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「カップ麺禁止」「旅行許可制」◆校則データベースで見えたもの【時事ドットコム取材班】(2023年05月15日)

 長男の進学までに、理不尽な校則をなくしたい―。そんな思いで中学、高校の校則を比較できるサイトをつくり、運営する男性がいる。「タイツは黒」「カップ麺禁止」「旅行は学校の許可を取ること」。情報公開請求し、こつこつ入力したデータベースで見えてきたものとは。(時事ドットコム編集部 横山晃嗣

 【時事コム取材班】

必要ですか?

 データベース型サイト「School Rules Database」は、ITコンサルティング会社に勤める千葉県流山市の植山良さん(39)が立ち上げた。アクセスすると、「この校則必要ですか?」と問い掛けるメッセージが目に飛び込んでくる。2023年4月末現在、教育委員会に情報公開請求をしたり、各校のサイトを調べたりして収集した地元・流山市の市立中学校と千葉県立高校を合わせた約130校と、東京都立高校186校のうち大半の校則全文が掲載されている。

 生徒の見た目や行動を規制する部分に黄色いラインを引き、「服装」「装飾品」「頭髪」「化粧」「乗り物」「校外活動」「その他」の7項目に大別。「ツーブロック禁止」「旅行規制」「指定靴下」などのタグを付け、同じような校則がある学校を比較できるようにした。例えば、「眉毛加工禁止」のタグをクリックすれば、計40校がピックアップされ、「眉毛を極端に剃ったり、抜いたりしない」などと、具体的な文面も確認できるといった具合だ。

 サイトの狙いは二つ。進学先に迷う小・中学生が校則を比較できるようにすることと、多くの人に見てもらい、「理不尽な校則」を取り除く機運を高めること。今後、さらに拡大させていくという。

「黒染め強要は適法」に違和感

 植山さんが校則サイトをつくろうと思い立ったきっかけは、2017年に大阪府立高校3年の元女子生徒が起こした民事訴訟だ。

髪染めのイメージ画像(本文とは関係ありません)

 元生徒は「学校側から校則を理由に茶髪を黒染めするよう何度も強要され、不登校になるなど精神的苦痛を受けた」と主張、府に損害賠償を求めた。一審大阪地裁は不登校となった後に生徒名簿に元生徒の氏名を載せなかったことなどについては「違法」と認めたものの、「校則の頭髪規制は正当な教育目的のために定められ、内容も社会通念に照らして合理的だ」と判断。元生徒の訴えは二審大阪高裁、最高裁でも退けられた。

 一審の報道で訴訟を知った植山さんは「髪の色について教師が何か強要するのは間違っているのではないか、と驚いた。多くの学校が校則をネット上で公表していないことに気づき、校則をまとめたサイトを作って世間の目に触れさせれば、理不尽な校則を変えられるのでは、と思い付いた」と振り返る。

朝4時起き、バイト雇い作業

 そんな植山さんがサイトの構想を練り、実現に向けて本格的に動き始めたのは、二審判決後の22年1月ごろだ。情報公開請求手続きについてホームページで公開されていた青森、岩手、埼玉、千葉、神奈川、大阪など9府県の教育委員会に校則の開示を請求。校則は段ボール詰めの書類やCD-Rで届き、仕事が休みになる土日、家族を起こさないよう午前4時に起床してタグ付けの試行錯誤を繰り返したり、サイトの仕組みを考えたり。データ入力にはアルバイトも雇った。

「ブラック校則」の見直しを求める署名を文部科学省に提出後、記者会見する評論家の荻上チキさん(右)ら=2019年8月23日、東京・霞が関の同省

 千葉県立高校分に目途が付き、最高裁が元生徒側の上告を棄却しておよそ3カ月後の22年9月にサイトを公開。すると、自身も髪の黒染めを強要されて不登校を経験したという人から、「感動した。自分も何か手伝いたい」とのメッセージが届いた。千葉県内の中、高校の教諭からは「高校選びの参考になるよう、進路便りで紹介したい」「高校の授業で使いたい」などと連絡が寄せられたという。植山さんは「全て自腹。非常に手間も掛かったけれど、つくった甲斐があった」と喜ぶ。

規定の理由「学校も説明できない?」

 サイトづくりを通じ、分かったこともあった。「黒染め強要」のタグが付いたのは、千葉県立高校1校のみ。近年は「ブラック校則」が報道で取り上げられることが増えたこともあってか、「明らかな人権侵害」と感じるような校則は思ったほど多くなかったという。

植山良さん=2023年4月12日、千葉県流山市

 一方、気になったのが、「カーディガン着用禁止」「旅行に行く場合は学校への届け出などの手続きが必要」などだ。珍しいものでは、「レインコートは黒又は紺で、型は高校生にふさわしいものとする」や「カップ麺は保健衛生上好ましくなく、その持ち込みによる飲食を禁止する」という校則もあった。

 植山さんにとって「何で定められているのか、理由が分からない」校則は中学でも見つかった。そうした校則を定める学校に質問状を送っており、後日、サイトに掲載するつもりだが、明確な説明はほとんど得られない。黒いタイツのみ着用を認めるという中学校のうち、1校から説明があったが、『防寒や保護者の経済的負担軽減のため』というもの。「学校側も説明できないケースが多いのではないか」といぶかしむ。

ルーツは70年代、日本の校則は「ガラパゴス」

武庫川女子大学校教育センターの大津尚志准教授(本人提供)

 校則に詳しい武庫川女子大学校教育センターの大津尚志准教授(教育学)に話を聞いたところ、「靴下の色指定や髪の毛の長さ制限など、国内で一見不合理な規則が多く生まれたのは1975年前後のこと」との説明を受けた。当時、受験競争激化の裏側で校内暴力が社会問題化し、「生徒を校則で抑え付けることで、円滑な学校運営を成り立たせようとしたため、各地で不合理な規則が生まれた」という。

 半世紀近くが経過した今も、学校外での振る舞いまで定めた校則が残る理由については、「生徒が校則を変えようとしても方法が分からないから。教員に訴え掛けても、うやむやのまま卒業になってしまう」と分析。校則に見直し規定を盛り込む高校は全体の約1%にとどまるとみられ、「国が改廃手続きなど校則に盛り込むべき内容をある程度法令で示した方がいいのではないか」と語る。

「『生徒を抑え付ける』方向で発展したのが日本の校則。欧米や韓国は『生徒の権利を保障する』視点で規定されている」と大津准教授。校則のアップデートも始まりました。後段で紹介します。

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