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起訴された話

検察庁からの呼び出し

検察庁から呼び出しがあった。担当の検事さんは穏やかで優しい雰囲気の人だった。「なんでこんなことやっちゃったの?」と困った顔で言われた。

自分で言うのもおかしいが、私は真面目な性格だった。もちろん今まで犯罪に手を染めたことはない。職場での評価もそれなりに高かった。

警察の取調べでも「みんな君のこと良い人だって言ってたよ?なんで突然こんなことした?二重人格なの?それとも他にも色々やってたの?」とかなり疑われた。当然だと思う。とりあえず余罪がないことが証明できたのは良かった。

当時、自分が精神的におかしかったことは間違いない。でも善悪の判断がつかなかったわけではない。どちらかと言えば「もうどうにでもなれ」という自暴自棄な状態だった。日常を壊したいとも思っていた。でも全て壊れたあとに後悔した。何をやっているんだと。「これがなければ本当に幸せだった」と妻に言わせてしまったのが今でも頭から離れない。

自分の思考や気持ちを言葉で表すのって本当に難しい。刑事さんが作ってくれた調書も何回も直してもらった。最後の方は少しだけ同情してくれた。「やった行為は理解できないけど、君が大変だったのは伝わったよ。」と声をかけてくれた。「死にたくなったら俺に電話してよ。もう少し時間が経ったら一緒に飲みに行こう。」とまで言ってくれた。少しだけ泣いた。

検事さんにも一生懸命に事情を説明した。半分以上は言い訳だったが、黙って聞いてくれた。私の話を聞き終えた検事さんは「そういうことか。でもやり過ぎちゃったね。」と穏やかな表情で言った。そして検事さんも調書を作ったが、警察みたいに詳しくなくあっさりした内容だった。

「自分がやったことに間違いないね?」と言った時の検事さんの目は鋭かった。その時に「はい」と答えると同時に「あぁ、不起訴はないな」と悟った。

裁判所からの通知

1〜2週間後に裁判所から起訴状の写しと弁護人をどうするかの通知が封書で届いた。資産が50万円以下なら国選弁護人が依頼できるらしい。でも場合によっては資産が50万円以上でも国選弁護人がつけられるという内容だった。

調べると私選弁護人と国選弁護人では50万円くらい差があるらしい。これから慰謝料とか養育費とか色々支払いがある。あとは各種税金とか年金とか。今までは会社が半分負担してくれたり、給料から引かれてたからあまり気にしていなかった。でもこれからは違う。突然多額の請求が来るかもしれない。

一応、資産は50万円以上あるが、余裕があるわけではない。今は無職だ。できるなら国選弁護人をお願いしたい。そのように返信した。これが思い通りになるのかはわからない。

日常の中の非日常

広い家に毎日1人で暮らしている。ベッドから出るのがしんどい。できるならこのままずっと寝ていたい。むしろこのまま砂みたいになって消えたい。

なんとかベッドから脱出してリビングまで来たが、時計の針の音とさっき回した洗濯機の音のみが聞こえる。1人でいる部屋は想像以上に寒い。一言で言えば虚しい。

外を散歩するにも、平日の日中にフラフラしてる姿をご近所さんに見られたくないと考えてしまう。近所の人は我が家の異変にとっくに気が付いているはず。私以外の家族がいないのだから。もうすぐ家も売るし、あまり気にする必要もないか。犯罪を犯しておいて世間体を気にする自分って何者なんだろう?

実家に帰ろうかと悩んだが、裁判所からの通知が届くかもしれない。親にも事情は説明したがどこか他人事だ。そりゃそうか。30過ぎた男の面倒なんてみれるはずがない。

家にいるだけで何の生産性もない自分に嫌気が差す。資格を取ろうと始めた勉強も3日坊主どころか2日坊主だ。それでもnoteを書いてる自分って何がしたいの?
バイトでも始めるか。
いい加減、甘えるのはやめよう。

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