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追悼・桐島聡さん 「虹」の彼方へ 80年代生まれからの東アジア反日武装戦線

(人民新聞4月5日号5面より)
人は「星の彼方」を夢見て様々な題名に用いるが、「虹の彼方」には何があるのか、ありえたのだろうか。
 元「東アジア反日武装戦線・さそり」の桐島聡さんが、1月中旬に亡くなった。50年間全国指名手配をされていたが、末期の胃がんに倒れ、病院で死の直前に本名を名乗り上げ判明した。検察は3月21日、容疑者死亡を理由に不起訴にした。
 彼は全国の交番に顔写真が貼られ、「極左暴力集団は殺人者」という象徴にされてきた。その図式作りが警察の目的であり、本気で捜索し続けたとは思えない。50年間逃げ通したことで、彼は左派やネットの若者間でカルトヒーロー化し、大学で顔写真の立て看板が作られた。警察とマスコミはもちろん「テロリスト、テロ事件」と総バッシングした。どちらも、彼らが当時何を目指したのかを真摯に受け止めた扱いではない。 

彼らは、日本帝国主義の「東アジア」への過去と現在の植民地支配を、日本で生まれ育った者として身を持って批判する「反日」の立場で、「武装戦線」という手段で克服を目指した。
 つまり、戦前日本はアイヌ、琉球、台湾、朝鮮半島、中国大陸などを侵略し、労働者らを強制連行した。さらに戦後も「経済開発」の名の下で、現地人の生活や経済を破壊しながら再侵略している。「狼」「さそり」「大地の牙」の3部隊からなる同戦線は、その大企業や国家機関に対し、本社やその機能部に爆弾を置いて爆破攻撃した。三菱重工、三井物産、鹿島建設、帝人、間組などを対象にした。
 マスコミは今回、この中で唯一死者を出した三菱重工事件だけを強調したが、これは「狼」の行動で、桐島さんは関与していない。だが、上記の歴史に人々が少しでも気づく機会を潰すため、全部ごた混ぜにして「極悪テロ扱い」。こうした歴史の抹消行為が、かつても今も最大の問題だ。
 三菱らは今も正義面した財閥のまま、「死の商人」を続けている。日本政府や上記の企業(氷山の一角だ)は、アジアの数千万人を虐殺し、「爆殺」し、その責任や謝罪を否定している。空前の戦争責任を果たさせていない私たちは、まず桐島さんらの真摯な問題意識を自分に問いかけ、引き継ぐ必要がある。その前に爆弾という手段と結果をあれこれ論じても、私たちは変われない。

問われる戦争責任 私たちの課題

彼らは戦争責任の頂点にある昭和天皇を、本気で殺して処罰しようとした戦後唯一の人々だった。
 74年、天皇が乗った列車が東京・荒川橋を通過する時間に合わせ、前夜にレールに爆弾を設置しようとした。悪の頂点を爆破する=橋に虹がかかる=「虹作戦」と名づけた。

 だが設置中に公安警察と思しき監視に気づき、断念。一斉逮捕後、作戦を知った検察は驚愕し、影響の大きさから事実自体を伏せようとした。今でも世間はほぼ知らない。
 だがその後を生きる私たちは、「虹の彼方」を考えたい。
 ファシズム同盟国の独・ヒトラーは自殺し、伊のムッソリーニは人民に処刑された。しかし天皇は「国民の象徴」に名を変え、生きる神であり続けた。これは侵略の加害者として被害者にあまりに申し訳なく、また日本社会の歪みの根源でもある。彼らが企業の社屋を爆破するのと異なり、天皇という人物そのものを狙ったのはそのためだった。
 もし作戦が成功し、虹がかかったらどうなっただろうか。人民のための社会と世界に根底から変わっていたか。それとも国家の報復で左翼と社会運動が壊滅させられていたか。わからないが、これこそ主体的に受け止めるべきで、同じ方法でなくても「彼方」を作るのは私たちだ。懸命に歴史や己と向き合った桐島聡さんと、17年に亡くなった「狼」の大道寺将司さんを、心から追悼する。
 最後に、彼らは逮捕後も死傷者を出したことを真摯に反省しつつ、濃密な獄中日誌や闘争記録を多数残した。私も被逮捕時に東京拘置所で熟読し、励まされた。救援連絡センターに連絡すれば読めるので、ぜひ皆さんも(特に逮捕・長期拘留された時は)手にとってほしい。
 中でも大道寺さんの『明けの星を見上げて』と、荒井まり子さんの『子猫チビンケと地しばりの花─未決囚11年の青春』の2冊は、若者が社会変革や運動に目覚めるため、目覚めた者が志を高めて続けるために、最高峰の青春譚だと思う。お勧めしたい。(編集部・園)



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