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どんな立地でも「自然」を感じる、自然を生かした住まいとは…

人はふだん暮らしているところとは違う環境や風景を感じたいという思いから別荘や第二の拠点を求める傾向があります。常に「自然」を生かした設計を実践している建築家の岸本和彦さん。そもそも自然とは何か、自然を生かす建築とはどういうものかを解説していただきました。

自然はどこにでもある

一般的に「自然」と言うと、多くの人は気がたくさんある海を思い浮かべるのではないでしょうか。木々に囲まれた暮らしを望む人が希望通りの土地を手に入れることができたら、とても幸運なことですが、それが叶わない人もいます。都市部の十数坪の土地にも、まず大地があるし、東西南北で変わる太陽の風の動きがある。そして日本にいる以上、移りゆく四季があります。言ってみればこれらは「地形としての自然」であり、私たち建築家はこの歴然とした、根源的な自然を無視して建築設計を行うわけにはいきません。

自然とは、極めてランダムで不均一なものです。造成地は平らだと思うかもしれませんが、よく見れば数センチ、数ミリ傾いており、必ず「違い」があります。大事なのは自然物としての木があるかどうかではなく、人間の意識・行為を超えてそこにある不均一なものをきちんと読み取って、建築に生かせるかどうかです。

中庭に丘をつくり、上下階をつないだ「鎌倉の丘庭」(設計/acaa建築研究所)

別荘は非日常への憧れでもある

別荘もまた「違い」なのです。日頃暮らしているのとは違う環境や風景を感じたくて人は別荘を求めるのであり、この違いを「憧れ」と言い換えることもできます。別荘に特別な条件があるわけではなく、非日常があればいい。だから、都市住民は山や海に、農村住民は都市に別荘を求めるのです。

であるならば、建物の中にも不便さはあっていい。例えば、土地の高低差を生かしたスキップフロアを組むことで、外部とのつながりと縦方向への広がり、さらには普段の暮らしでは不便だと感じる上下移動が、新鮮に感じられて価値に変わるのです。住宅にし別荘にしろ「ここでなければならない」と言い切れるような建築地などまずないと思います。別荘の場合、日常の暮らしとの違いを実感できる場所ならどこでもいいとさえ思います。

もし地形的、自然的な要素が足りない造成地や狭小地に建てる場合は、建築の中に「模擬的な地形」をつくって自然を感じることもできます。土地の段差をきっかけに、床の高さ、天井の高さ、壁の量、仕上げの素材を変えることで空間の分節と視線の抜けをコントロールすることにより、家の中に集落の風景を生み出すことができるのです。(続く)

開 口部を低く抑えてソファに座った ときに見える景色を楽しむ(設計/acaa建築研究所)
基礎の残土を利用し て小高い丘状の庭をつくって、高低差をつけた「地形の残像」
(設計/acaa建築研究所)

「SO上質な日本のすまい2」では、自然や地形を生かした住まいを多く手がける岸本和彦さん(acaa建築研究所)の事例を元に、自然と住まいの関係性をたっぷり紹介しています。続きは本誌にてぜひ!

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