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フライフィッシャー犬 ジャムの巻1

初代フライフィッシャー犬レビーの喪失感が、まだ癒えぬ頃に、知り合いの知り合いが、転勤になるので犬を保健所に連れて行く予定だと、おかあちゃんの耳に入った。
40kg近くある、大型の雑種だという。
いろいろとあったが、数日後に我が家にやってきた。
元気で愛想のある、お嬢さんだった。
レビーも大きかったが、ジャムも大きい。
ご家族と一緒にやってきて、犬だけが残った。あっという間だった。
人の好いおかあちゃんは、無邪気に犬と戯れている。
ジャムも家の中で飼うことになった。家族だ。
試しに車に乗せると、酔うこともないし、元気はつらつ。
そして川に連れて行くと、まったく怖がることもなく、水に入り遊ぶ。
じつに簡単に、フライフィッシャー犬ジャムが誕生した。
教えたわけでもないのに、釣りに行くと前には出ず、流れを見ている。
ジャムだかレビーだかわからないほど、やることが似ている。
女子だが、男子より活発で、泳ぎも上手で、棒を投げてやると、喜んで飛び込み、棒を銜えて泳いできて、足元に置く。

少しぐらいの急流なんてへっちゃらよ
ホラ、どんどん投げてよ

釣れた岩魚や山女魚の臭いをかいで、リリースすると流れをじっと見る。雪残る早春の渓から、山肌が色付く秋まで、半年近く出かけて、遊んだ。遠野の里、気仙川の流れ、和賀川本流、南北本内川など、レビーと行ったところで遊んだ。

ジャムの似顔絵だが似ていない
絵心の無さが悲しいねえ


晩年は、田舎でじいさんと二人で暮らしたので、近所の渓に行くのは日課みたいなものだった。
絵にかいたような静かな日々、犬との釣りと自炊の暮らし。
秋から冬は、敷地の杉林の間伐と薪づくりに、雪の降った日はカメラを持って近くの山を歩く。
散歩に出かけると、ときどき鹿や狐を追ってどこかにいってしまう。
自然の中で野生のような暮らし。
緯度が高くて、標高も高い。一度-20℃まで下がった時は、室温も氷点下だった。ひたすら薪ストーブに薪をくべる。火だけが救いだ。
北海道にいた息子に連絡したら、こっちは-30℃だったと、軽く流された。そういや、農協と書かれた大きい温度計が-30℃まで刻まれていた。
そして、ようやく春。
庭に福寿草の黄色が出たら、そろそろ岩魚の目覚めるころだ。
冬の間に巻いた毛鉤とロッドを軽トラックに載せて、ジャムと一緒に近所の渓に行き、渋い岩魚を何とか釣ったら、リリースして帰る。一匹一会だ。

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