目標管理制度あるべき状態で運用するために

前項でも言いましたが、人事が転職した先で、大抵評価制度と目標管理制度の課題に向き合わされます。どの会社も成果が出ていないからです。。
評価制度の素になるのが目標管理制度なので、目標管理制度の論点を大上段から自分なりに整理してみます。
正しい考え方は、本がたっくさんありますので、私は私なりに人事をやっていて考えられていることを整理してみます。

目標管理制度の目的

目標管理制度の運用で目指すのは、社員一人ひとりの仕事の成果で会社を成長させることです。

事業を成長させるのは、社長ではなく、社員一人ひとりの日々の仕事の成果にほかなりません。
目標管理制度では、目標設定ー行動ーフィードバック をこのプロセスを運用していきます。
まず目標設定段階で、会社の目標達成と個人の目標達成のつながりを明示できます。
その目標設定が、行動を方向性や軌道修正の判断基準になっていきます。
日々、社員と上司は相互のフィードバックを通じて、できていることできていないことを確認しできていないことへの対応策を立てていきます。
できていることに対してはさらなるストレッチをかけます。
そして目標に対して、より高い成果を目指します。
その行動の集まりが、組織の目標達成になり、事業の目標達成になります。
というストーリーを紡いでいく制度のはず、なのです。

目標管理制度を運用するために必要なもの

・理念(ミッション・ビジョン・バリュー)
・中期事業計画・短期事業計画
・事業郡
・達成に必要な機能
・事業と機能の責任と権限
・責任者の配置
・組織構造を定義する
・各付け・等級要件
・目標管理システム
・目標管理運用ルール
・目標設定・業績管理・フィードバックスキルの育成

評価や報酬は今回は省くとして、こんなところでしょうか。
全部紐解くと膨大になるので、まず各項目の概要からまとめていきます。

理念(ミッション・ビジョン・バリュー)

やはりあると無いとでは大違い。会社の使命・展望・規範。WHY WHERE HOW。壮大すぎても、抽象的すぎても伝わらない。社員に道徳を説いている社訓のようなものだけだと、部活じゃないので大人はついていけない。

理念と事業内容がわかりやすくつながっていることは、なぜこの会社を作ったのかというトップの思いと、社員の日々の仕事がつながるきっかけになる。
とても大事。

事業の草創期には、むしろなくても良いかもしれません。
例外はあるのかもしれませんが、協力者が増えたら必ず必要なものだと思います。そして、作ったら変えないものではなく、経営視点でずっとPDCAを回していくものだと思います。

余計な話ですが、過去、私が所属していたゲーム会社にはなかったですし、なくても気にならなかったです。なんででしょうね。

さらに余談ですが、よく面接で、「理念に共感したから応募した」と言われますが、人によって浅い深いさまざまです。
理念と事業の読み解きって難しいけどおもしろいし、大事だと思うので、いろいろな仮説をもって面接に望まれるといいです。
仮説パターンもいつか整理してみたいと思います。

中期事業計画・短期事業計画

夢のようなビジョンではなく、リアルに収支計画が大事だと思います。会社は草創期・成長期・成熟期・衰退or第二創業期を繰り返すもののようですが、ステージが変わろうとも流されない強くて良い会社を目指すには、やはり勇気をもってオープン経営のスタンスが必要だと思います。

売上・営業利益を社員が知っていることで、どれだけトップがチャレンジングなビジョンを掲げても、社員が心理的不安を感じなくて済みます。
そして社員が意気揚々と行動することで、トップはさらに会社の成長させていく勇気をもらえます。この相乗効果はたまらないと思います。

事業郡

経営理念と短期中期の業績目標を達成するために、会社の中にある事業のくくり方はこれでよいのかを考えます。
例えば、A事業、B事業と今まで分けてきたが、強豪が強くなり分散させていては勝てなくなってきた。では、A、Bの事業を融合させてみようか。シナジー効果は見いだせるか。よし、リソースも融合させて自社の差別化ポイントを活かした商品戦略をたてよう、などという考えです。

これは、自社がどうやってマーケットのなかで勝とうするのかを社内に示す強烈なメッセージに変わります。
さらにこれによって、組織構造も変わります。人が変わり、業務プロセスが変わります。採用方針も変わるかもしれません。
会社の事業のまとまりも経営視点でPDCAを回していく重要な要素です。

達成に必要な機能

事業郡を整理しただけでは、会社が活動するフィールドを整理しただけですので、事業を推進するための機能を整理します。
サッカーチームなら監督・コーチ・プレイヤー・スカウターなどと、バックヤードの広報やマーケ、スタジアムや練習場の運用と管理、制作開発、経理財務、人事等でしょうか。チームを経営するために必要な機能です。

事業と機能の責任と権限

事業郡と機能を整理して、機能ごとに持たせる責任と権限を決めます。
例えば、サッカーで経営トップが次の試合のフォーメーションまで注文つけたら、監督はやる気を失います。結果で判断してくれと言いたくなります。逆に、いちいち経営側に監督がどんな選手がほしいかお伺いを立てていたら、これは監督の責任逃れです。
権限と責任は経営と各機能の信頼の証。非常に重要です。
ただ、私は今、この作業が、最高級に難易度が高い作業だと感じています。非常に難しいです。

責任者の配置

いよいよ人の配置を考えます。
人を最初に決めてはだめです。目標管理制度や評価制度を運用しようという会社規模ならなおさらです。
人から決めると、会社の成長は人に依存します。良いように聞こえますが、人材を固定化する第一歩です。
固定化したものはブラックボックス化し、引き継がれませんし、育成もできません。
さらに人から決めてしまうことの弊害は、採用面にも現れます。
重要な機能の役割を果たす人を採用しようと思ったとき、前段の内容が整理されていないと課題が特定できません。
結果として、自社の課題解決のために必要な求人要件が作れず抽象的な内容になり、マッチする人の獲得もできません。

