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『会って、話すこと。』について ③バナナ問題

田中泰延著『会って、話すこと。』は、心地よく生きるための素晴らしい手引きである。しかし、最初に読んだときからずっと引っかかっていることがある。

なぜ、バナナなのか。

前作『読みたいことを、書けばいい。』では、冒頭の「あなたはゴリラか?」で多くの読者に人間の自覚を呼び起こさせた。二作目の冒頭に「バナナ」を置くことで、前作との関連性を強く示した、というのが大方の見方であろう。しかし、本当にそうなのか。

だれかがたとえば、傘のことを指差して「これバナナちゃう?」と言った時(後略)(『会って話す』P2)

「ボケ」と「ツッコミ」の事例に示した文章であるが、「ボケ」としてはあまりに“雑”だ。もう少し似たもの、気の利いたものをバナナに例えられたはず。皮で滑るでも良かったのではないか。

さらに、われわれはなぜ、ゴリラとバナナが関連していると早合点してしまうのか。ゴリラの生息地はアフリカ、バナナの原産地は東南アジアである。本来ゴリラとバナナは遠い存在だったはず。そこにあなたは疑問を持たないのか? 田中さんから、そう問われている気がしてならない。そんな悶々とする日々が続いた。1日ほど。

こころに溜まったモヤモヤを解決するため、私はバナナについて調べた。2時間ほど。

バナナといえば、中尾佐助の名著『栽培植物と農耕の起源』である。他の人はどうか知らないが、私のバナナはまずここだ。

バナナは全世界的にみると、果物のなかで一番重要なものだ。(『栽培植物と~』P22)
バナナの栽培化の最初の進歩は、たまたま雌花に雄花の花粉がつかなくても種無しの大きい果実のできる性質(単為結果性)をもった変わり物を、野性の中からさがしだしたことからはじまったと想像される。これを選んで掘り取って、植えたり保護したのが人類最初の農業だと考える人がいるのである。(同P23)

いちばん重要な存在。いちばん最初の存在。バナナは農業界のアダムと言って良い。まさか、『会って話す』がアダムで、『読み書け』のゴリラがイブ、そんな示唆があるのか?! 

疑問を追求すべく、我々取材班はゴリラを調査するためアフリカへ向かった、、、くらいの気持ちになった。

ゴリラといえば山極壽一氏だ。残念ながら山極氏のゴリラに関する著書は私の本棚にない。しかし、ウェブは便利だ。糸井重里氏との対談がほぼ日刊イトイ新聞のサイトで読める(「おさるの年にゴリラの話を。」)。

山極 それと、バナナを置いてくださったんですが、野生のゴリラというのはね、こういう黄色くて甘いバナナを食べないんです。(中略) バナナは間違いなんです。(第一回「ゴリラの権威が総長に」

いきなりきた。やっぱりだ。ゴリラとバナナを安易に結びつけるのは間違いなのだ。

山極 そうですね。ゴリラは家族的な集団をつくっていますから、人間家族の起源を考えるときには、ゴリラを念頭に置いたほうが理解しやすいことも多いんですよ。(第三回「親子であるということ」

ゴリラを知ることで、忘れられた人間の姿を理解できるという。

糸井 やっぱり、あれがマッチョなんだな。ああ、僕らもとして見ていますが、「カッコいいなぁ」って憧れる理由は、もうそういう種族なんですね。
山極 そうだと思いますよ。だから、ゴリラがカッコよく見えるわけ。(第四回「オスを操る女の存在」

おふたりは、ゴリラを通して男としてのカッコよさを語っている。

われわれ人類は、遠い昔に共通の祖先からサルと別れ分化した。ゴリラにこの祖先の面影をみるという。しかも男としてカッコいい。ゴリラこそ、アダムの比喩ではないのか。しかしそれではアダムとアダムになってしまうではないか?!

いや待て、バナナを再検証すべきだ。あの形状に惑わされるな。

古来、作物は繁殖、豊穣のイメージから、女性神と関連づけられることが多い。古事記にも穀物は女性から生まれたと書かれている。さらにバナナは三倍体で「雄花の花粉がなくても実る」(『栽培植物の〜』)のであり、雄の因子は見出せない。

そう、バナナこそイブなのだ。

『読み書け』のゴリラがアダム、『会って話す』のバナナはイブ。この二冊は創世記なのだ。では、ゴリラとバナナが揃うことで何が生まれるのか。それはフンだ。フンは分解、物質循環の象徴である。

生めよ、増えよ、地に満ちよ、梓みちよ。いっこ変なのが混じったが気にするな。要は、二冊揃うとなんだかありがたいということだ。

ちょっと強引な気はするが、なんとなく満足した。


少し興奮したので、『会って話す』の一番好きなページで気を落ち着けよう。

話す「わたし」と「あなた」の間に、意味がないことでもいい、意味があることでもいい。「なにか」が「発見」され、「なにか」が「発生」する。その「なにか」こそ、人間の向こうにある「風景」であり、それを共に見たことが人生の記憶になる。

読むほどにじんわりくる。新婚旅行で訪れた沖縄のバナナ園を思い出す。大きな葉が揺れている。人生に記憶されるその風景は、美しい。

そのとき自然と口から出るのは、おそらく「ライフ・イズ・ビューティフル」だ。



ん?

「あなたはゴリラか?」(『読み書け』P2)。ゴリラは霊長類=サル類だ。「これバナナちゃう?」(『会って話す』P2)。バナナも出てきた。そして、最終メッセージがライフイズビューティフル!?

そっちか! そっちなのか?



などとくだらない下書きを溜め込んでいる間に、こんなツイートがTLに流れてきて驚いた。

(全面的にごめんなさい)




もしかして、こっちか?! これは傘でバナナだ!


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