マガジンのカバー画像

藍宇江魚 短編集

17
藍宇江魚の短編集です。 ここには、noteで公開した10000字くらいまでの作品を収めました。 ジャンルはフリー。 小説、エッセイです。 ヨロシクお願い致します。 ちなみにヘッダ… もっと読む
運営しているクリエイター

2021年7月の記事一覧

まだ、死にとうない

 …うーん。割れる。頭が、割れそうに痛い… 「社長。眠そうにして。酔っ払いました?」  …酔ってなんかおらん。あぁ、声が出せん… 「珍しいなぁ。まだ、そんなに飲まれていないでしょう?」  …意識が。目の前が、薄れる… 「社長。このところ忙しかったから」  …あぁ。もう目を開けていられん… 「えっ?」 「社長、大丈夫ですか?」 「あら。もう酔っちゃったんですか?」 「社長。社長。起きて下さい」 「あら嫌だ。鼾かいちゃって」 「社長。社長。しっかりして下さい」 「いいわよ。疲れて

蟲魂(むしだま)

「蟲。おらんかねぇ…」  それは、鈴の音を鳴らしながら道を行く虫籠売りの男の声だった。  風変りな様相の男だった。  編み笠を被ってるいるので顔は見えないが、声の感じからすると三十前後と思われた。背は高いようだが痩せた体つき。歩く姿は案山子に思えた。 「蟲。蟲はおらんかねぇ…。虫籠も沢山あるよ。籠に入れる蟲、おらんかねぇ…」  何とも珍妙な商い口上である。 「虫。虫って。籠なんて売らないで虫売りとなれば良いのに…」  彼女は通りに面した二階家の窓辺に腰を下ろし、眼下を過る虫籠

新月夜会

          酒場 扉を開けて店主の親父と目が合うと、奴はちょっと困った眼差しで俺を迎えた。 「いらっしゃい」「混んでるようだな」「珍しいよ。今日は、この時間から混んでるんだ」「まだ夕方の6時前なのにな」「こんな事、滅多にない」「そうだな」「親父。ビール2本」「はいよ」「親父。出直すわ」「あァ。ちょっと待て、待て」「また来るよ」「まぁ待てって」  縄暖簾越しの町は夕陽で深紅に染まる。  それとは対照的にビルの陰は闇に霞む。 「今さ、席を用意してるから」「でも、いっぱいだ

NEW Moon Party -新月夜会 英語版-

Tavern When I opened the door and met the owner's father, he greeted me with a slightly embarrassed look. "Welcome" "It seems crowded" "It's rare. It's crowded from this time today" "It's still before 6 o'clock in the evening" "T