〈モノローグ〉 『ゆれる、こころ』
作・Jidak
えーと、マルヤデパート正面入口のライオンの像、から、右に5メートルほど進んだパーキング枠のあたりって、あ、ここ、かな。
えーと、まだ10分前か。やだ、緊張してきた。どうしよ、ついさっき来た感じっぽくしとかなきゃ、ね。
(小声で)ん? なに? あの占いのおばさん、めっちゃ見てくるんだけど? あ、やだ、また目が合った。
(普通の声で) 私、ですか? え? 手招きしてる
近づく
あの、何でしょう…?
え、ああ、人相占い。 あ、いえ、私はただ人を待ってるだけで。
いえ、いいです、全然、そういうのは。
は? なんで? 無料でって、え? いえ、そんないいですいいです。
…あ、はい。そうです、人を待ってて。
いや、え、デートっていうか、はい、今日初めて会うんですけど。
…わあ、なかなかグイグイ聞いて来ますね。え、はい、マッチングアプリで、はい。
(ちょっとイラついて)ていうか、何なんですか?
なんで、そんなこ、え、結婚する? その人とですか? 玉の輿? そういう相が出てるんですか、私の顔に?
(舞い上がって)嘘―、ほんとですか? ちょっと、どうしよう。
いや、もうほんとそんなこと全然期待してなくて。で、でも、あらぁ、そうなんですね…。なるほど、なるほど…。
え? なかなか失礼ですね。
37です。おっしゃるとおり、立派なアラフォーです。
あ、でもプロフは34って書いてます。
え? 堅実な相が出てますか? ま、女ひとり、この年なわけで覚悟決めてマンションは購入しました。
はい、去年。もう白馬の王子様とかそんな夢は見る時期は過ぎてますからね。 え? 一発大逆転、なんですね?
こんなこともあるんだ…。私、この出会いに賭けてみます!
あの、ほんとにいいんですか、無料で?
え、幸せになれるよう、応援したかった?
優しいな… ほんとにありがとうございます!
あ、じゃ、待ち合わせなので。あの、ほんとにありがとうございます。
元の場所に戻り、人待ち顔
え? あ、はい、私です、都です。
えと、高山さん… ああ、よかった。初めまして。
あ、いえ、全然、私も今来たところで。
あ、そのネクタイ、プロフの写真のですよね。素敵です。
え? あ、はい、お腹、ちょっと空いてます。…はい、イタリアン大好きです。
わぁ、そのお店、行ってみたかったんです! すごい! 嬉しいです!
あ… ん? ちょっとすいません、通りの向こうの手相の人がちょっと来いって。いえ、知り合いではないんですけど、なんだろう… ちょっと待っててもらっていいですか? ごめんなさい。
手相の人に近づく
(小声で)今日はいろんな人が私を応援してくれる日なんだな、きっと。
あの、何か?
あ、いえ、手相は特に見てもらわなくても…
え? やめたほうがいいって、何をですか?
え、人相占いの人とあの男はグル? は? どういうことですか?
いや、あの占いの先生は… あ! いなくなってる!
あれ、なんで? は? このパターン、今月で5人目!?
ええーーー、どうすんの、これ…?
(終わり)
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