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WBC振り返りと「憧れを超えた侍たち」を観た日記



今年のWBCはとにかく白熱した。

もともと野球は好きだし、昔ソフトボール部だったので親しみはあるスポーツ。

しかし最近は多忙でまったく観戦できていないことを、スター選手がいないからだと球界のせいにしてきたふしがあった。


ここにきて、母親が大の大谷翔平ファンである。

こちらは、(今となっては恥ずかしいが)大谷選手をまったく追っていなかったので、

毎日、
「うちのカレが凄いの♡」のトーンで母親から大谷ストーリーを聞かされていると、逆張りの気持ちが芽生えるといいますか。

「いやいや、そんな凄いやつおらんやろ」
といった、自分の中にいる大阪のおっちゃんが騒ぐというか。

WBCを観るまでは大谷翔平の何がすごいのかもよくわかっていない状態だったのだけど、それが逆に良かったんだと思う。


すごいなあ、、、大谷翔平は。
という純粋な感動があった。

二刀流だとかいいますけれども、どうせどちらかの技術がメインで、どちらかはサブなんでしょお?

と侮っていたら、どちらの完成度も高い…だと?

それに顔もかっこいい!
スタイルがいい!

うそやん!?

KOSEのCMの完成度、うそやん!?


と騒いでいたら、夫に、
「逆によく今まで触れないでいられたな」
と驚かれた。



さて、WBCの話だ。

初戦は中国戦。

役者の使いどころが上手いのか、いきなり大谷翔平ピッチャーである。
キャッチャーミットの快音がいいね。力強く三振をとっていく。

途中、ボールが当たってしまった審判を、中国のキャッチャーが気遣うシーンがあった。
これもいい。スポーツマンシップである。さすが仁と義の国である。

ヌートバーのことを最初は夫と二人、

「ヌートバー、初めて聞いたな。絶対ピーナッツバター系の濃厚なチョコレートのやつよな?」

と軽口たたいていたのだが、1番打者として積極的にバットを振ってはヒットを出し、後陣を引っ張っていくその姿。
センターで猛ダッシュしながら際どい当たりをスライディングキャッチする様に、すぐ心奪われた。

なんて高校球児のようなプレイヤーなんだ!
こういうプレーが日本人は大好きなんだ、泣けてしまうぞ!

たぶん私はほとんどの大衆の嗜好と「合う」ので、案の定、次の日のニュースでヌートバーは大ブレイクしていた。笑。

WBC初の日系人。メジャーリーガー。ということで、彼の代表入りを不安視する声もあったらしい。

いや、わかるのよね。
日本のリーグにやってきた外国人選手に、私たち何度もガッカリしたものね。
(彼らの一部が日本の野球を軽視してきた歴史だとか、日本の全員野球よりもメジャーの華やかなプレーをやりたいんだろうなとわかってしまう感じとか)

純粋に日本のリーグで活躍してきた選手が代表に入れないのに、その枠をヌートバーに譲ることが納得できなかったファンも多いようだ。

でもヌートバーは自分から日本の野球に溶け込もうとしてくれて、その心が観客にも伝わったんだろうなー。

人気が出るのは当たり前だった。



続く韓国戦でも、センターへの当たりをヌートバーがダイビングキャッチ!

本物だと確信はしていたけれど、やっぱりまぐれじゃなくて本物なんだ!と再確信できた良い守備だった…。

このあたりから、
「絶対みんなヌートバーを好きになる」
と予言していた栗山監督のコメントが見直されて、栗山采配のすばらしさにスポットが当たってきたと思う。

韓国戦では、吉田正尚選手がバッターボックスに立った際、「欲しいところで打ってくれる」みたいな説明が右下あたりに出ていたと思うんだけど、吉田選手は本当に欲しいところで打つからびっくり。