配置を考えると言っても、すぐさま理想的な配置はおそらくできません。
機能の責任を担う候補の人も、全員できることとできないことが違うと思いますし、間違いなくできるだろうと、確信できることと、チャレンジングなこととあると思います。
リスクを考慮した上で、任せる配置検討を時間をかけて行う必要があります。
ここでどんな情報を活用して配置検討するのかもとても大事ですね。

もう一つ重要なことが、不足を補うための、責任者をサポートする仕組み、手段です。
任せてすぐさまできる人などいませんし、そもそも毎年毎年チャレンジしてもらいたいことは変化するので、しっかり不足を見極めて、補填することが必要です。
サポートの仕組みや手段は、育成のための費用を確保するのか、経営が時間を割くのか、コンサルタントをつけるのか、人の採用をするのかなどなどです。

組織定義

各機能の責任者を決めたので、次に組織構造を決めていきます。
その機能をどの程度の人員で運営していく必要があるのか。どの程度の費用で運営していくのか。これによって組織規模が見えてきます。
例えば、責任者の配下に20名の人員が必要となれば、その組織の中で機能分解して、グループをつくり、グループをまとめるリーダーが2~3名は必要でしょう。リーダーの配置が難しければ、これもサポートする仕組みや手段を検討しなければなりません。

各付け・等級要件

これまでの作業の結果、会社内には実際にいくつかの各付けが生まれているはずです。

例えば
 経営以下
 役員
 事業責任者
 事業横断的機能責任者
 各組織内部のグループリーダー
 一般社員
といった職責、役職的な階層があります。

また、社員それぞれの提供価値、生産性も違います。
経験値によって挑戦できる目標値も変わります。
逆に、経験値を補うために必要なサポートも変わります。
少ないサポートでより高い目標に挑戦できる人の配置をまず考えますし結果がついてくれば、最も報酬をうけることにもなります。
事業目標を達成するために、ある社員の力量を見極めて、効果的な配置を検討するためにある程度の各付け、等級制度による管理を試みる会社が多いと思います。

目標管理システム

個人の目標が会社の目標とつながっていることを明示できることが理想です。また個々の目標設定内容をオープンにできることも必要です。また、目標設定は設定して終わりでもないし、一度きりのものでもありません。継続して目標と成果を確認できる状態も必要です。したがって、目標管理の運営をサポートするシステムが必要です。
HRTECH領域では、今年はどの会社も鋭意開発中。機能改善が進んでいて、目標管理システムも多数有ります。
google スプレッドシートとドライブでやっている会社もあると思います。
なるべく簡素簡便で、そもそもの目的を果たせるシステムの導入をしたいものです。

目標管理運用ルール

個々の目標設定に入る前に、会社の目標、事業の目標、組織の目標が決まっていることが重要です。
決まっているだけでなく、事業責任者など組織をまとめる役割を担う社員に腹落ちしていることが重要です。
このコミュニケーションが、制度運用において、最大の肝です。
前段までの作業で整理してきたものが、社員にどう説明されるのか次第で、成功するかしないかがあっさり分かれます。
責任者の腹落ちを作ることにはしっかり時間を掛ける必要があります。

来期は経費削減の必要があるとしても、トップが社員に直接経費削減だけを言うことは、100害あって1利ありません。
目指す状態があって、今の業績の外部要因内部要因をどう捉えていて、課題はどう解決するので、そのために、この経費は抑えよう、ということを責任者には理解してもらわなければなりません。
でなければ、「会社全体的に業績おちてるからさ」「経費削減だから売上目標もさげよう」などという恐ろしい会話が社内に広がります。

また、
 基本的な業績管理の方法(どこの数値で達成したと判断するのか)
 目標設定と振り返りの時期や方法各付け
 等級などに基づいた目標の難易度の目安
なども運用ルールとして必要です。

目標設定・業績管理・フィードバックスキルの育成

目標管理制度の運用をサポートする仕組みとして育成プログラムは必須です。目標管理のシステムだけ渡してもだめです。
目的である個人、組織、事業の目標達成を生み出すための仕組みを活かす主役は責任者による運用です。

個人の目標設定が事業の目標とつながっているかな
目標設定の内容は、チャレンジングかな
個人の成長につながるようなコミュニケーションがとられているかな
定例のミーティングや1on1などではフィードバックをしているかな
業績のチェックはちゃんとやってくれているかな
機会損失を生んでないかな
見直しが行われていないかな
など
横串で人事もしっかりチェックして、責任者のみんなとスキルアップをしていく必要があります。

ひとまず以上。
一つ一つの項目がそれぞれ深いと思います。したがって全部一気に整理できない。そんな時間的余裕も無いと思います。
それぞれの論点で、やることやれないことやらないことを決めて、優先度をつけて、取り組み続けることが求められています。
どうやって優先度をつけるのか。それは各社の事情が違います。

人事の座談会でもあれば、こういう話こそ、いろいろな会社の取り組みの話を聞いてみたいところです。

あともう一つ。昨今、目標管理制度は変化を求められています。
半年に一度やっていては遅い。コンピテンシーを決めたところですぐに形骸化する。目標管理制度プラス評価の運用に手がかかりすぎる。
評価は育成目的なのであれば、育成に最も効くのはリアルタイムフィードバックであり、半年に一度では遅すぎる、等々課題があります。

私も制度運用にばかり手がかかるのは反対です。当然、制度運用ファーストではありませんしね。

社員がチャレンジしてスキルアップして、事業は目標達成していて、適切に人件費に投資できていればそれで良いのです。

人事こそ本質に向き合い、変わる時が来ていると実感しています。

長文失礼しました。

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