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杞憂であってほしい。輸入がとまると大豆もイモもすぐにはつくれないし養殖魚と畜産飼料も自国でまかなえないままのクニ



はじめに

 冷静に現状について記したい。博士(農学)の学位をもち、作物をつくり販売してきた経験からこのクニについて把握をこころみようと思う。いまこの時点で急に海外から食料がはいらなくなると仮定する。こじれて長期化するとまっさきに世界でこのクニほどあやういレベルのギャップをうむ場所はどれほどあろうか。

あまりショッキングな文にしたくない一方で、正常性バイアスにはまりたくない。冷静にじぶんのやってきたことからわが身をかえりみつつ考えてみたい。

(注意)わたしはここで引用したいかなる団体とも利害関係をもちません。あくまでも個人の考えです。

サツマイモは…

 数年前から西南日本を中心にサツマイモ基ぐされ病が広範囲にひろがっている。罹病してほぼ壊滅した圃場では対策なしにもちろん翌年にはつくれない。イモづくりのベテラン農家でも下記のように20項目以上の対策をとらないと数年でつくれなくなるほど。

農研機構ほか「サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策」p.34より抜粋

緊急避難的にそれまでつくっていた主要な品種をすこしマシな耐性のある品種におきかえるところもある。

ベテランの農家でさえ商品としてつくるために多項目の対策をすべてとるほど。アマチュアレベルのわたしはこのはなしを聞いて以降、3年以上つくらない。周囲に迷惑をかけたくないから。それ以前は動物害で毎年全滅していた。すでにながいことじぶんでつくったイモをひとつも食べられないでいる。

はたして救荒作物となりえるだろうか。

農水省は本年7月18日時点でホームページ上には、輸入食料が止まった場合の国内でまかなえるはずの代替食料を算定していた。足らないエネルギーをイモでおぎなうつもりの記載があった(現時点では以下のとおりなぜか削除されている)。

https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h18_h/trend/1/t1_t_01.html


そして…。べつの4年前の資料は専門家をまじえて同様の結論を得たらしい。やはりイモが登場する。以下に引用する。

【演習の成果】
■米、小麦、大豆、いも類について、増産量の仮定を置いて、生産転換の方法を検討
■具体的には、種子・種苗や肥料・農薬・農業機械などの生産資材の確保、農地の確保、生産技術指導、産地・都道府県との調整等について検討

農林水産省「緊急事態食料安全保障指針」
に関するシミュレーション演習
の実施結果について p13より抜粋
2019.12

上に書いたようにイモのうち、サツマイモについてはここ数年、適地では四苦八苦の状況がつづいている。まん延を阻止するため周辺地域でやっきになっているぐらい。

救荒作物として活躍した江戸時代といまではこのクニの人口は4倍ほど。それだけ聞いてもイモで代替できるだろうか。ましてや飽食の時代からの急展開。江戸時代とは食をとりまく状況はまるで違う。

さて、大豆は

 上の削除された農水省の推定では肉と魚はほとんど口に入らなくなる。孫引きはすべきでないがいたしかたない。引用した当時の自分のnote記事から。

木山仁 2022.7.18 note記事一部を抜粋

記事内の図の記載のように卵すら1週間に1個。肉・魚に代替するはずの大豆は数年ほどはたけでつくった経験がある。この地域でもっともスタンダードな品種。たしかに1年目はそこそこできた。

ところが場所を変えつつ2年目。半分もできない。ほぼ同じ時期に播種して施肥などもほぼおなじ。やはりできない。おかしいなあと3年目。まったくできなかった。まあそんなこともあるだろうと、周囲のベテランの方にも相談し、そちらの畑でもつくってもらった。やはりほとんどできないとの返事。その方も首をひねる。以前ならばできていたという。

理由を考えてみた。ひとつには毎年気候が安定しない。なつのあいだ乾燥すべき時期に雨がふり、ただでさえ高温多湿で大豆は播種しても種子のまますぐに傷んでしまう。それならばとポットで植えても根がつかない。おかしい。

さて、麦は

 麦も1年目は豊作だった。

2018年4月 はだか麦

それに気をよくして翌年。場所をかえて半分もそだたない。その翌年。ほぼダメ。

救荒作物の場合、農薬や肥料などの入手も同様に困難になるのは必定。いずれもそれなしで自前でつくれたほうがいい。そのための予行演習をこころみている。ところがこんな状況。

