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摩擦が無けりゃ、想いは宇宙の彼方へ

 世界に『摩擦』がなくなると、エラいことになるらしい。

 摩擦が無いと、滑って転ぶから、歩けもしない。転んだら転んだまま、空気の摩擦抵抗もなく、永遠にすべり続けてしまうかもしれない。あと摩擦が無けりゃ、鉛筆で紙に字を書くこともできないとか。ネジとか釘に摩擦がなかったら建物は崩壊してしまうのだとか。土や砂に摩擦がなかったら、山や谷は無くなってしまうんだとか…。ネットで軽く見ただけだけど、そんな事になってしまうらしい。
 摩擦と聞くと、なんだか悪いイメージがあるのは、人間関係の摩擦のような、なにか問題がある時に『摩擦』を使う気がするからだ。
 悪いイメージがあるけれど、物質的なこの世界では摩擦はとっても重要で大事なものってことになる。

 じゃあ、さっきの悪いイメージの方の摩擦、心の摩擦はどうだろうか、悪いモノのままなのかな。

「なんか、あの人の言う事って間違ってないんだけど、なんだろう、言い方かなー、なんか嫌なんだよなぁ」

 みたいなね。引っかかってる、引っかかってる。摩擦が生じて心に引っかかって落ちなくなってる。
 同じ言葉でも、誰が言うかによって言葉の形って変わるよね。
 悪口のイメージって「トゲトゲ」でしょ?
「ちくちく言葉」「ふわふわ言葉」みたいなのも聞いた事があるかしら。「ちくちくする嫌な言葉」と「ふわふわする良い言葉」と名前をつけて、子どもに言葉選びを教える絵本とか、なんか、そんなの見たことある。「ちくちく言葉じゃなくて、ふわふわ言葉を使おうねー」って。
 トゲトゲちくちくしていると、やっぱり、摩擦めっちゃ生まれそうだよね。形的に。全然くっついて離れなそう。
「ふわふわ」も、摩擦が全く無い形のイメージではないけど、気持ちよく心に残ってくれそうで、やっぱり良い。必要な良い摩擦だ。

 それでいうと、「すべすべ言葉」「つるつる言葉」は摩擦が全然ない言葉になるのかな。「ぬるぬる言葉」とか。
 もう、なんにも相手に引っかからない、ぬるっとするっと受け流される言葉。なんにも残らない言葉。
 それって、どんな言葉があるだろう…と考えてみたけど出てこなかった。摩擦が0の言葉なんてある訳がない。オノマトペだとしても、なにかしらのエネルギーがそこにこもってる。多分それは、もし、あったとしても、摩擦0だから、俺の心にもまったく引っかからずに抜け落ちてしまっている。だから、出そうと思っても出てこない。残らないから、摩擦0の言葉は何があるかなんて聞かれても出てくる訳がないのだ。

 摩擦0の言葉はない。
 じゃあ受け取り側はどうだろう。言葉がボールだとしたら、摩擦0のミットを持っている人はいるのだろうか。
 ぬるぬるボールはなかった。じゃあ、ぬるぬるミットを持っている人はいるのだろうかって。

 そうか、実は言葉にも勝手に良い悪いを判断しているのは、我々人間側なんだから、勝手に摩擦を作っているのも我々だ。言葉はただそこにあるだけで、どの言葉も丸いただのボールなのかもしれない。それを受け取る我々の、心の形や質感が、摩擦を生んでいるのかもしれない。
 同じ言葉を受けても、受け取り側の心が、ザラザラしてるのかツルツルしてるのかヌメヌメしてるのかヌルヌルしてるのかペトペトしてるのか、によって生じる摩擦が変わってくる。
 みんな、ストレスや摩擦を起こしたくないに決まってる。だから、自分の心をヌルヌルさせて、摩擦0のミットを作れば、どんな言葉も摩擦0でうけ流すことができるのだ。
 心をヤスリでスベスベに。そこにニス塗ってツルツルに。仕上げにローションでヌルヌルにする事ができれば、どんなボールが当たっても大丈夫。反射で捕ろうとしても、ヌルヌルすべって心に残さない。じゃあ、実際に心にローションを、ココローションを塗りたくるには何をしたらいいかって話だ。

 いやいや、待て待て。ほんとに何も感じない『ココロ摩擦0人間』になっていいのか?ローションまみれのヌルヌルテカテカ人間で生き続ける事は果たして気持ちがいいのだろうか?

 摩擦といえば、きりもみ式の火起こし器を思い出す。サバイバルで思い浮かぶ、木の棒を擦って火を起こす、あの、アレだ。
 そう、摩擦は熱だ。摩擦は熱を生む。心に摩擦がなくなったら熱の起きない人間になってしまう。そんなの生きてると言えるのか。熱はエネルギーだ。その熱を生む摩擦は生きる上で、このサバイバルの中で大切な現象であるわけだ。ココローションぬるぬる人間になってしまったら、もう二度と熱のこもった言葉を発すことも、受け取ることもできなくなるだろう。自分の熱い想いを投げても、相手を通り過ぎ、やがて宇宙の彼方へ、空気抵抗もなく永遠に彷徨い続けて、銀河を少しヌルヌルした河にするだけだ。
 やはり摩擦は大事だ。摩擦とは生きてるってことだ。心が冷えたら寒風摩擦だ。こすって、こすって、熱を生め。こすりすぎて痛くなったらローションを使え。時にはローションを使ったっていい。強くこするのは良くない。でも熱がこもると力が入る。刺激に身を任せるな。適度にホットにローションだ。それでもこすり続ければ良い熱が生まれて、その先に気持ちよくなれる瞬間がくる。ローションは気持ちがいい。


 何を言っているんだ、俺は。
 なんだ、この結局何も言っていないような文章は。抽象的に、固有名詞も無く、長々と。何にも言ってないのと一緒だ。これを読んだ人はなにを思うんだ。なにも思わないかもしれない。
 あれ?この文章ってもしかして、摩擦0の文章?



 読んでくれて、ありがとうございます。

 スベっても、誰かに摩擦は、起きて欲しい。

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