見出し画像

妹は突然「奥さんだ!」と叫んだ

僕には四つ下の妹がいます。

妹が幼い頃、家族の中で巻き起こったミステリーがあります。
今日は、そんな話を紹介したいと思います。



あれは僕が、幼稚園〜小学校低学年のころ。
妹が喋れるか喋れないかの頃でした。


事件の始まり


ある日、母から突然こんなことを言われました。

「最近〇〇(妹)がね、車に乗ってたら『奥さんがいる!』って言うのよ」

話を聞いてみると、妹が車に乗っていると、急に窓の外を指差して『奥さんがいる!』と叫ぶらしいのです。

そして、その「奥さん」というものが何かわからないらしいのです。

母は、妹があまりにも「奥さんだ!」と言うので、何か知ってたら教えて欲しいとのことでした。

妹と仲のいい僕なら何か知ってるかもしれないと思ったらしいのですが、僕もわかりませんでした。

妹は、まだ言葉がうまく喋れません。

「奥さんは、奥さんなの!」

というばかりで、何を指して言っているかわからないのです。

それでも、手がかりはいくつかありました。

まず、妹は車に乗ってる時に「奥さん」を見つけるそうです。
家の中では「奥さん」という言葉は言わないとのことでした。


もちろん母も「奥さん」ではないとのことでした。
自分の娘から「お母さんは奥さんじゃない!」と言われていました。


そして、妹は「奥さん」を見つけると、すごく嬉しそうにするらしいのです。


さらにもう一つ、重要な手がかりが見つかりました。

色々と質問していくうちに、拙い言葉で、妹が重要なことを伝えてくれたんです。

「奥さんは、女の人である」と。

確かに人物のことをさして「奥さん」と言っているっぽいのです。

母は当時「街中で叫ばれたら困る」と言っていました。

もし街中で誰かに向かって「奥さんだ!奥さんだ!」なんて言い始めたら、複雑な家庭環境を疑われかねます。

僕の家は、なんの特徴もない普通の家庭です。

それでもこの世界には、妹にとっての「奥さん」が存在しているらしいのです。


僕と母は、車に乗っている時に、「奥さんがいたら教えてね」と妹に言うようになりました。

「うん!」と元気よく返事する妹。

しかし。難しいのが、日によって奥さんが全然見つからないことがありました。
僕と母は、道ゆく人を指差して聞きます。

「あれは奥さん?」

「違う!」

「あの人は奥さん?」

「違うよ!」

知らない人を指差して、それが奥さんかどうか幼い妹に確認する、母と息子。

妹は誰を指差しても、「違う!」と言います。


なかなか奥さんが見つからないでいると、突然妹は叫び出しました。

「奥さんだ!奥さんがいる!!」

僕と母は、妹が指差す方を見ました。

「見て!奥さんだよ!奥さん!」

妹が必死に叫びます。

僕と母には訳がわかりませんでした。





なぜなら、そこには誰もいなかったのです。





「ああ、行っちゃった…」

車で走り去ると、妹は悲しそうにつぶやきました。

僕と母は、確かに妹が指差す方を見ました。

しかし、誰もそこにはいなかったんです。

それでも妹は奥さんがいたと言います。

そして、やはり奥さんは女の人らしいのです。

もしかしたら妹には、霊的な何かが見えているのかもしれない。
僕と母は、そう考えるようになりました。




そんな出来事から数週間が経ち、妹は「奥さん」という言葉を言わなくなりました。

あれだけ楽しそうに「奥さんだ!」と言っていたのに、突然言わなくなってしまいました。
だんだんと言わなくなったのではなく、急に言わなくなったのです。

僕と母は、「奥さん」の正体を見つけられませんでした。

もし、霊的な存在であるとしたら仕方ありません。

僕らは「小さい子供だから変なことを言った」くらいのことだと思うようになり、自然とその話題もすっかり忘れていました。


再び始まる

そして数ヶ月、もしくは数年経ったころ。

再び事件が始まりました。

また妹が「奥さんがいる!」と言い始めたのです。


僕と母は「奥さんが帰ってきた」と、奥さん探しを再開することになりました。

今回は少しだけ妹が成長していたため、さらに多くの手がかりを得ることができました。

まず妹が言うには「奥さん」は霊的なものではなく、確実に僕と母も目にしているとのことでした。

