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『嘘をついたことなど…』 (ショートストーリー)(モノローグ台本)

作 Jidak


これは私の。あと、これも。
もちろんドライヤーも持っていくよ。
買ったの私だから。
争う余地はないの、保証書取ってあるもの、何なら。

コーヒーメーカーも、もう箱に詰めたから。
さすがに手で持っていけないでしょ、あれは。
他のいくつかと、送る手配、もうしてるから。
コーヒー豆は、まだ封開けてないのがあるんだけど、
それはもう、勝手に飲んでいい。許す。
ミルは持っていくよ。あれ、限定のなの。
もう手に入らないの。

いや、だから。
証拠は山ほどあるんだって。
でも、それを見せてどうしようっていう気は、もうない。
しらばっくれるなら、しらばっくれればいい。
むしろ、それでいい。

だいたい。

「勘がいいね」って言ったの、そっちだから。
出会ってすぐの、あの頃。
ああ、これって自慢できることなんだなって、
そう思っちゃったんだけどな。

でも今は。
なんでわかっちゃうのかな、
わからせちゃうのかなって。
勘がいいってわかってるんだから、
気をつけてって。
嘘ついてもすぐわかっちゃうよって、
これまでも、何度も言ったよね。

そうだよ。
私は嘘をついたことなどないの。
そんな面倒なことはしない。
だから、
出ていくって言ったら、出ていくの。
一度言ったらそれはそうなの。
決まったってことなの。
決定事項なの。

ああ、もう大丈夫。
そんなこんな言葉はいらない。
どんな言葉も、色を失ってしまったの、
私の耳には。

うん、パキラは置いてく。
場所変わるの、かわいそうだから。
そろそろ一回り大きい鉢に替えてあげて。

とにかく、
勘のいい女は、
ここを出ていくの。
あなたの人生から消えるの。

はい、おしまい。
全部おしまい。
心も、荷造りも。
あとはもう、使うなり、処分するなり、自由になるなり。

だから。
私は嘘はつかないの。
出ていくって言って、出ていくの。
今、その靴を履いて、
あのドアを開けて出ていくの。

(終わり)


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(2022年5月22日配信)

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