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君は「ドラえもんひみつ道具レビューサイト」の存在を知っているか

つい先日、R-1の決勝メンツが発表されてたので眺めていると、史上初のアマチュア決勝進出者「どくさいスイッチ企画」とある。興味が湧いたのでyoutubeとかでネタ動画を漁ったら、これがかなり面白い。

典型的な一人コントではあるんだけど、どのネタにも風刺的/批評的にしっかりとした幹があって、主題えらびと構成の妙から生まれる構造的な裏切りがじわじわと効いてくる仕掛けが心地よい。社会人落語の実力者でもあるらしく、そのバックグラウンドと経験値が存分に反映されている形である。

ほぼすべてのネタ動画を見終わったころに、芸名に入っている「どくさいスイッチ」がドラえもんのひみつ道具にあったやつだとふと気づいた。それで、そもそもどんな道具だったか気になり始めてググってみると、件のレビューサイトにたどり着いたのだ。

どうやら非公式のファンサイトらしく、現在進行系で散発的に記事追加がされていっている。

で、道具紹介の記事を読んでいると、いの一番に引っかかったのは文章がやけにうまいという点だった。

外見にはまぁ普通によくあるチープなブログ形式で、文体も原作ターゲットの若年層でも読めるように平易な表現に徹してありルビも振ってあるのだけど、翻って中身の方は意外にもかなり大人向けで、骨太で含蓄あふれる文章に驚く。言ってしまえば子供には完全にオーバースペックといえる内容であり、このギャップがなんだかとても興味を引いた。

無償のファンサイトで地道に更新している熱量のほとばしりが説得力を醸している点は前提としてある。原作リスペクトの精神が細部まで染み渡っていて、文体的にも紹介内容的にもドラえもんワールドの世界観を崩さず、独りよがりの解釈と主張に走らない態度が一貫していて清々しい。

しかし、それ以上に豊かな知性と想像力に裏打ちされた洗練された文字の流れと視点の置きどころがあり、気付きと発見が散りばめられている。数記事ほどササッと流し読みするだけで、この静かな感動は分かってもらえると思う。

レビューにおける項立てもいい。「有用性」「危険性」「悪用度」「秘匿性」「革命度」の5項目をそれぞれ★5つで評価し、最後に総評するというフォーマットになっているが、現実世界で実際に使う/使われる場面を真剣に想像して検討していないとそもそもこういう評価軸にはならない。

本当に明日から自分がそのひみつ道具を使うと考えたとき、使っていることが他人にバレるとアウトである。道具の効用の再現性が減るに留まらず、逮捕・抹殺されるリスクも存分に孕んでいる。ゆえに「秘匿性」はそれだけで十分、道具の価値の根幹に関わる。

また「危険度」「悪用度」「革命度」の項を正面からレビューしようとしたとき、その多方面に及ぶ影響を捉える難しさに気づくだろう。当該のひみつ道具が社会や自然に継続的/発展的に与える因果を包括的に考量し、かつ簡潔に述べ立て、しかもてんでばらばらな各々の道具たちを統一的な基準のもとにおさめている力量は見事の一言。


さらに言えば、こういった作業を通じて、道具ごとの正確で面白い紹介に尽きない意味が生まれてくる点も見逃せない。共通した評価軸での評価と記事内での他道具の参照から、作中世界を離れた独自のひみつ道具ネットワークが出来上がってくるのだ。道具間の優劣比較や近縁関係、そして相補的な関係(これとこれを組み合わせると強い!)は、一話完結のコミックス連載という原作の性質とメディア的特性を飛び越えて、読者が思い焦がれた新たなひとつのSF世界を創出する営みとも言えるだろう。

こうなると俄然、欲しい道具ランキングの記事なんかも活きてくる。

サイト名でもある「ドラえもんのひみつ道具を一つだけ貰えるとしたら?」というのは日本では古来より繰り返し問われ続けてきた、それこそ「存在の問い」―なぜあるものは無いのではなくあるのか―並みに伝統的な問いである。でもこの問いは、会話がいっとき盛り上がりこそすれ、参加者個人ごとの嗜好と思想のぶつけ合いにしかならないことも多く、鳥観的に建設的に煮詰めていけることは少ない問いであった。

それぞれの道具の力量と限界を一望のもとに通覧でき、その関係的な知を確固たる足場としてはじめて、本当にもらうべき唯一つの道具の輪郭が浮かび上がってくる。本サイトは、その境地にただひとり、ひっそりと、しかし着実に、近づいているように思える。


コミックス全45巻中、現時点で16巻分までは網羅的な紹介がなされていて、ペースは遅めだが更新されているので、今後も折に触れて見に行きたい。長女もドラえもん好きだし。


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