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過酷な自然環境を味方にした、建築家・藤井厚二の聴竹居

弊社が発行している「和風住宅」「和モダン」では、日本を代表する名建築を掲載しています。今回は「和モダンvol.10」(2017 年12月発行)から、建築家・藤井厚二氏の「聴竹居(ちょうちくきょ)」を紹介します。

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3方が開放できる縁側。左手の障子の先は客室。

5回にわたる実験住宅

藤井厚二氏は環境工学の先駆者として知られる建築家です。東京帝国大学建築学科を卒業し、竹中工務店に入社しました。竹中工務店では代表作のひとつである大阪朝日新聞本社社屋などを設計し、その後京都帝国大学の教官となり、建築設備から環境工学に関する研究をおこなっていました。聴竹居の設計もその一環。生涯で60軒ほどの作品を設計し、昭和13年に49歳の若さで逝去されました。

藤井氏は住みやすく優れたデザインを研究するために、次々と実験住宅を建てた類い稀なる建築家。私財を投げ出し、京都と大阪の境にあり見晴らしの良い大山崎の高台に1万2000坪もの広大な敷地を購入し、実験の地と定めました。この前に神戸市に1棟目の実験住宅を建てており、その後大山崎の地に小住宅を2棟建てています。5棟目の集大成、すなわち最後の住宅が聴竹居です。

方位についての検証

聴竹居は平屋建ての本屋が173.2㎡、これに接するかたちで43.9㎡の閑室と呼ばれる離れがついています。さまざまな工夫がされており、例えば方位について、家を建てるとき、東西南北のどの方向へ向けて建てるのが一番よいかという点を一番先に考える必要がありますが、この点に関しても検証しています。

1棟目の住宅は定石通り南北方向に軸線を向けていますが、2棟目はわずかに西に向けています。3棟目と4棟目は45度西に向けていて、最後の聴竹居では再び30度西に向けています。すなわち、北より30度西に向けて家を建てるのをベストとしたのです。そして、西日を完全に避けるのではなく、わずかに当たるのがよいと考えたのではないでしょうか。

夏の暑さをどうしのぐか

さまざまな工夫のうち、藤井氏が最も苦労したのは、空調換気システムでした。当時、電気はありましたが、家庭用空調機などはなかったので、いかにして夏の暑さをしのぐかというのが大きなテーマでした。この点についてもさまざまな対策が考えられています。例えば、縁側(サンルーム)の天井はヘギ板の網代張りですが、よく見ると引手がついていて、これを引き開けると天井にたまった暑い空気が天井裏へ抜けるようになっています。

一方、縁側の窓は床と同じ高さに設けられていて、天井換気口を開けると同時に床面の窓を開放することで、スムーズな換気ができるようになります。基本的には地窓や空気取り入れ口から涼しい空気を室内に取り入れ、汚れて暑くなった空気を天井裏から屋外へ逃がします。

デザインと機能のせめぎ合い

そのほか、屋根や壁についても深い考察が行われています。換気のために切妻屋根面が必要であるように、必要性により建物の形態がある程度決められます。聴竹居の場合もさまざまな制約により、デザインと機能がせめぎ合った結果、屋根の周辺は銅板葺きで中央部は瓦葺きに。壁も現物実験を行い、土蔵造りの厚い壁を採用することになりました。そのため、本来繊細な建物であるにも関わらず、建物は大壁で、周囲にぼってりとした壁が四周を取り巻くことになりましたが、藤井氏のデザイン力により、すっきりとした佇まいを見せています。

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食事室から居間を見たところ。食事室は今より15cm上がっていて、
大胆な四半円で構成されています。

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造り付けのソファとふくろ床がある客室。
竹や障子など、和の素材が主体として使われています。

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読書室。右が藤井氏、左が子どもたちの勉強をする場所。
子どもたちの間合いの取り方、太陽光の取り入れ方など、
工夫が施された空間

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袖壁にデザインが施された玄関ホール。

建築家・藤井厚二氏による聴竹居は、「和モダンvol.10」(2017年12月発行)に掲載しています。この号の特集は「いま、和を再考する」。和を見つめ直し、現代に合うかたちで「和」を取り入れた事例をたくさん紹介しています。ぜひご覧ください!