この日もタイムリー安打で逆転してくれたのは吉田選手だった。


3戦目はチェコ。

チェコの選手たちがプロリーガーではなく、本業を別に持っていることを、この日はじめて知ったという日本人は多かったと思う。私も漏れなくそれだった。

こういうの弱いよね。

好きなことのためなら頑張れる人たちの集まり。野球が好きだから集まった人たち。

あまりにも純粋な集団すぎて、あらためて、ここには子供の頃から野球が好きだった人間しか集まっていないんだということを考えさせられたよね。

選手もそうだし、観客も野球が好きだから。

もうそれだけでハッピーな試合だった。

佐々木朗希がデッドボールを当ててしまったエスカラ選手。彼が立ち上がり、全力ダッシュのパフォーマンスを見せた時に観客席が沸いた。
観客は、野球が好きな人の味方なのだ。


この日は3.11。
勝利投手になった佐々木選手は被災者で、ご家族の命を失っている。壮絶だ。

ヒーローインタビューにて。
インタビュアーは佐々木選手から震災に関するコメントを引き出したかったようだが、彼はそこにあまり言及しなかった。
たぶん、自分だけの震災ではなかったし、自分だけのWBCではないから、特別なことを言わなかったのだと思う。
不器用なひとなのだろうなと思う。

佐々木選手が後日談として、エスカラ選手にロッテのお菓子を持ってお詫びしたのも、なんだか、さりげなく自球団愛があるエピソードでよかった。

心開くまでに時間がかかるが優しい系の、森に住み距離をおきながら人の村を見守るおおきなモンスターというか、泣いた赤鬼系のタイプだと勝手に思っているので、佐々木選手のお茶目な一面が広く知られることを切に願う。

(とかいって、自分は佐々木選手に対して、なんか一年目から審判と揉めた人くらいの認識だったので本当に申し訳ない。)



準々決勝はイタリア戦。

バントもできるのか大谷。

ベンチも驚きのバントだった。イタリアの内野手が焦りすぎて悪送球をしてしまったね。

ホームランを打ちます、
三振もとります、
大型メジャープレーヤーです。
の、大谷がバントとは誰も思いつかなかっただろう。

彼が先輩達から「クソガキ」と呼ばれ、なお愛されている理由の一部が伺えた。笑。
今この時のために生きている人なのだな。

イタリアのベンチにはエスプレッソマシーンがある。
今回のWBCでは、敵チームの様子を知ることで、世界における「野球」そのものについて考えさせられることになった。

野球とはみんなで勝つものであり、
仕事をしながら練習するほど打ち込めるものであり、
コーヒーを飲みながら楽しむものでもある。

野球って…
野球って…

いいな!!

本当にそんなことを思える試合の数々だった。


大谷選手がインスタでチェコの選手に敬意を表したことや、チェコの帽子をかぶって空港に現れたことが話題になったけれど、彼がそうしたい気持ちになったのもわかるもの。

「野球が好き」

その思いを改めて自分に刻もうと思ったのではないかと想像する。

これまで戦ってきた各国の選手たちの
「野球が好き!」
の思いに正面からぶつかり、受け取ってきたこと。それは必ず、大谷選手が決勝まで活躍した原動力の一部になっているはずだ。



準決勝、メキシコ戦。

立ち上がりの良かった佐々木朗希だが、やはり強豪メキシコ。先制の3点を打たれてしまう。
泣きそうな佐々木朗希。

その後、日本側もチャンスが何本かあったものの、怪物なみに守備力が高いメキシコのレフト(通称「レフトの人」)が、嘘でしょ級の守りを見せてなかなか点を取らせてくれない。

どう考えてもホームランにしかならないボールが捕られてしまうんだもの。

準決勝まで来た相手だ。メキシコの気迫、鬼のようである。

けれど吉田選手がやってくれた!
さすが欲しいところで打つ男!
ファールかと思われる当たりだったが、無事ライトスタンドに入ったボールで3ラン。

このときの佐々木朗希の喜びよう。笑。
ずっと祈るような表情だったものね。


これで3対3。
安心したような、それでも安心できないような、不思議な雰囲気になってくる。

嫌な予感は的中してしまうもので、メキシコのバッター陣が負けじと打ち、あっという間に5-3まで点差がひらいてしまう。


一進一退の攻防に、解説のスタジオもお祭り騒ぎになったり、お通夜になったり大変である。笑。

7回、メキシコのランナーが鮮やかな走塁を見せ、アクロバティックな動きで源田選手のタッチをかわそうとする。
一度はセーフの判定をくらうも、ここは負けたくないところ。判定チャレンジが成功し、アウトとなる。

