グループで物語を創る、ということ ─シナリオスタッフ募集2023
ストーリーノートの採用の傾向
株式会社ストーリーノートは来春で設立5年となり、定期採用も本年度で4回目になります。
過去のエントリー数は以下の通り、年々増加傾向にあります。
2020年度 109名
2021年度 424名
2022年度 506名 ※処理能力の限度に達したため早期受付終了
大勢に志願してもらえるのはありがたいことですが、エントリー数が多くなれば必然採用倍率も厳しくなり、心苦しさも感じます。
採用倍率は年度によって異なりますが、概ね 50~70倍という狭き門です。
採用過程では志願者の方々と様々なコミュニケーションを取りますが、もっともよくいただく質問は、こういうものです。
「グループで物語を創るというのは、具体的にどのように行っているのですか?」
非常にもっともな質問だと思います。
『ストーリーノートはグループで物語を創る』
これは日頃から、様々な場面で標榜していることですから。
この具体的な方法について表向きに説明したことはなかったと思うので、2023年度の志願者に向けて、可能な限り言語化することを試みたいと思います。
ちょっと教科書チックになってしまうと思いますが、興味のある方は是非ご一読ください。
グループ内におけるメンバーの役割
一口にシナリオライターと言っても、社内では4つの職級に分けられています。
シナリオディレクター
リード・シナリオライター
シナリオライター
シナリオアシスタント
それぞれの職級は、以下のように定義されています。
シナリオディレクター
業界内において名の知られた存在であり、その人のシナリオ能力を求めて業務の依頼がある
リード・シナリオライター
プロジェクトを進行管理しつつシナリオ全体を完成させられる
クライアントとの交渉役として窓口の役割ができる
各スタッフに作品の方向性を示し、クオリティの保証ができる
シナリオライター
自分の担当シナリオを責任をもって完成させられる
自分の担当以外のシナリオのクオリティを高めるアイデア出しができる
シナリオアシスタント
プロットの作成ができる
指示されたシナリオやテキストを作成できる
上長のサポートができる
積極的に有効なアイデア出しができる
一本の物語の制作業務に対して、各職級のスタッフがメンバーとなってグループを形成します。
ここでは、もっともオーソドックスなチーム構成について例示します。
こういったかたちで、少なくとも3名、多ければ6~8名程度のチームが組まれます。
チーム内における各職級の役割は以下のようになります。
シナリオディレクター
クライアントの合意を得つつ、物語のクオリティに責任を持つ
シナリオライターに物語の方向性を示す
リード・シナリオライター
シナリオディレクターのサポート
プロジェクトの進行(スケジュール)に責任を持つ
自らもシナリオの担当を持つ
シナリオライター/シナリオアシスタント
シナリオの担当を持ち、シナリオディレクターが示した方向性に応えるよう、案出し、プロット作成、ブック(シナリオ本文)作成、テキスト作成などをする
先ほどの図に簡単な役割の注釈を加えると、下のようになります。
定義上はこう定められていますが、実際の業務の場面では、シナリオ規模や担当するスタッフのスキルに合わせてかなり柔軟に役割が設定されます。
一点知っておいてほしいことは、シナリオディレクターは、他の職級とはやることも責任も明確に異なる、という点です。
具体的な作業の進め方
ストーリーノートに依頼していただく仕事は、シナリオディレクションの領域まで含めてご依頼いただくことが多いです。
よって、ほとんどのプロジェクトで社内にシナリオディレクターが設定されています。
シナリオ制作の進め方は、これもオーソドックスな例ですが、大別すると下の7工程になります。
各工程の詳細は、以下の通りです。
①あらすじ
物語全体のイメージや方向性をA4で1枚(1500文字)程度にまとめた資料
シナリオディレクターが作成する
「シナリオ企画」、「梗概」、「シノプシス」などと呼ばれる場合もある
シナリオディレクターが、(プロジェクト全体の)ディレクターと協議の上で物語の全体的なイメージを明確にし、チーム内のシナリオライターに共有します。チーム内でフィードバックを受けながら、さらに完成度を高めていきます。
②キャラや世界観設定など
制作するものの内容はプロジェクトによって異なる
キャラや世界観などはすでにプロジェクト側で固められているケースも多い
③概要プロット
パート分けされた物語の一部をA4で1枚(1500文字)以内にまとめた資料
シナリオ担当者が作成する
物語の説明に徹し、レトリックやセリフを用いることは原則的にしない
シナリオ担当者を務めるのは、リード・シナリオライター、シナリオライター、シナリオアシスタントの3職級。シナリオディレクターは原則的に担当を持ちません。
書いたものは担当者が音読し、チーム内の全シナリオ担当者の確認を受けます。
そして、「もっと面白くできる余地はないか」、「キャラクターは魅力的か」、「矛盾はないか」、「面白さがちゃんと水準に達しているか」など、様々な側面から徹底的に検査されます。
