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サミーその2

書いたことが自分のためになるっていうのは、たぶん、はじめての体験だ。

子供の頃に飼っていた犬の話を書いた。

これをきっかけに、その犬を思い出す時間が増えた。


直後、仕事でかなりキツい出来事があって、引きずりそうになった。沈み込まないようにと思い、マルチーズの彼を想像した。書いたばかりだったからか、シッポを振りながら僕の周りを走ったり、足元にくっついてくるのをけっこうリアルに想像できた。すると、不思議なくらい落ち着くことができた。

彼は、僕を信頼して、心から楽しそうなのだ。幼ない頃の記憶だけど、そうしたことがしっかり心に残っていたことに驚いた。

当時、たしかに家族みんなが彼を愛して、彼も全面的に喜びを返してくれていた。たぶん、突然いなくなったから、なおさら元気でかわいい記憶のまま止まっているんだろう。

職場から帰る車の中でも思い出していた。彼を連れて家族でドライブに出かけたこと、彼が車酔いをしたらしくモドしたこと、ちょっと寒いけど彼のために窓を開けて走ったこと。


空想の中に逃げ込むなんて、はた目にはちょっとアブないかもしれないけど。いいのだ。彼が助けてくれたような(そんなことは僕の思い込みに過ぎないけど)そんな気持ちで慰められた。


そう。40年の時を超えてキミに助けられんだ。

ありがとう、サミー。



そういえば、浅生鴨さんの短編『チロ』(『しししし3』収録)。妄想がすごくて変な話だと思っていたけど、こういう経験をするとまんざらおかしくないように思えてきた。