見出し画像

桜の季節24

前回の桜の季節はこちら。


  一変して静まり返った中庭。呆然としている一雄に問いかける庄之助。

「大丈夫か?」

「え?あ、はい。あの、その。」

  スレイブが庄之助に。

「ほら、庄之助さん。」

「ああ……。」

  庄之助は少し考えて一雄に。

「もう大丈夫だ、早く行け。」

「え?それだけ?」

  うるさいとばかりにスレイブを睨みつける庄之助。

「うん、でも…。」

「ん?どうした?」

「この日記をおじいちゃんに。」

  手に持っていた日記を差し出す一雄。

「……そいつはじいさんがお前にやるってよ。」

「え?でも…、おじいちゃんは?」

「遠くに行っちまった。よろしく言ってたぜ、元気でなって。」

「え?どこに言っちゃったの?」

「それは…、遠いところだよ。」

「いつ帰ってくるの?」

「もう帰ってこねぇ。」

「どうして?」

「そのうち分かるさ。でも悲しむ事はない、この桜の木からいつでも見てるってよ。」

  そう言うと庄之助は枯れてしまっている桜の木を見上げた。一雄は俯き今にも泣き出しそうだ。

「そんな…、帰ってこない…。」

「一雄君…。」

  スレイブは心配そうに近づき声をかけるがその声は聞こえていない。泣き出しそうな一雄に庄之助は。

「また、泣くのか?」

「庄之助さん!」

「言ったろ、じいさんはこの木から見てるって。笑われるぞ。」

「ううん、泣かない。約束したから。」

  庄之助は笑顔で一雄をなでた。

「そうだな、偉いぞ。」

  庄之助はもう戻らない事に気づいたが、こぼれそうな涙を拭い無理に笑ってみせる一雄。

「さぁ、母さんが心配するぞ。」

「うん、ありがとうお兄さん。」

  自分の家へと向かう一雄、一度振り返り庄之助にお辞儀をして桜の木を見上げた。スレイブは大きく手を振っている。そして一雄は再び帰路につく、その背中を庄之助は悲しげな表情でいつまでも見送っていた。

つづく


サポートして頂けましたら、新しい本を買ったり、講習会に参加したり、知識を広げて皆様に必ずや還元します!!