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残り香
実家では9月まで犬を飼っていた。
家族同然のその子が母の膝の上でソッと息を引き取ってから早4ヶ月になろうとしている。
その子が姿を消してから家の中の様子もすっかり変わり、本当に居たのかさえ狐に包まれたような感覚になっていた。
その実家で靴下を履いている際に、ふと一本の毛がついているのに気付く。
記憶が一気に蘇り、瞼の上がぼわぁっと熱くなるのを感じた。
確かにいたあの子の匂いや温もり。黒い服を着ると全身毛だらけになるからコロコロが手放せなくなった事。フローリングをチャカチャカ爪の音色を奏でながら行進する姿。耳をパタパタさせながら近づいてくるけど、上手な甘え方がわからず右往左往する姿。たまに笑ったような顔で見つめてくる姿。
「本当にここにいて、本当にいなくなっちゃったんだなぁ」
今日はあの子が好きだったお蕎麦を食べながら、みんなであの子の話をしようと思う。
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