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建築家ブルーノ・タウトが日本に残した唯一の住宅建築「熱海の家(旧日向別邸)」

熱海の家(旧日向別邸)は、20世紀を代表するドイツ人建築家ブルーノ・タウトが日本に残した数少ない作品のひとつです。タウトはナチス政権から逃れるように来日して3年の間、桂離宮をはじめとする日本建築を訪れ、当時日本国内でも忘れかけていたその価値を再評価し、日本の建築史に一石を投じました。桂離宮を見て「泣きたくなるほど美しい」という言葉を残したのは有名です。ブルーノ・タウトがいなかったら、日本の建築史はもっと別の道をたどったかもしれません。

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社交室から西側の洋風客間、日本座敷を望んだところ。

そのタウトが在日中に設計し、実現に至った建築はわずかに2つ。ひとつは東京麻布の大倉邸であり、もうひとつがこの旧日向別邸です。タウトのデザインした電気スタンドを買って、そのデザインに共感したという日向利兵衛氏が熱海の地に既に完成していた邸宅の鉄筋コンクリートの下部構造にできた空間(いわば半地下室)に居間と社交場をつくることを依頼したもの。そこには、日本的な素材を使い、桂離宮の面影をも追うことのできそうなデザインが垣間見られます。タウト自身の言葉によれば、「全体として明快厳密で、ピンポン室(あるいは舞踏室)、洋風のモダンな居間、日本座敷および日本風のベランダを一列に並べた配置は優れた階調を示している」ということになります。

旧日向別邸はその後、民間企業の保養所として使われていましたが、平成16年に熱海市の所有となり、現在では一般公開されています。
(「和風住宅2007」に掲載。※大規模保存修理工事のため、平成31年1月1日~令和4年3月まで長期休館中)

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社交室東側部分。細竹詰打の壁と、竹手摺など、数寄屋のデザイン。

タウトの設計した社交室は、半地下部分にあるため、主屋からは玄関の脇から階段を下っていきます。階段の手摺りは竹製で、壁は白漆喰塗り。階段下小ホールの正面には、竹の竪格子。それを通して、社交室のフローリングとその向こうに庭の緑が見えます。社交室への段差を下りる階段の手摺りには、4本の竹を曲げてつなげたものが使われています。この階段を下りると社交室が広がり、西を見れば、洋風客間・日本座敷・ベランダと続く奥行きのある空間が望めます。どの部屋も海の見える南側の開口は、大きく開くことができ、建具は姿を隠すことができます。

社交室の東側には、丸いテーブルを囲んで長椅子と肘掛け椅子が備え付けられています。これを取り囲む内壁は細い竹の詰打ちになっていて、光を反射して陰影のあるデザイン。また、照明具は極めて特徴的で、天井から煤竹を吊り下げ、そこに電球を取りつけています。多くの電球を配置することにより、ピンポンなどを行うときに均一の光を得ることができるそう。その他にも、天井や腰壁、隣りの洋風客間との間の板戸には、桐板が使われています。

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社交室入口付近。竹の手摺りが印象的。

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日本座敷西側のベランダ。

洋風客間と日本座敷の間には、筬欄間(おさらんま)が設けられています。間仕切りの板戸はカエデ材。その先の畳敷きの日本座敷は、深い赤色(春慶塗り)の階段を間に挟み、上下段で構成しています。西北に一間の床の間が設けられていて、床柱はヒノキ、すべての内装材は漆塗りで、日本の伝統的色彩での構成が試みられています。床の間の裏側にあたる場所には、戸棚を設置。天井は神代杉の竿縁天井。行灯型の照明具もあります。日本座敷の西側にはベランダが設置されていて、瓦敷きの床をガラス戸・格子戸で囲み、ガラス戸内側に備えられたブラインドは蔀(しとみ)戸のように上部に上げて、金具で固定します。

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日本座敷は左に1間の床の間、その右に張り出した席のある雛壇。

この建築に特徴的に使われている素材は「竹」。在日中に竹工芸などを通して親しんだこの素材が、ここかしこに使われています。そして、ブルーノ・タウトが追求し続けた自然との調和、多様な色彩空間への取り組み、それとともに日本的なものと洋を独自の手法で表現しようという意欲的な試みが見られます。

タウトは在日中、建築家・文化人などとの交流もあったものの、建築家としての活動を十分にできたとは必ずしもいえません。この建築の完成後ほどなくして、タウトはイスタンブール芸術アカデミー建築家教授に着任するために日本を離れたといいます。

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社交室の天井。煤竹に鎖で電球を吊るしています。

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洋風客間から庭の樹木越しに海が望めます。

旧日向別邸
所在地:静岡県熱海市春日町8-37
TEL:0557-81-2747
※見学方法は事前予約制

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