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『ミモザ咲き誇る」 <ショートストーリー>

   作・Jidak

うん、今年もまたまた見事な咲きっぷりですね。
ここで咲いてくれる君たちミモザには、この陽菜(ひな)様史上最大の賛辞を贈ります。
皆(みな)の者、喜ぶがよい。

「陽菜!」

急に名前を呼ばれて振り向く。
そこには、大好きな莉央(りお)先輩が。

「え、あ、莉央先輩、今日はども、あの、ありがとうございました」

もっとうまく話せ、バカ。

「みんなよかったよ。安心して卒業できるわ。陽菜の照明もタイミングバッチリ!」

そう、私は照明係。スポットライトが似合わない女。
そして、女優オーラしか感じない莉央先輩。

「てか、何してんの?こんなとこで」
「あ、いや、えと、ミモザが…」

私の一番好きなミモザなんですって伝えたい。
でも、そんなにいっぱい話せない…。

「あたし、花とかマジわかんないんだよね。才能ゼロみたい、あはは」

えーと、先輩と私の間に、大きくて深い川が、すごい勢いで流れています。

「ふーん、かわいいね、黄色い子たち、ほわほわして」

え? 反応してくれた!

「ミモザ、だっけ? 3月の花なんだね。覚えとく!」
「ち、違います!」
「え、違うの?」
「あ、違わなくて、あ、いえ、あの、銀葉アカシアとも言われてて」
「ん? ギンヨウアカシア?」

これ以上、何も言っちゃだめ、陽菜。
あー、でもなんで? 口が勝手に動いちゃう!

「はい、銀葉は葉っぱが銀色に見える子たちなんです。だから花が咲かない時でも、1年中彼らは美しいんです」

莉央先輩がじっと私を見つめてる。
やっちまった。
あー逃げたい。

「素敵だなぁ、陽菜」

え? 
今、素敵って言った?

「いろいろ教えてほしいな。ね、友だちになって」
「え、友だち? 先輩と…?」
「うん、卒業したんだし、これからは友だち! あ、莉央でいいよ! ね、写真撮ろう。ここで、ミモザの前で!」

君たちミモザには、やはり最大の賛辞がふさわしいですね。
皆の者、さらに咲き誇るがよい。

(終わり)

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