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桜の季節26

前回の桜の季節はこちら。


  スレイブに桜の木に命を返すことが可能なのか問いかける庄之助。スレイブは一瞬考えて答えた。

「可能です。」

「そうか。」

  安堵した表情で笑う庄之助にスレイブは。

「まさか戻せって言うのですか?」

「ああ、すぐに戻してくれ。」

「そうですか……、でも本当にいいんですか?」

「ああ、もう夢は叶った十分だ。それにこの木がこのまま枯れちまうと約束を守れない。」

「約束?」

「一雄に言ったろ、この木からいつも見守っていると。」

「そうでしたね……。」

「さぁ、戻してくれ。」

「わかりました。しかし、あなたは本来すでにこの世にいない。戻してしまうとその瞬間あなたは……。」

「分かってる。でも、わしが死ぬよりこの桜の木が枯れてしまう方が辛いんだ。」

「一雄君はどうするんです?あんな別れ方で本当にいいんですか?」

「一雄なら分かってくれる。今は分からずとも大きくなればワシが言いたかった事を分かってくれるはずじゃ。今まで沢山、沢山話をしたからのう」

「そうですか。」

「それに生きた所でどうせあと1日なんじゃろう?」

「はい。」

「ならばこの木に少しでも生きて一雄を見守ってもらった方がいいじゃろう。」

「そうですね…。」

  庄之助は桜の木に再び近づき。

「すまんのう、それからよろしく頼む。」

「庄之助さん……。庄之助さん言葉使いが戻ってますよ。」

「ん?ああ、そうじゃな。死ぬとなると気持ちまで戻ってしまうのかのう。」

「そんな言い方しないで下さいよ。」

「ははは、すまんすまん。お前さんを困らせるつもりで言ったんじゃないんじゃが。」

  スレイブは真剣な眼差しで。

「本当にいいんですね?」

「そういうしつこさは不愉快ではないのう。もういいんじゃ、頼む。」

「そうですか、わかりました。では目を瞑って下さい。」

「わかった。」

  庄之助はゆっくりと目を瞑り、スレイブは庄之助の顔に手をかざした。庄之助の身体が桜色に輝き出した。

「さよならです、庄之助さん。」

「ああ、迷惑かけたのう。」

  庄之助を包む桜色の光はスレイブに吸い込まれる様に消えた。そして庄之助はスレイブに倒れ込み支えるスレイブ。

「迷惑だなんてそんな事言わないで下さいよ。楽しかったですよ、庄之助さん。」

  スレイブは庄之助の身体を室内へ移動させ布団へと寝かせた。そして再び中庭の桜の木の前へと出てきた。

「あなたの命を戻しますね。半分ほど使ってしまいましたが。」

  スレイブの身体が桜色に輝きその光は枯れてしまった桜の木へと吸い込まれた。しかし、桜の木は依然枯れたままである。

「さて、私の仕事は終わりですね。天界へ帰りますか……。」

  スレイブは庄之助と一雄の言葉を思い返していた。

《「いつ帰ってくるの?」

「もう帰って来ねぇ。」

「どうして?」

「そのうち分かるさ。でも悲しむ事はない、この桜の木からいつでも見てるってよ。」》

《「ああ、もう夢は叶った十分だ。それにこの木がこのまま枯れちまうと約束を守れない。」

「約束?」

「一雄に言ったろ、この木からいつも見守っていると。」》

  スレイブは寝かせた庄之助の方へ向かって語りかけた。

「庄之助さん、一雄君との約束は守られる事はないですよ。魂となった人間には意思はありません。ずっと見守る、そんな事は不可能なんです。」

  スレイブの身体が天界へ戻るため浮遊する。

「……でも、その約束が少しでも守られる様に。あなたの魂の欠片をこの桜の木に残して行きますね。」

  そう言って微笑むとスレイブの姿は消えてしまった。辺りは静寂に包まれ、桜の木だけがいつまでも取り残された様に佇んでいた。

つづく

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次回、ついに最終話。

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