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ラジオドラマ『涙を拭いて』最終版 *w/脚本


このドラマは、音声プラットフォームstand.fmで2021年8月に放送されたものです。

作・演出 Jidak

出演: 葵aoi*小匙ICHI葵*(from 優しさが集まる憩いの場🐈)
    つばさ🧚‍♂️料理研究家・5児ママ(from 四季折々ごはんとナチュラルLIFE)

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登場人物
  森山 晴人(28歳) 葵
 吉田 郁未(40歳) つばさ
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   SE 廊下を行き交う音
   SE ドアを閉める音

郁未 「(声をひそめて)ちょっとちょっと、落ち着いて、晴人」
晴人 「落ち着いてる場合? ね、今、落ち着いてる場合なのそうなの?」
郁未 「(声をひそめつつ)しー! ちょっと、声、大きすぎ! 聞かれちゃうでしょ!」
晴人 「ちぇっ。つか、無理だし。ありえねーし。別れるとかなしでしょ。無理めでしょ、郁未何言ってんの?」
郁未 「(ため息ついて)ごめんね、晴人。悪いのは全部私。私が大人でいるべきだったのよ。あなたを愛してしまった私が悪いの」
晴人 「ちげーよ、責めてんじゃねぇよ。別れたくないって話だよ。全然悪くねぇから、郁未は。俺のラブレーザービームは防ぎようがねぇってことだし」
郁未 「(笑って)そういうとこ。おもしろすぎて、斬新すぎて、ほんとにハートを盗まれちゃったのよ。でもやっぱりだめ。晴人の輝く未来をつぶすことになっちゃう」
晴人 「意味わかんねぇ…」
郁未 「ずっと一緒だから。ね。ずっと一緒にいるために別れるの。晴人はもっと羽ばたける人なの!」
晴人 「あったりまえじゃん、俺、今ぐいぐい来てっから」
郁未 「うん、わかってる。去年の『ピエロと葉巻』での演技が評判で、今回のドラマでは主役だもんね。ほんとすごいよ、晴人」
晴人 「取材の数、半端ねぇから。何話したか覚えてらんねぇし、なんかいろんなことが急激に変わってきて」
郁未 「そこなの! 注目されている時期だから、よけいに注意が必要なの。写真撮られちゃったの、忘れたの?」
晴人 「あ…」
郁未 「今回はなんとか裏で手を回して食い止めたけど、もう次は無理だから。次に何かあったら、私、もう外れるしかない。マネージャーを」
晴人 「だめ。マネージャーは郁未。これまでもこれからも。今の俺の半分は郁未でできてんだぜ」
郁未 「晴人…。マネージャー歴15年。吉田郁美は全キャリアを賭けて、森山晴人をハリウッドに連れていく。これはぶれてないのよ、1ミリも」
晴人 「ありがてぇ…」
郁未 「(涙ぐんで)だいたいさ、一回りも上なんだよ、私。無理なのよ、最初から。結婚する相手、私じゃないのよ、絶対」
晴人 「(涙ぐんで)何言ってんだよ、俺はこれまで一度だってー」

   SE ドアのノック音

郁未 「あ、はい。(気をとりなおして外に向かって)すいません、森山、今行きます! さ、出番だよ、晴人!」
晴人 「(涙ぐんだまま)あ、まだ話終わってな…」
郁未 「はい、気持ち切り替える! 今日のセリフ、ちゃんと入ってる?」
晴人 「あったり前じゃん」
郁未 「(相手役のセリフとして恐怖に震えながら)ねぇ、お願い。ここから出して」」
晴人 「ええ? 急に…? (咳払いして)(切り替えて、サイコパスな声で)美しい、何もかもが、理想的です」
郁未 「(役として、涙声で)許してください。私、まだ生きていたいの…」
晴人 「(役として)美しいものは美しいまま、時を止めてしまうのが一番なのです。そう、あの蝶の標本のようにね。(狂気じみて)ふふ。さあ、始めましょうか」
郁未 「(拍手して)すごい。ばっちりだね、ゾワゾワした」
晴人 「だろ。すげぇんだよ、俺。でも俺の半分は郁未でー」
郁未 「はい、おしまい! さ、そのドアを開けて行くのよ。みんなが待ってるわ、未来の大スターさん」
晴人 「でも…」

   SE 背中をドンと叩く

郁未 「ほらっ」
晴人 「いたっ… わかった。俺やるよ。絶対ハリウッドに行く。俺が郁未を連れて行くぜ。 ついてこい! 吉田マネージャー」  

   M

(終わり)

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