見出し画像

変わらなくてもあなたの価値は変わらない 原田優香さんが「ジブン研究」で大事にしていること


このインタビュー連載では、自分の特性を言語化していく「ジブン研究」の運営メンバー3人に、ジブン研究を始めた・関わったきっかけや、どんな想いで運営しているのかを聞いていきます。初回は、「ジブン研究」発起人の原田優香(はらだ・ゆか)さんにインタビューしていきます。

ーまず、発起人のゆかさんに質問です。なんでゆかさんは「ジブン研究」を始めようと思ったのですか?

新卒で就職した会社と、その次に転職した会社が上手くいかなくて、二回休職の経験をしています。それがきっかけとしては大きくて。

休職した大きな理由は、自分の感情のコントロールが上手くいかない事による人間関係問題です。それが原因で、上司、同僚との関係性が悪くなって会社に行きづらくなったのですが、なんでそうなってしまうのか、そのときは自分で上手く説明ができなくて。

だから周りにも理解してもらえないし、自分でも分からなくて、もやもやした状態で。それが一番しんどかったですね。


ー感情のコントロールができなかったっていうのは?

感情の中でも「怒り」のコントロールが私は難しくて。例えば嫌なことを言われた時に、そのまま顔に出てしまうとか、「それ、おかしいんじゃない?」って思ったときに、ストレートに言葉にしてしまうとか。

自分の中に「怒り」を留めて置くことがどうも難しかったんですよね。それが他者を傷つけてしまうことに繋がったり、他者とぶつかったりする原因になっていました。


ーその原体験とジブン研究をはじめたきっかけが繋がっていると思うのですが、自分でひとつ事業をつくった訳じゃないですか。なぜ原体験を自分の事業として始めようと思ったんですか?

それでいうと、自分で事業を作ろうとか思ってはなくて、理由は単純に時間がめちゃくちゃあったからです(笑)

だから、自分で仕事をつくろうというより、(休職していて)仕事もできないし、ただ時間はたくさん余ってるし…じゃあ「自分が今しんどい状態をどうすれば解決できるかを考えよう」と思ってひとりでGoogleドキュメントに思ったことをひたすら書き出したりして。

そこからですね。だからあんまり自分の事業ってイメージはなくて。


ー時間があるし、この状況を抜け出したいなと思ったから「ジブン研究」を始めたっていうのは、「自分のために」やってたってことですか?

うん、100%そうですね!誰かのためにとかではなくて、まず自分自身が楽になりたいっていうところからスタートしました。


ーとはいえ、結果的にそれを広げてプログラムとして周りの人も巻き込んだわけで。そうしようと思ったのはなぜですか?

きっかけは北海道浦河町にある「べてるの家」に見学に行ったことで。Facebookで「見学に行きました!」と投稿したら、「どうだったか感想を聞きたい!」っていうコメントがすごく多くて。じゃあその報告会をやろう!と思って、報告会をしたんです。

そこで、「どういう学びがあったか」とか、「自分に置き換えたらどうなるか」を発表した時に、参加してくれた人がいろんな自分の内側の話をしてくれて。

「今までこういう話を誰に言えばいいか分からなかった」とか、「ゆかさんの話を聞いて「(自分の特性に苦しんでいるのって)自分だけじゃないんだなって安心できた」みたいな声がその時に出たんですよね。

そこで初めて「これって私だけが必要としてることじゃないのかも」って思い始めて。必要としている人がいるのであれば、プログラムにして届けられるところまでできるといいなって思ったのがきっかけでした。



ージブン研究をやる中で、最初は自分のために始めたと思うんですけど、プログラムとしてやってみて気づいたことってありますか?

やっぱり、自分のことを理解するとか、自分をちゃんと認めてあげるっていうのは、それなりの工夫や練習が必要なんだなっていうことですね。

「こういうマインド持ったらできるよ!」って言って一か月後にできてるかって言われたら全然そんなことなくて(笑)

そもそも「なんでそういう思考になるんだっけ?」っていうことを一緒に考えていくっていう時間が本当に必要で。

それは早くても一年とか、長期の期間が必要だなって。だから、「ジブン研究に参加したらこうなりますよ」みたいなことは全然謳ってないんです。なれない可能性もあるし、なる必要がない可能性もあるので。


ーなにかプログラムをやるとき、参加したらこうなりますっていうのを、参加する側も求めてしまいがちだし、運営側もこうなれますよっていいがちななかで、言わないっていうのが大切にしたい部分なんだなと思いました。

ーゆかさんも今も自分の特性と向き合っていると思うので、どんな特性があって、どういう風に向き合ってて、どういう風に難しさを感じてるか、教えてください。

わたしの特性は、大きく2つあって、特に調子が悪い時に「衝動性」と「視野が狭くなる」ことが表れやすいですね。

「衝動性」っていうのは、例えば怒りが沸いた時、他の人だと例えばボールを投げてはねるぐらいの衝撃だったとすれば、私の場合は「グラスを机に叩きつけるぐらいの衝動」があるというか、瞬間的なんですよね。水が一気に100度になってぶわって沸く、みたいな。

考えてる間もなく言葉が先走ってるみたいなことがありますね。

だから、「ガラスを(叩きつけるのではなく)握って待つ」みたいなことを20代前半は結構訓練してきました。

自分の特性であるガラスをボールに持ち変えることはそもそも難しいんだけど、ガラスを持っちゃうのは仕方ない(自分の特性は根本的には変えられない)から、ガラスは持っていいんだ、ということにして。だけど、それを投げないように、待つ。そんな訓練を3年くらい重ねて、やっと待てるようになったって感じですね。


ーどういうときにガラスを投げてしまう(=衝動的になってしまう)んですか?