その上で、最終的にシナリオディレクターの承認を得たものだけが完成品となり、次の工程へと進みます。
④詳細プロット
概要プロットをより綿密に書いた資料。書き方はプロジェクトによって異なる
シナリオ担当者が作成する
承認を得るまでのプロセスは③概要プロットと同じ
⑤ブック(シナリオ本文)
ト書き、セリフなどを記した、一般的に「シナリオ」と呼ばれるもの
シナリオ担当者が作成する
承認を得るまでのプロセスは③概要プロットと同じ
書き方は指定される場合もあるが、任された場合は社内のフォーマットにて作成する。
⑥様々なテキスト作成
ゲームならフレーバーテキスト。ARGならサイト記事など、プロジェクトによって様々
承認を得るまでのプロセスは③概要プロットと同じ
⑦リテイク業務
シナリオ担当者が作成する
承認を得るまでのプロセスは③概要プロットと同じ
シナリオというものは、完成して納品したからそれで終わりとはならず、完成後に繰り返し手直しが必要になる宿命にあります。
どの分野でも必ずありますが、ゲーム制作の場合は特にリテイクが多い傾向にあります。
よって、この工程で生じる怒涛の如きリテイクの嵐を乗り越える能力こそ、シナリオライターの真価であると言っても過言ではありません。
今回示したものは、あくまでも1ケースに過ぎず、こういう下敷きはあるものの、実際は各プロジェクトの状況に合わせて柔軟にやっています。
上記のようにまとめてしまうと簡単な流れ作業のようにも見えるかもしれませんが、現実はそうシンプルではありません。工程の③~⑦はシナリオディレクター承認が必要であり、承認を得るためには複数回のリテイクが繰り返されるのが常です。リテイクが10回を超えることも特別珍しいことではありません。
シナリオ教本として多くの人に愛読された名著「ハリウッド・リライティング・バイブル」は、シナリオのリライティング(書き直し)術に焦点を当てた本でした。シナリオライターにとって、リテイクに対応する技術を得ることは、それほど意味深い、価値の高いことだという一つの証明になっていると思います。
グループで物語を創る、ということ
ここまで読んでみて、グループで物語を創る工程について、イメージはできたでしょうか。
中には、こんなふうに感じた人がいるかもしれません。
「グループで物語を創ると言っても、結局はシナリオディレクターに集権的な仕組みなんだな」と。
もしもそう思った人がいたら、それに対する私の答えは、「その通り」です。
『グループで物語を創る』というのは、決してみんなの意見を分け隔てなく採用する合議制でやろうという意味ではないですし、ましてや多数決でやろうという意味でもありません。
私の考えるグループワークとは、≪圧倒的美的感覚≫を持つ一人のシナリオディレクターがいて、その人の実現したいものを各シナリオライターは理解に努め、献身的な姿勢でその完成イメージに肉薄(あるいは超越)する物語を創り、チーム一丸となって完成度を高めていくやり方です。
物語というものは、絵画や音楽やゲームと同じ、人の感情を揺さぶる作品です。
そういった作品を創るとき、合議によって生まれた角の取れてしまった内容では、誰かを感動させることはできません。
すなわち、物語づくりという作業は、どう煎じ詰めたところで結局は属人的なのです。
それ故、物語づくりは、しばしば個人技に偏ってしまう傾向にあります。日本においては、その傾向はますます顕著です。
ただ、属人的であるはずのその世界に、グループで創るメソッドを持ち込んだ。各メンバーの献身性によって一人の作家(シナリオディレクター)の美的感覚を極限まで高めようとする、正解の存在しない世界で限りなく正解に迫ろうとするこのやり方こそが、ストーリーノート流の『グループで物語を創る』ということなのです。
シナリオスタッフ募集2023
株式会社ストーリーノートは、幸いにして多くのクライアントからご依頼をいただける状況にあり、事業規模は毎年成長を続けています。
並行して、自社製品を生み出す準備も着実に進んでいます。
本年度も、10名前後の新たな仲間を募集します。
今年はシナリオ事業部だけでなく、「ロゲットカード」などを運営するリアルエクスペリエンス事業部、クリエイティブスタッフを支える総務部のスタッフも募集します。
新卒・未経験者歓迎。
完全リモートワークのため、居住地も問いません。
ただ面白いばかりでなく、「誰かの心に深く突き刺さる」、「初めての体験に胸を躍らせる」、そんなコンテンツにはいつもストーリーノートの名前がある。そういう会社になることを目指して、毎年様々な新ジャンルに挑戦を続けています。
「誰も見たことのない新しいものを創りたい」「人をびっくりさせることが何より好き」そんな想いを持っている人は、摩訶不思議な物語づくりの世界へ、是非ここから飛び込んでください。不安を覚える必要はありません。こんなに楽しい仕事は、本当に他にないと思うので。
皆さんにお会いできることを、心から楽しみにしています。
2022.10.4
藤澤 仁
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