なぜなら、「奥さん」を見つけるたびに妹が怒るのです。

「ほら!奥さん!あそこにいるじゃん!」と。

さらに、新たな事実として分かったのは「奥さんはたくさんいる」とのことでした。

妹の目が良くなったのか、成長して気づくことが多くなったのか、前回よりもたくさん「奥さん」を見つけるようになりました。

やはり車の中から指をさして言うのですが、「奥さんだ!」「また奥さんだ!」と何度も見つけていると言うのです。


そしてもう一つ、最も重要なヒントを口にするようになりました。

それは

「奥さんは、お兄ちゃんが知っている」

ということです。

僕が奥さんを知っているらしいのです。

妹は母に、何度も「お兄ちゃんなら知ってる」と言っているらしいのです。

本当に意味が分かりませんでした。

僕が奥さんを知ってる?

奥さんという言葉の意味はわかりますが、妹が何を「奥さん」としているかはわかりません。

母も当初から言っていました、妹が変なことを言うのは絶対に兄の影響に違いない、と。

どうやら僕のせいってことになっていました。

そして、またもや訳がわからないまま、前回と同じように急に妹は「奥さん」という言葉を言わなくなったのでした。



そして解決へ


月日が経ち。

この問題は、あっけなく解決することになります。

この頃、妹はちゃんと喋れるようになっていました。

ある日、母と妹が散歩をしていたそうです。
そして散歩中、妹が「あっ」と何かに気づいて、ある場所に近づいていったそうです。



そして、あるものを指差して、はっきりと言ったそうです。

「ほら!これが奥さんだよ!!」



それは「選挙ポスター」でした。



僕はこの時、全ての記憶が蘇りました。

全て思い出したんです、原因は僕でした。

話は僕が幼稚園の頃。
妹がギリギリ言葉を発せるようになった頃に遡ります。



僕は車の中で妹に話しかけていました。

早く妹とおしゃべりがしたくて、色々な言葉を教えていたんです。
それも、適当に。

僕は、窓の外にある「選挙ポスターの女性候補者」を指差して、よく妹に言っていました。


「見てごらん、あれが奥さんだよ」と。


完全に僕が教えていました。

僕だったんです。

僕は、選挙ポスターに女性候補者がいると
「ほら、奥さんだよ」と妹の耳元でよく言っていたんです。

意味はありません。
適当な日本語を妹に教えてたんだと思います。

「奥さん」っていう言葉がウケてたんです。僕の中で。

その頃の妹は「奥さん」という言葉は話せませんでした。

しかし、やたらと兄が選挙ポスターの女性を指差して
「奥さん」と言っているのを聞いていたのです。

僕はその遊びが楽しくて

「ほら!奥さんだよ!」
「また奥さんいた!」
「よかったねえ、奥さんいたねえ!」と妹をあやしていました。

適当にそんなことを言っていた僕は、すっかり忘れていました。

多分そういうことを妹にいっぱいしてたんだと思います。

すまんな、妹よ。


僕にとっては、遊びの一つでした。

しかし「奥さん」は、まだ喋れなかった妹にとって

「見つけると兄が喜ぶ、面白いもの」

として記憶されていたのです。


そしてそれは時限爆弾となり、妹が喋れるようになった頃「奥さんだ!」と叫ぶようになったのです。

急に言わなくなったりしていたのは、選挙期間が終わってポスターが剥がされていたからでした。

車の中で言っていたのは、幼い妹が、シンプルに車でのお出かけが多かったからです。


これが全ての真相です。

どうでしょう、このクソみたいな海亀のスープは。

答えは「兄が妹に変な言葉を教えていたから」です。

でも、僕は思うんです。

「子供は不思議なことを言うもんだ、大人に見えてない世界があるのだ」とか言ったりしますが、たいてい真相はこんな感じです。

あんまり意味ないと思うんです。

だから、やたら神格化して考えるものじゃないですよ。

今回はそんなメッセージということで、どうでしょうか。




今でも、街中で選挙ポスターの女性候補者を見ると「奥さんだ」って思います。


今度、妹に覚えてるか確認してみよう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?