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地底人 その2 “私の姿はどのように見えますか?”

その方は、神門から私のいる大手水舎のところまで、ゆっくりした足取りで近付いて来て、私の目の前で立ち止まり、いきなり「私が変に見えますか?」と聞いてきたのです。

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私はとっさに「いいえ、何も変ではありませんよ」と答えたのですが、その方は「そんなことはないでしょう?」と重ねて聞いてきたので、私は「正直に申せば、この暑い日に黒のロングコートで暑くないのかな?と思いましたし、女性物のように思える大きなつばの付いた帽子を男性がかぶってはいけないということはないのですが、やっぱりちょっと変かな?と思ってしまいました」と答えたところ、変人扱いするようなことを言った私に対して怒る様子もなく、淡々とした様子で私の顔をのぞき込み、「それだけですか?」と聞いてきたのです。

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そして今度は「あなたには、私の姿がどの様に映っているのですか?」と質問を変えてきたのです。なぜそのような質問をして来るのか解りませんが、私は段々言い知れぬ不安のようなものが湧き出し、逃げたくなったのです。ところがその思いとは裏腹に、「放り出して、逃げてはいけない!」という思いも湧き出してきて、何でそんな気持ちになるのか解りませんが、そんな混乱した思考の中で、何とかして答えなくてはならない!という使命感のような思い?から「ちょっと異色ですが、素敵だと思いますよ」と答えたのです。

ところが、その方は落ち着き払った声色で「そうじゃなくって、あなたの目に私がどのように映っているのか?を聞いているのです」と言ってきたのです。そんな相手の方に対して「この人は、いったい私にどんな答えを求めているんだ!」という疑問と、漠然とした苛立ちを覚え、今度はこの会話を少しでも早く終わらせたいという気持ちが湧いてきました。

そこで少し怒気を含んだ声で「だから、ちょっと異色ですが…」と、そこまで言ったところで、その方は私の話を制止するように右手を挙げ「そうじゃなくて、あなたの目に私がどう映っているのか聞いているのです」と質問を繰り返してきたのです。そこでヤケになった私は、思わず「格好も変だけど、緑の光に包まれているのはもっと変ですね!」と言ってしまったのです。

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そうしたらその方は「そうですか、あなたには見えているんですね」と言い、「もう少し、あなたと世間話がしたくなりました」と言って、その後「付いて来て下さい」と言い残し、スタスタと神門をくぐって南門の方へ歩いて行ってしまったのです。残された私は訳が分からないのに、何か「付いて行かなくてはならない!」というような義務感のような思いに突き動かされて、無意識にその方の後を追っていました。

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