風向きが日本にやってきた。

源田選手は韓国戦で右手を骨折しており、万全な状態ではない。けれど守備といえば源田、というほど外せない選手だ。
もちろん怪我は心配なのだが、源田がいなければどうなっていただろうというシーンはいくつもあった。
ここも、そんなシーンのひとつだった。

泣いても笑っても最終回がやってきた。

何といっても大谷から始まるクリーンナップ。負けているとはいえ、最好機だ。
なぜかまだイケる予感がしていたし、そう感じていた日本人は多かったと思う。

たぶん大谷は、ホームランを打つ気はなかった。ホームランなら1点にしかならない。絶対に後の選手が打ってくれるんだと信じるように、初球を打ってヒットになった。

大きなヒット。セカンドまで回った大谷がこれまでで一番大きく咆哮する。

勝つぞ!!

確信しているかのような咆哮だった。

そして、欲しい時に打ってくれる男、吉田の出番だ。
でも、吉田が打っても2点。同点にしかならない。
もう9回。選手達は疲弊していて、ここでモノにできなければ延長戦。チャンスを掴めなければ流れが悪くなりメキシコに押し切られる未来もある。

吉田に打ってほしい気持ちと、同点でいいのかという気持ちがせめぎ合う。

焦らず、吉田はフォアボールを選んだ。

ノーアウトランナー1.2塁。


そして村上。

この試合、村上はまったく良いところがなかった。ここまでも苦戦気味だ。

ノーアウトだから、観戦者としては、村上が打たなくても誰かが打つだろうという心の余裕はあった。岡本だって後ろに控えている。

ここはバントの場面だ。
日本の野球をよく知る人ほど、バントだと思ったらしい。

だが初球、村上は振った。快音は響いたがファールだった。球はしっかり見えている。空振りに終わっていたこれまでの打席とは少し違う気がした。

二球目。村上は微動だにせず見送った。ボール。これもしっかり見えている。

もしかしたら。
もしかしたらと思った。

三球目。
バットが回る。快音だ。センター方向に伸びていく。
ホームラン?
わからない、でも大きい!
守備の頭は越えそうだ、たぶん越える!!センターの奥だ!!

周東選手が電動モーターで走っているような快足を見せる。大谷もボールの行方を確認したあと必死に走る。

サード方面でみんなグルグル腕を回す。
ランナーコーチャーには見えている、ボールはまだセンターだ、気にせず走れ、とにかく走れの合図だ。

ホームランでもなく、フライでもなく、ヒットだった。だからみんな走った。
あまりに劇的な最後だった。

吉田が3点返していなければ、源田がアウトにしていなければ、9回大谷から始まる打順でなければ、周東の走りがなければ、村上が振らなければ、この采配でなければあり得なかった最後に、誰もが興奮した。

これ以上のストーリーあるの??



という状態で迎えてしまった、

決勝戦。アメリカ。


これまでの全力を出し尽くすように、投手が継投される。(FF10のラスボスでこれまで手に入れた召喚獣をぜんぶ使うみたいなの)

日本野球(というか読売ジャイアニズム?)に慣れきっていた私が驚いたのは、イニングの途中で投手の調子が悪くなっても交代しないことだった。1イニングはしっかり投げさせる。

ホームランやヒットを打たれてしまった投手も、最後はしっかり三振をとってガッツポーズしてベンチに帰っていく。
その背中の頼もしさたるや。

そうだよな。打たれたらそこで終わりでは成長がない。納得感もない。結果だけがその人の全てではないのだから。

投手の続投が今回驚いた箇所だった。


8回の終わりあたりから、もしかして最終回は大谷が投げるのでは?という予感がしてくる。

そしてこのままいけば、三者目のバッターはマイク・トラウトだ。

トラウトといえば私でも名前を知っている。


なぜなら大谷翔平のファンである我が母親が、エンゼルスの試合を観戦するうちに異様にメジャーリーガーに詳しくなり、「今日のトラウトは…」と、その活躍について伝えてくる。

