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風景の庭を室内にとり入れる|庭を生ける・束ねる

岡山県倉敷市で「暮らしと植物」という店舗を営む三宅淳子さん。庭を風景として楽しむだけでなく、庭木を室内に取り入れるという楽しみ方と術についてお話いただきました。どんな樹木を庭に植えようか、それをどう楽しもうか…家づくりと合わせて庭の楽しみが広がります。※雑誌「だん11」から流用

※雑誌「だん11」

眺める庭を生ける庭に
家づくりをするとき、どのくらいの人が最初から庭までイメージをされているでしょうか。外構計画は後回しになることが多いのではないかと思います。

植物まわりの“あれこれ”専門店として「暮らしと植物」を2017年にオープンしました。住宅や店舗の植栽・プランニングを生業としているので、個人宅の植栽の相談をいただくことが多いのですが、新築の場合もありますし、住んで何年かしてから庭をつくりたいというケースもよくあります。

ご依頼をいただいたら、まずは住まい手さんの庭に対するイメージからヒアリングをします。自然の中にいるような庭なのか、芝生で遊べる庭なのか、手をかけて楽しみたいのか手間はできるだけかけたくないのか── 庭のイメージと住まい手の暮らし方に合う庭を一緒に模索していきます。その時にお話しするのが、「庭を生ける」ということです。せっかく庭をつくるのなら、その庭木を室内に取り入れてみませんか?室内に取り入れることを考えた庭にしてみませんか? というご提案です。

植物を室内に飾るというと観葉植物や花束がイメージされがちですが、庭に植えた花木を剪定して室内に生けると、それまで庭の風景でしかなかった花木との距離がぐっと近くなります。庭で育てた花をテーブルに飾るのと同じ感覚です。庭の枝に芽がついていたら剪定して花瓶に差してみてください。日々少しずつつぼみが膨らんで開花していく様子を近くで眺めるのは思いのほか楽しいものです。しかも枝ものは水を変えるだけで生花よりも長く楽しみが続くだけでなく、成長によって季節を感じることもできます。

そんな楽しみを想定して庭のプランを考えると、植える樹種も変わってきます。いずれリースをつくりたいからアナベルを植えたい、ドライフラワーをつくりたいからユーカリを植えたい、季節ごとに花や実のつく樹木を植えたい── 室内に飾る植物ならどんな花木を庭に植えようか、と考えが広がりますよね。樹木だけでなく庭木の根元に植える下草にも、飾れるものはたくさんあります。

1.アナベルのリース。花弁が白から緑に変わるタイミングがリースにおすすめ 2.クリスマスローズやピスタチアなどを束ねて花束とコサージュに 3.ユキヤナギは近くで見ると小さな葉や蕾の可愛いらしさの発見が 4.爽やかなグリーンの花と柔らかい葉が美しいビバーナム・スノーボール 5.エリンジュウムとアルテミシアのシルバーブーケ 6.枝木は少しずつ時間をかけて芽吹きを楽しめる

メンテナンスの手間は楽しみに変わるかも
どんなにきれいな庭をつくっても、庭木は手をかけてあげなければ枯れてしまいます。とはいえ、手がかかるのは面倒だと思う人もたくさんいます。芝生の庭で子どもを遊ばせたいけれど、芝生にすると雑草を抜くのが面倒では? という質問をよくいただきますが、芝生なら草刈り機で雑草もろとも刈ってしまえるので、思いのほか簡単で抜く手間も省けます。おすすめは手動の草刈り機です。電源いらずで軽いものを選べば、子どもと一緒にカラカラと芝刈をする行為自体を楽しめます。雑草を生えにくくするプランニングもできますし、高木の根元の下草は、宿根草|(しゅっこんそう)を植えてあげれば毎年植え替える必要もありません。

庭はつくってからが始まりなので、住まい手さんには、引き渡しの時に剪定方法、おすすめの花瓶や生け方、樹種の年間カレンダーなどを簡単な冊子にまとめてお伝えしています。

「秋に剪定した枝を生けて春先まで水を変えていたら芽吹いて花が咲くまで楽しめた」「庭が身近になったことで子どもが1日に1回は庭に出るようになった」「庭で食事をしたがるようになった」「外を歩く時に樹木や植物が気になるようになった」「庭には関心のなかった夫が剪定にハマった」という声もいただきます。近い距離で日々植物を見ていることで、いつの間にか意識が変わってくるのです。そうなると庭を気にかけて状態も常に把握できるので、飾るためにわざわざ植物を買いに行かなくても、この時期ならこの花が、枝が、実が、葉があるし、飾るならどの組み合わせにしようかなと考える楽しみも広がり愛着もわいてきます。(つづく)

★以下全文は「だん11」に掲載しています。