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第9話 星おじいちゃんへ

『死』っていうのは0らしい。

だから、辛いマイナスにいる人とっては死が良いものに見えるし、楽しいプラスにいる人には死が怖いものに見えるそう。

皆さんはどうだろうか。私は死がいいものに見えたことはない。

がんと言われ、もっと生きたいと思った。意地でも生きたいと思った。

だからと言って、人にこの考えを強制させるつもりは一切ない。
生きたくても生きれない人がいれば、死にたくても死ねない人もいる。それはもうどうしようもないから、せめて自分はさいごまで全力で生きたいと思う。

死を尊重する。こういう考え方を教えてくれたのが星おじいちゃんだった。

星おじいちゃん(以下星さん)は、84歳。正直60代に見えるほど若々しい。
ラーメン店を営むやさしいおじいちゃんだ。

星さんと仲良くなったきっかけは、約1か月同じ部屋で過ごしたからだ。
挨拶をしていくうちになんだか仲良くなった。

星さんは内臓系のがんだった。検査入院で2日ほどで帰れるはずが、がんが深く浸透していてそのまま入院になった。

夕方、私が談話室で彼女と電話を終え、部屋に戻ったとき
「手術できないんだってよぉ。実質の余命宣告だ。」
と話してくれた。

何も言えなかった。言葉が浮かんでも、本当にこの言葉が星さんを勇気づけれるか。私の周りの人もそういう気持ちだっただろうなと気づいた。何を言っても地雷を踏む気がするそんな気持ち。

「一緒にがんばろう」と、心をこめて星さんに言った。

その日から、毎朝星さんのベッドにおはようの挨拶をしに行った。元気そうな姿を見れるとうれしくなった。

しかし、だんだんと星さんの体調が悪くなっていった。抗がん剤、放射線と辛い治療をしていたので体力が落ちていったのだろう。

挨拶に行っても寝ていることが多くなった。

ある日、星さんのカウンセラーの先生が
「もうお迎え来てほしいとか思う?」
と聞いた。

何を言ってんだ!この辛さ知らないくせにそんなこと言うな!とベッドから飛び起きそうになった。しかし、

「そうだなあ、もう辛いなあ」

と星さんが言ったのだ


そして自分はひっそり泣いた。悔しかった。
全てを恨んだ。いい人ばかりが病気になり、辛い思いをすることに。のうのうと生きているそういうやつに限って長生きすることに。

でも、星さんにとって死がプラスに見えたのだろう。自分が生きてほしいなんてエゴを押し付けるのはやってはいけないこと。いつもと変わらず星さんとお話をした。

ある日、星さんが病院を移ることになった。

なので、最後に星さんの部屋に行こうと思い行ってみた。

すると、星さんは目に涙を浮かべて天に手を挙げて開いたり、閉じたりしていた。自分には気づいていない。

自分は行かないことにした。本能でそう感じた。

星さんの分まで生きる。全力で生きる。そう決めた日だった。



星さんをたまに思い出す。そのたびに、だらける自分のけつを叩いてくれる気がする。

星さん、俺はげんきだよ!


前回の話から時間が空いてしまいました。この話は自分にとってとても生半可には書けない、大事な話なので何度も推敲しました。それでも完成できていない気がします。

次回、「最終話 自由きまま」です。よろしくお願いします。


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