なんだろう。やさいはまだしもこうした基幹となる作物はのきなみつくれないでいる。あせりを感じる。わが家の防衛のためと真剣にやっているのだけれど。

関連して、みかんも木ごとつぎつぎに枯れてほぼ全滅しかかっている。ことしからわが家ではみかんを買うようになった。これもくやしい。

このクニの想定は

 中央のクニのお役所はなにかコトがあったときにすぐに農産物がつくれる、イモだったら救荒作物だからなんとかなると役所のなかで考えていないか。ましてや多くの作物の種子すら輸入にたよるクニだ。そんな混乱のときに外国からやさい種子が入ってくるだろうか。あらたな種子法の定めで自家採種できたとしてもそれを他人にはできた作物ともどもゆずれない。

いまやつくり手のいない畑は管理できず(わが家もふくめて)荒れている。すぐにつくれるわけでなく試行錯誤をくりかえしつつ、数年がかりでさまざま対策してようやくつくれるもの。上に書いたように以前ならばつくれたはずのものすら、このところの気候変動の影響かどうかわからないがつくれるとはかぎらない。

いや、ストックがあるさとか、冷凍してあるしというかもしれない。そういう場所への運搬、さらに維持管理するためにじゅうぶんなエネルギーの供給がもとめられるはず。たしかに原油は国家備蓄分がそれなりにあるが、限界がある。

その想定や把握はどうだろう。食料が外国からはいらない状況とはすなわち、エネルギーの供給もままならない状況ではないか。タテ割りで農水省の管轄ではないからわからないではどうしようもない。

わが家の対策と

 どうも机上と現場では最初の一歩と思われるぶぶんひとつとっても、公開されている情報だけではアヤシイ。もちろんクニや役所にたよる気は最初からないが、こういう食料に関することは安全保障の観点からもっとも慎重にかつスムーズに対処できる想定をこころみておくべきではないか。

身勝手かもしれないが、家族だけでもなんとかしようと再びやさいを作ろうかと準備中。畑は家から離れて監視が行き届かず、家族の生存のためのエネルギーになる作物は動物害でままならない。そこで自宅の庭木をとっぱらいこれから本格的に3重に囲いをしたはたけにするつもり。

はたしてこのクニではわたしもふくめて、重要なコトほど思考停止していないか。あえて考えないのか、それとも余裕がないのか。果たして本気で考えていまのところ当面対処できる期間ぶんの準備と想定をおこなっているだろうか。

と記したところで、たしかにやっていることになるのかどうかわからないが、こんなものが出てきた。やはりイモが登場。

「緊急事態食料安全保障指針」 に関するシミュレーション演習 の実施結果について(表紙一部) 2019.12.農林水産省 

上の文を書いたあとに見つけたすこし古いけれど専門家の方のご意見。

(前文略)食料自給率の低下は,食料問題だけでなく,環境問題, 農業問題といった多くの諸問題に直接あるいは間接的に 関連していることがわかる。その点からいえば,わが国 の今日的課題はあらゆる意味での「自前の食生活」を取り戻す必要があるということである。そしてそのことが, 前述の諸問題を解決に導くことを示している。わが国が 「自前の食生活」を取り戻すためには,食料供給側のみの努力だけではなく,特に,消費者側の努力と意識改革が必要である。

わが国の食料自給率向上とその効果について考える 上岡美保 日本食生活学会誌 Vol.21 No.3(2010)p.178より一部を抜粋.

おわりに

 なにも準備できてない場合、たいていこういうときには弱いところにしわ寄せが行く。考えたくないが戦後の食糧難以上のことすらおこりかねないと想定し、まずはこうした方々への食料供給から現実として考えていいのではないか。それは同時に災害への備えにもなる。

もちつもたれつ、周辺諸国とおたがいに貿易をつうじてどちらも満足できる関係の構築と維持こそだいじ。緊急の場合にはできるだけ基幹となる部分を維持するのがいちばんだが、万が一もある。その際のそなえをよそにたよらずクニが自立してそなえる…。ここを心配するのは杞憂だろうか。

たとえばいつおちてくるかわからない隕石にそなえて地下シェルターを作ろうという話とはちがう。交通事故の心配のほうがはるかに遭遇する確率は高い。

食料の枯渇は絶対に起こってほしくないし、それを避ける努力をつづけたいが、起こる可能性は自然災害をふくめてこのクニでは確率的に「注意を要する」点は納得いただけそう。

引用文献

1)サツマイモ基腐病の発生生態と防除対策 農研機構ほか 2022.3.
2)令和3年度 食料自給率・食料自給力指標について 農林水産省 2022.8.
3)「緊急事態食料安全保障指針」 に関するシミュレーション演習 の実施結果について 農林水産省 2019.12.
4)わが国の食料自給率向上とその効果について考える 上岡美保 日本食生活学会誌 Vol.21 No.3(2010)173-178.

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