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(ショートショート)再生可能な素材と動力を持つ車の開発


はじまり

 完全なる既存の車の行き詰まりと、進んだとしてもガラパゴス化するしかない某国の自動車産業。起死回生のためのイチかバチかの車の開発に乗り出した。


再生可能な素材とは

 納得の行く素材選びが大切。顧客の車を選ぶ目は厳しくその点で妥協はできない。そのコンセプトは再生可能なことと、もうひとつは安全性能。

この両者を合わせ持つ素材選びは難渋を窮めた。それなら時代のニーズですでに車は取って代わっているはず。そうならないのはそんな素材など見つかるはずはないとおおかたの開発者が考えていたから。

だが、そのブレークスルーはあっけなく訪れた。ある開発者の4歳の息子さんのひと言がヒントになったのである。

秘密裏にその素材をもとにした試作車がつくられ、巧妙にデザインされた動力機構とともに走行テストが繰り返された。すでに別途すすんでいた動力伝達機構が極限まで高められていた結果、それと組み合わされ、その目標はわりとあっさりクリアできた。

あとは安全性能。こちらもわりと容易に目標をクリアした。素材が素材だけにこれは容易に想定でき、結果もそのとおりの数値を示した。物理法則はうそはつかない。


再生可能なエネルギーとは

 こちらも素材が画期的だっただけに、それならばとおもいっきりわりきった考えにもとづいて選択された。難しい機構はコストがかかるばかりで百害あってメリットにならない。シンプル・イズ・ベスト。

それだけにあっさり海外の同業者に技術を盗まれる恐れがあった。ことごとく真似されるに違いない。したがってあえて特許などはとらず、なんとランク下に見られかねない実用新案で提出。

目立たないだけに世間に出ても注目すらされず、真似しようという外国企業すら出てこなかった。これは目論見どおり。

むかしからある動力だけに、その機構や仕組みはあらかたわかっている。したがってあとはいかに効率よくその動力から得られるエネルギーを無駄なく車の運動能力に活かせるかがポイントとなった。これまで培ってきた技術の粋はまさにその一点に集中され、生かされる結果となった。

これは奏功し、航続距離などは現在候補とされているほかの燃料をもとにした方式の車と遜色ない程度に到達した。


コスト削減に成功

 そしてなにより棚からぼた餅。ひょうたんから駒。素材と動力機構を刷新したおかげで、コストを大幅にダウンすることが可能となった。

上述した車の金型の制作、これは製造コストの中でも飛び抜けて高いもののひとつだが、これをほとんどタダみたいな価格で制作できた。これは画期的だった。上でこの語をすでに使っているが、ひとつの車の開発で「画期的」という語を2回使うこと自体がありえない。

それと素材が顧客に受け入れられやすい天然素材だったことも受け入れられた。もちろん素材が素材だけに劣化試験をクリアするため、表面には新開発の特殊な塗料が使われた。こうした周辺領域の開発研究に余念のなかった無駄とも思われかねなかった企業の技術の蓄積が功を奏した。


お披露目

 さて、完成車のお披露目、政府の代表者、経済界の重鎮、世界各地の記者などの前でこの車は披露され、目の前を試走。その軽快な走りに驚きの声が上がった。

同時にその横では2号車による衝突試験の実演。こちらもシートベルトで固定したドライバーはなにごともなく車から出てきたし、車には痕跡すら残っていない。ふたたび驚きの歓声。

そして、車へのエネルギーの供給でもう一度、おお~という声が響いた。なんと技術者のひとりが進み出て車から出ているくの字型のレバーを手に持ち、くるくると回し始めたのである。何世紀か前の自動車の開発初期を彷彿とさせる。

おおかた5分ほど回し終えると、その技術者は運転席に腰掛け、車のドアを閉じた。発進。こうして世界初の天然ゴム製車の第1号と2号は無事に販売にこぎつけた。


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