこと。
それは長らく大学人が忘れていたことなんじゃないだろうか。
いや、そりゃお前んとこの大学だけだろ!という大学関係者がいたらぜひ議論したい。

大学は身を削っているのか?

とかいって、大学自身は身を削っていないじゃないかって批判があると思います。
賃金カットでもしたのかと。
そういう批判は当たっています。
財務担当の私としては、広島県知事が政府の一律給付する10万円を寄付してもらうって気持ちよくわかります。思ってても言っちゃダメだけど。
でも、大学ってそんなことをワンマンで決めるところじゃないし、私もそんなに偉くない。また、大学はそうあってはいけないところ。民主主義的に運営することで、教授会の意志決定が遅いとか、ギルド集団で自分の利益しか考えていないとかの批判もよく聞く。
でも、大学で学生が自由に学問やスポーツができるのはそういう組織の民主主義が保障されて、教員が学生のことを思ったり、研究のことを思ったりして自由に発言しているからってとこもある。
だから、うちの大学では、給付制の奨学金のために「苦しみを共有しよう」と教職員に呼びかけて寄付金を募ることにしました。
いくら集まるかわからないけど。
奨学金も予算枠はわからない。
でも、私は職を賭けてやることにしたんです。
今回は。これで私も大学人として終わりかもしれないけど。
せめて、学生の署名を胸を張って受け取りたいと思ったんです。

次に書きたいのは、学費を半分減額のために政府に求めるのは1.5兆円くらいになる。
これはまた時間があったら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?