〈モノローグ〉一人芝居『もう少し、このままで』
作・Jidak
(はーっと息を吐きかける)だから!
さっきから何回も言うてるけど!
ここを乗り切るには、それしかないねんって…
ね、山口くん、聞いてる?
ちょっと、何してんのん? 開(あ)かへんよ。無理やて。
(ため息ついて)さっきも言うたけど、停電になったら内側から開ける手立てはないねん。
電子制御や言うてるやろ、この扉。
あんたも理系の大学出てんねんから、知ってるはずやろ、それくらい。
もう、わかってることいちいち言わんといて。
寒いに決まってんねん!
設定はマイナス20度やからな。
あ、停電で電源オフになったから、少しは上がってきてるんちゃうか…。
は? だって、2人でパニックになってもしゃあないからな。
それに、山口くんの2倍以上生きてるからな、経験も豊富やっちゅうねん。
いやぁ、しかし、パート歴18年、こんなことは初めてやわ。
山口くんも、初めての大阪支社視察やいうのにな。だいぶ、ついてへんなぁ。
はいはい、優香さんっていう人に明日プロポーズすんねんな。
今日はもうこの後すぐ東京にトンボ帰りするつもりやったんやな。
もう何回も聞いたわ。
さっきまであんなにウキウキ話してたのになぁ、さっきまでと別人やな。
それがあんねんから、明日が大事な日やねんから、今はとにかく気張ってないとあかんで。
なんやの、ぐちぐちぐちぐち…
これやから、エリート君は打たれ弱すぎてあかんわ!
だから、ほら、さっさと、生きるためにやることやろ!
私は構へんって言うてるやろ。
(ため息ついて)あのな、真っ暗で見えへんねんから、あんたのお母さんより上だろうが下だろうが、関係ない言うてるやん!
頭の中で美魔女か何かに変換したらええねん!
なんなら優香さんや思て… 早っ、わかっとるわ!
はい! 早く! ちょっと、どこにおるん?
あ、手あった。 あら、山口くん、案外マシュマロハンドやねんな。
え? ガサガサ? うるさいな。
とにかく早く!
抱きしめてよ、ほら。
とにかく、早く温め合わな!
…そう、そや、ええ感じや。
ほら、もっとぎゅっと、そう…
え?
あ、ほんまや、救援来たみたいや!
ドアを叩く音
あ、ちょっと! 山口くん! 離れたらあかん!
ここ開けてもらうまでは、きつく抱きしめといて!
(終わり)
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