セルフカット
ある時期、外国語でカットオーダーをするのを躊躇していて、長らく自分で髪を切っていた。
すきバサミを使ってみたり、レーザーを使ってみたり。
失敗したり、ちょっとうまくいったりしながら、気がつくと、ショッピングモールのヘアケア専門店に通うのが楽しくなったのだった。
その国には、直毛のひともいれば、チリチリの髪質のひともいて、様々なヘアカラーや、ケア用品があった。
コームひとつでも、日本では見かけない形のものがあった。
黒髪の直毛、くせっ毛、パーマヘアくらいしか知らなかったわたしは、こんな世界のヘアケア用品があるものか、そりゃそうか、と、関心しまくったものだ。
わからないなりに、ネットで事前に商品の評判を確認して、慣れない外国語のラベルをじーっと見ながら、1つ1つ商品を選ぶのは、楽しい作業だった。
だけど、パーマ液は、二度とやらない。
何度か金髪にした髪に市販のパーマ液をかけたら、びっくりするほど、髪がふわふわのポロポロになったから。
触っただけで、切れやすくなった髪の毛は、とても人間の髪の毛とは思えない質感で、心の底から
「もうしない!!」
と思ったのだった。
それでも、そんなボロボロの髪の毛を、どうこう言うひとは一人もいなかった。きっと、誰も、気にすらしていなかったのだろう。
そうだった。
この国は、胸元がガッツリ開いた服を着る女性が多いけれど、誰ひとり、その胸元を気にするひとはいないのだった。
これが、日本ではないということか。
ある時、その国のひとの態度で嫌な気持ちになった時に、本人の目の前で、日本語で嫌だったことをつぶやいてみた。
日本語を知らないそのひとは、振り返りもしないし、後ろにいるわたしを気にもしなかった。
なんだろう、これ。
すっごい、楽。
あまりやると、意地が悪いなと思いつつも、わたしはその時、妙な爽快感を覚えたのだった。
言葉は通じないことが多かったけれど、気持ちは楽だった。
日本を離れる前、ボロボロだったわたしの体調は、少しずつ、回復していった。
そのうち、日本へ戻った。
日本でも、あまりに忙しい時期に、自分で髪を切った。
だけど、やっぱりプロの仕上がりとは違う。
外国では気にしなかった、細かい仕上がりの差を気にして、わたしは、また美容室で髪を切るようになった。
これが、日本に帰ってきたということか。
日本に戻って何年も経っていたというのに、わたしは改めて、日本社会というものを感じるのだった。
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