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アンカル旗揚げ公演、観てきました。

音声プラットフォームstand.fmで配信したコンテンツを、記事化してお届けするシリーズです。
「あなたのVOICEを聴くラジオ」、この番組は、マーケティングリサーチャーで脚本を書いているJidakが、ひと・もの・ことを通じて聞こえてきたVOICE・メッセージをゆるくお伝えしていく番組です。

アンカル旗揚げ公演、観てきました。

今日は、舞台を見てきましたという話をしたいと思います。
昨日、27日、池袋の東京芸術劇場で今やっている舞台、「昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ」というものの17時半からの舞台を見てきました。

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9月24日からやっていて、昨日で4日目。10月3日まで全部で10公演。
この舞台を体験してしまった私にとっては、本当に希少な、10回しか味わえない体験です、と思ってしまいます。
もう、チケットも取りづらいみたいなので、あ、行こうかな、と思った方、その方の動く心があったとしても行けるかどうかわからないので申し訳ないのですが。
昨日の夜の時点では、10月1日の公演だと、もしかしたら取れる取れないかも…ということでした。

中学3年の1年間が、濃厚に。


こちら、作・演出が蓬莱竜太さん。蓬莱竜太さんは劇団モダンスイマーズの座付き作家さんで、その蓬莱さんのソロユニットであるアンカルの旗揚げ公演にあたります。
長いタイトルですよね、「昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ」。ちょっとタイトルからは想像されることは少ないというか、どんな感じなのかなが伝わりづらいかもしれません。
群像劇です。ありえない人数で、こんな多くの人が立っている舞台で、しかも全員が輝いている舞台が成立するんだっていうのを、昨日目の当たりにして衝撃を受けているところです。
リーフレットの書かれてある紹介文が
「中学生、一クラスの1年間。27人が織りなす壮大な群像劇」となっています。
出演者27名。
中学3年生の生徒役が24名、担任、副担任、用務員役の方を含めて全部で27人。
「F中学校、3―A。24人の思春期たち。あの頃みんなは何をしていたんだろう。何を考えていたのだろう。あなたは今どこにいますか? みんなは今何をしてますか?」
っていうふうに書かれています。
設定としては、10年前を振り返るみたいな形でスタートします。
中3の1年間を、10年後に振り返っているのが現在っていうことですね。
驚きというか、匠の技はあちこちに散りばめられているんですけれど、観にいかれる方、見所はですね、何もない舞台が、それぞれの想定に応じて立ち上がるというところだと思います。

舞台には何もない。

stand.fmで’RetroWorks Radio’というチャンネルで配信されている中村公平さん。その中村さんはアンカル公演において演出部というかたちで関わっていらっしゃって、随時情報を配信していらっしゃいます。
中村さんがTwitterでポストされていた写真をここに転載させていただいています。

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舞台の写真です。
こちら見ていただくとわかるんですけど、なんもないんですよ。
美術部さんが作った跡がない。立体で存在するものが皆無なんですね。
で、床にラインがあります。
体育館を彷彿とさせる、赤や青や黄色の複数のライン。
どのスポーツをやる時はこれを使うというようなライン、ありますよね。これを使うことで学校という設定を表しています。
あと、小道具は教室を表す机と椅子だけなんです。
教室の風景の時は椅子が人数分出てきてみんなが座っている。
そして、飼育部の飼育小屋の設定とか卓球部とか、っていうふうに、折々に変わっていくものを、椅子の数、もしくは椅子が全部なくなるような状況で作っていくんですね。
で、なんもないのに、見えるんですよ。
あ、今飼育小屋だな、動物がいるな、とか。
漫画家志望の男の子と、それに絡む飼育小屋の面々があるところに行くという時、川を降ったり山を登ったりっていう、過酷な自然環境の中に挑戦していくという場面があって、それも何一つないのに、「ああ、川を渡ってんなぁ」とか、「崖登ってるかな」とか、平面が立体になったりするんです。
素舞台を利用しながら、27人が活躍できる演出。
本当に息を飲むっていう感じです。すごいなぁ、蓬莱さんの演出は。
岸田國士賞を受賞した方なんですね、蓬莱さんは。

27人が輝く群像劇。

そして、その27名の役者さんたち全員が輝いているんですよね。
そんなに人数がいたら、ちょっと役どころも掴みきれないかも、どんなキャラクター設定なのかもわからないかも、っていう、当初、いけるかな、ついていけるかなってドキドキで見始めたんですけど、その心配は杞憂でしたね。
もう演出の巧みさによって、少しずつの小グループ編成っていうのか、スポットライトの当て方が小グループに分かれていて、その小グループになった時にそれぞれのキャラが立つので、すぐに覚えられ感情移入できるんです、「がんばれ」って。
私の場合は年が離れているので、お母さん目線になるというか、「自分にあの中学校のあのヒリヒリした時代があったなぁ」という直接な感じよりも、「あのヒリヒリしたあの子たちを私は守れたかなぁ」みたいな、なんかどれだけわかってあげられたんだろうっていう、切ない感じですね。
自分があの世代の時、誰にもわかってもらえなかったなっていうのも思い出しつつ、全員が愛おしい感覚。それを作り上げているのが素晴らしいです。


社会の問題が詰め込まれていて。

こちらの舞台は4年前に広島で何回か演じられている舞台だそうなんです。なので、想定も広島です。広島弁が飛び交います。特にキーパーソンになる方が、一番広島弁をしゃべります。
私は広島出身なので、共感する要素が高くて。
あと、広島ならではのバックグラウンドも入ってきていて、考えさせられました。まあ、「広島ならではの」というよりもいま今の社会における闇とか、浮かび上がる要素が全部込められているみたいな、LGBTQの問題とか。
本当にたくさんの視点がありましたね。

