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父親に「俺はお前が嫌いだぁ!!」と言われた話

 これは僕が小学生だった時の話です。僕は田舎に住んでて、そこは結構雪が降りました。その日の朝は、夜から降りだした雪が田んぼや道路を覆ってるのが見えました。

 僕の学校では、朝に決めた場所にその地域の小学生が集まり、一列に並んで登校する決まりがあったのですが、雪が沢山降った日は歩いて行くと学校に着くのが遅くなったり、滑ったりして危険なので、児童は親の車で学校に送って貰う事になっていました。

 その日は父親に車で送って貰う事になりました。僕の弟も小学生だったので、一緒に父親の車に乗っていきます。ところが、父親の車に乗るタイミングになって、弟が何処かへ行ってしまいました。弟は重度の知的障害があります。意志疎通がほとんどできないので、何を考えてるか分かりません。年齢は8才くらいですが知能は3才児程度です。弟は、僕と同じ学校の“養護学級”と言う、障害がある児童がまとめられたクラスに通っていました。

 そこで、僕と父は弟を探しました。父はいつもの集団登校のための集合場所へ行き、僕はその反対方向の通学路を走っていきました。僕は、弟はいつもの集合場所に行って誰もいなかったけれど、そのまま1人で学校に向かったんじゃないか?と予想したからです。

僕は弟を探すため、雪で覆われた通学路を走りました。父親じゃなく、僕が見つけるべきだと思いました。それには理由があります。

 僕の家は家庭内別居をしてて、一階と二階でできるだけ別れて暮らしていました。一階では父のグループ、二階では僕と弟を含んだ母のグループが生活します。この2グループには心理的な壁がありました。父は、弟とほとんど関わらないので、弟の事をよく知っているであろう僕に見つける事を期待していたと思います。

 
 僕は通学路を半分くらいまで走って探したけど、結局見つからなかったので家に引き返しました。家に着くと父親と弟がいました。弟はいつもの集合場所にいて、父親が直ぐに見つけたのでした。

 それから、僕は弟と父親の車の後部座席に乗り込み学校に向かいました。(我が家には子供は助手席ではなく、後部座席に乗ると言う不文律がありました)。いつもより30分くらい学校には遅れそうです。

 車内で父親は黙っていた。サングラスをかけているので、ミラーを覗いても表情は分かりません。僕は弟を見つけられなかったけど、一生懸命探したので少し満足した気持ちでいました。朝から走ってテンションも上がっていたと思います。でも、見つけられなかったので少しは情けない気持ちもありました。

 
 僕の学校の前には緩く長い坂があるのですが、そこから更に手前の場所に急に車が止めまれました。「ここで降りろ」と父親が冷たい語気で言いました。僕と弟が出ようとすると、運転席の父親が急に僕の方に振り向いて大きな声で言いました。

 「俺はお前が嫌いだぁ!!」

その時の父の表情イメージ

 
 僕らを降ろした車は走り去りました。僕は何も言い返す事なく、その場に立ち尽くしました。いきなり怒鳴られて怖かったと言うより、ただ唖然としていました。悲しいとも思わなかった。弟は何事も無かった様に学校に向かっています。(弟は自分に向けられた感情には反応しますが、他人に向けられたものからは影響を受けません)

 その時に僕が感じた感情は上手く言葉にできないが、父がもう近くにいない事が救いの様に感じた。僕も弟と同じ様に学校に向かいました。父はアスペ気質があったので、仕事に決まった時間に行けないのが非常にストレスだったんだと思います。俺も大人になったからよく分かる。弱々しい笑みで職場の人に「子供送ってたら遅くなって…」と、きっとぎこちなく詫びたのだ。

 学校への道は溶けた雪が分厚い氷になっていました。当時の僕は何も考えず(考えれず)、氷を強く踏んでヒビを入れながら歩いた。氷が割れる時程、心は音を立てないのだ。

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