田舎出身の母親は「東京」という響きにさえ憧れと畏怖のないまぜになったコンプレックスを感じている人だったのに、まさか見たこともないアメリカの大地の、ロサンゼルス・エンゼルスの主砲トラウトについてこんなにも目を輝かせながら話す未来がくることを想像しなかっただろう。

日本に住まう後期高齢者たち、全員の息子が「大谷翔平」であるならば、トラウトは息子の友達だ。

お隣のトラウト君だ。

その、お隣のトラウト君と、大谷翔平の対決が実現するかもしれないのである。


迎えた9回。
案の定、クローザーは大谷翔平だった。

3-2。
日本は1点リードしている。

けれど、準決勝で見せられたあの劇的なサヨナラ勝ちで、私たちは勝負のわからなさを脳裏に焼き付けられた。

今度は自分たちが追いかけられる番である。

ここから逆転される可能性は、ありすぎるくらい、ある。


先頭バッターから出塁を許してしまう大谷。

この時点で、トラウトとの最終対決の可能性が薄れた。

やはりそんなにうまいことはいかないか、と、乗り出しかけていた体を戻し、深く腰かける。


しかし2番打者のムーキー・ベッツをダブルプレーにとり、一気にツーアウト。
(このとき見事な投球を見せた源田の右手にも泣ける。)

まさかの、最終打者。トラウト。

再度、身を乗り出す。


まるで歓声が遠くなるような、映画のような場面。


野球の神様っていたんだ……。

自然に、厳かに、そう思った。

野球の神様がいて、
「こんな試合が観た〜い⭐︎」
と無邪気に采配しなければ有り得ないようなことだもの。こんなの。


結果、

最終球は、

見逃しではない、凡打でもない。


見事な、

空振り三振。



吠える大谷翔平。今この時に生きる力強い表情。

万感の思いでバッターボックスを去るトラウト。

ベンチから飛び出す侍JAPANたち。


……。

やっぱりね、すごいと思うのは神様が作ったみたいなシナリオだということだよね。

日ハム時代、大谷翔平を育てたとも言える栗山監督と、再びタッグを組むことになったというところからすでに伝説っぽいし。



あれから3ヶ月。

ダイジェスト版である「憧れを超えた侍たち」

観てみることにした。

母が「冥土の土産に観に行きたい」というので、道案内もかねてついていくことにした。



個人的にはかなり物足りない内容ではあったものの、おそらくリアルで起こったことが濃すぎて、どんなまとめ方をしても足りなくなってしまうのだと思う。

あまり知られていない選考会やキャンプの様子がわかったのは良かった。
ベンチ内の細かい会話も良い感じ。
監督の思いもあらためて伝わってきて感動した。

youtuveやテレビ番組では見ることのできない蔵出しの映像がけっこうあったのは良かったかと。

裏方にいた人たちに気を遣った結果であろうか、途中棄権した選手たちの話の尺で、メインで最後まで戦ったメンバーの尺がなくなっているような気がしたのは少し残念だった。当該選手のファンは嬉しいかもだけど。

WBCから3ヶ月という短期間でこれだけのものを作るには、ちょっと足りなかったのではないかなと想像する。

起こった出来事すべて再考察して組み立てた番組があれば観たい。それはとても観たい!

とにかくリアルが一番すごかった。という話です。

ちなみにエンドロール後の映像は我が母親に大変ウケが良く、「かわい〜♡」とずっとクネクネしてました。笑。
あの映像のためだけにもう一度観ても良いらしい。笑。


私は、スポーツしていた人の書いた書籍などに感銘を受けることはあっても、プレーそのものに感銘を受けたことはなかった。

運動神経が良い方でもないので、あれは、デキる人だけがわかる世界なんだと思っていた。

でも大谷翔平選手のプレーには深く深く、感銘を受けた。


今を見て、自分をよく見つめて、人に敬意を持ち、好きという純粋か気持ちを何よりも大事に追っていく。

それって、野球だけではなくどの分野にも言えることなんだろう。

だから彼のプレーは人を感動させ、人に勇気を与えるんだね。


スポーツから何かを受け取る人の感覚が、初めてわかった体験だった。



これからの野球が盛り上がっていくこと、ますます楽しみだ。





仁礼(にれ)

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