でもそんな冷静に考える時間もないまま進んでいきます。
2時間半です。休憩10分。
なので、実質2時間半駆け抜けるみたいな感じです。濃いですね。
「10年前」って始まるので、最後は10年後、大人のみんなが集ったところで終わるのかなって思っていたら、そうじゃなかったですね。
ここもまた演出の妙というか、気持ちいい終わり方でした。余韻があるっていうような。
そして、休憩挟んだ後の第2部、この中で歌やダンスのシーンがあるんですけど、もう私はそこから涙腺が崩壊してしまって、鼻水垂れっぱなしでした。
全部がヒリヒリして、熱くて愛おしい感じです。

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観客は'共犯者'に。

素舞台の構成で、椅子を持ち込んだり、はかしたり、机持ち込んだりっていうのを、折々に出演者たちがやっています。
スポットライトを浴びている数人の出演者以外で、次の場面でスポットライトを浴びるであろうという待機中に、椅子の配置変えをしたり、はけたり、壁際に置いたりってするんですけど、「今、自分たちは黒子です」みたいな感じで、はけさせるんです。
それが気持ち良いです。
見ている側は、共演者ではないんですけど、
「ああ、今あなたはあの役ではなくて、椅子を運んでいるのね」
「で、そこに座っているけど、それは見えない想定で、その次に出てくるために座ってるね、わかった」
っていうような、素舞台ならではの、役者さんが場転を協力する系の舞台ならではの’共犯関係’っていう感じがしました。
最初にルールを覚えさせてもらって「わかりました」っていうような感覚。
「そういうふうに観ます」っていう。
豪華な舞台で、与えられるものだけを受け取るっていうよりも、こちら(観る側)も一緒に作り上げるのに参加するっていう気持ちよさ、というのか、努力して作り上げる一部になれる感覚っていうのか、やっぱり’共犯’って言いたいんですけど、それが気持ちよかったです。
最後のアンコールとかで、出演者の方が泣いているのが見えちゃって、またそれでおばちゃんもらい泣きみたいな(笑)。
ほんとに、キラキラして、熱くて、ヒリヒリして。
みんな生きてるなぁって。
なんだろうな、この感覚、ちょっと贅沢だなっていう感じです。
生の舞台だからこそ、10公演の中でも昨日の4公演目だからこその役者さんのやりとりとかが成立しているんでしょうね。
もう一回見たとしたら、違う空間が生まれているなって感じるんでしょうね、って、それを体験したいんですけど、ちょっともう行けない。残念です。
私は行けないけど、行ける、時間があるって方はぜひ行ってほしいです。

手が届く’演劇’


モダンスイマーズ、そしてこのアンカルも、ありえない価格設定なんです。
お芝居ってお高いんでしょって思ってらっしゃる方、違うんです。
一般が3500円なんです。ここ、シアターイーストの規模でやるとしたら5000円はしちゃうかなって思うんですけど、それが3500円。
しかもU25だと3000円、そして高校生だと1000円っていうふうに、若い方にどんどん演劇を体験してもらいたい、できれば演劇のほうに足を踏み出してもらいたいっていう蓬莱さんの願い・祈りが込められているんです。
そういう場を提供したいとか、そう思っている方が一歩踏み出せるような企画ものを今後も続けていきたいっていう思いが込められたソロユニットなんです。
今後もたぶん続くんだと思います。ぜひ、役者を目指している方は扉を叩いてほしいです。オーディションも随時受付中みたいになっています。


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観劇は'非日常'だけど、'日常'でもある。

そして、一般の方で「別に自分は役者でも物書きでもないんだけど」って方も行ってほしいです。受け取るものがそれぞれあると思います。
「あの頃」って感覚だったり、それをちょっとリフレクションさせて「今」っていうのを改めて思い直したり、っていうふうな場になる気がします。
なんかね、舞台のハードル、舞台を見に行くってハードルって高いと思ってらっしゃる方多いと思うんです。
その要素の一つに価格があると思うんですけど、このアンカルは価格のハードルはほぼなくなってると思ってほしいです。
そして「時間ができたら」「舞台を見に行けるような生活だったらいいんだけど」って思ってらっしゃる方、もうほんとに、「今行けます」って言いたいです。
私自身もそんなに余裕のない中、行きたいもの見たいものには絶対行っておきたいっていう思いだけで、チケットをとったりしています。
「いつか」というより、ちょっと心がピピってなった時に動いていただきたいなって思うし、その動いた第一歩が「昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ」だとしたら、すごい一歩だと思います。
豪華絢爛な、お金をかけて舞台ではないからこその、熱量だけで、あと、蓬莱さんの思いで包み込まれた舞台っていう感じです。
「全部受け取りました」って思いました。
意図どおり受け取れたかどうかはわからないけど、私が受け取るべきものは受け取れたんじゃないかと思います。
「確かに」っていう感覚です。


      ※28日の公演後のアフタートーク、公開されています。
       29日のアフタートークも公開されました(追記しました)
      公開してくださって、ありがとうございます!


本当に、大変にありがとうございましたって感じです。
作・演出 蓬莱竜太さんのソロユニットアンカル旗揚げ公演、「昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ」、10月3日まで池袋・東京芸術劇場シアターイーストにて上演されています。
よかったら、足をお運びください。
以上、Jidakでした。

この記事は、音声プラットフォームstand.fmの収録から文字起こししたものです。



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