理不尽なことがあった時とか、自分は悪くないのに自分のせいにされたりとか、がんばったのに思い通りにいかなかった時とかに怒りが沸いて衝動的になりやすいですね。


ーそんなゆかさん全然イメージできないです(笑)

かなり柔軟になったからだと思います(笑)


ー昔は仕事とかでもそういうことがあったってことですか?

ありますね。仕事で車移動をしていて、車内で当時の上司とひどい喧嘩になって、腹が立ったから途中で帰ったり、とかしてました(笑)

そういう衝動性があるんです。だから自分がヒートアップした時に、自分自身で抑えられないんですよね。まあまあまあ、って自分をなだめることができなくて。


ー「グラスは持ったままでいいから待つ」という練習をしたって言ってましたが、待てるようになるために何を意識していましたか?

そうですね、まず一番初めに、「わたしは今こういう状態です」っていうことを言語化するようにしました。

今までは言葉にすらしなかったし、ものに当たるっていうことだけを繰り返していて、「わたしはこういう状態でこういう気持ちです」っていう説明をしてこなかったんですよね。

だから、例えば「今すごく物に当たりたいです」みたいに、人に今の自分の状態を言ってみるようにしました。言うことで、物にあたらないように、とりあえず我慢をする。

まぁ当たっちゃうこともあったんですけど、そういうことを訓練してました。それで、できたときは「わたしえらいぞ、頑張った」って思うようにしたり、できたことを誰かに話して褒めてもらう、っていうのを繰り返していましたね。


ーそれはジブン研究でやるうえでも大事にしているころなんですか?

そうですね。できたことに関してはちゃんと言葉にして伝える。「こういうところが変わったよね」とか「前はこう考えていたけどこういう考えになってるね」っていうフィードバックは絶対していますね


ー参加者ひとりひとりも「こういうことができたよ」って言うし、本人以外の周りの人も「こういうことができるようになったんじゃない?」って言うってことですよね?

そうです、でもたいてい本人は(自分が変わったことに)気付いてないんですよね。本人だと分からない。

なんなら、「まだできてない」って思ってる人の方が多くて。「私・僕なんてまだまだ…」みたいな。

だから、「いや、確かにグラスは割っちゃったけど、今日は2秒待ててたよね」「それって凄い進化じゃない?」っていうことを周りのひとが言ってあげることが大事で。

ちゃんと相手を見てフィードバックすることは、自分自身に対してもですし、ジブン研究の参加者に対しても大事にしてるところですね。


ーやっぱり言ってもらうと、「あ、ちょっとできたかも」ってなってまたやってみようってなる、正のスパイラルになるってことですよね。

ーもうひとつの特性の「視野が狭くなる」っていうのは?

「視野が狭くなる」っていうのは、「こうだと思ったらこう」「白か黒か」みたいな二分化思考になりやすい、っていうことですね。

例えば「ある人からメッセージが返ってこない」という事実があるとしたら、「忙しいのかな?」って考える時もあれば「わたし嫌われたかも」って考える時もあったり、いろんな解釈の可能性があると思うんですけど、私は「嫌われたんだ」っていうパターンに陥りやすかったんですよね。

今はメッセージで例えたんですけど、なにに関してもそうで。仕事でミスした時も、この世の終わりのように落ち込んじゃって、「もう失望された、終わった」みたいに落ち込んじゃうとか。


ーそれは今でも頻繁にあるんですか?

今はもうかなりなくなりましたね。それ(返信が来ないこと・仕事でミスをしたこと)がイコール自分の評価じゃない、自分の価値がそれに直結してないっていうことを自分で理解できるようになったからだと思います。

当時のわたしは、返信が来ないことや仕事でミスをしたことがイコール自分の価値だと思っていたので、何かが起きた時に「自分には価値がない」っていう結びつきになってしまっていて。それが結構苦しかったですね。

そこでまずやり始めたのは、事実とその時に思い浮かんだ解釈と、その解釈次第では「本当にそうだっけ?」と自分に問いかけること。

例えば仕事でミスをしたという事実があったとき、思い浮かんだ解釈が「わたしは上司に失望されたかもしれない…」だとしたら、「本当にそうだっけ?」と疑うようにしました。

そうすると、『そのあと上司から「ここはできていなかったけどここはできていたね」っていうフィードバックがあったな』みたいに、「ミスをした」という事実以外の事実に目を向けられるようになる。

だからミスをしたとしても他の事実に目を向けて、「失望されてないよね」っていう客観的な解釈をする練習をたくさんしました。

ただ、一人だと難しい時もあります。どうしても、主観的解釈に囚われてしまう時もある。なので、過大解釈が起きている時は他者に手伝ってもらって、本当は言われていないことを私は主観で解釈してるんだな、っていうことを認知することから始めました。


ージブン研究の話に戻るんですが、もう3年半やってきているんですよね。そのなかでのゆかさんの変化ってなにかありましたか?

あんまり変わってないかもしれないです。

始めた時と変わらず、やっぱり自分の特性に向き合うには誰かの力が必要だなってすごく思うし、でも別に正直変わらなくてもいいよなっていう思いも変わってない。うん、変わってないですね(笑)

「ジブン研究」を通して伝えたいメッセージとしては、ほんとに変わっても変わらなくてもどっちでもいいんだよっていう話で

変わらないといけない訳でもないし、でも変わりたいと思っているならその思いには全力で寄り添いたいし、向き合っていきたいって思ってるから、一人で考えて行き詰っているのであれば、一緒にユーモア交えて考えませんか?って思っています。


ーゆかさんが、「向き合えなくてもいい」って思うのはなんでなんですか?

変わろうとすることがしんどくなる時期があると思うんですよね。

がんばれるときとがんばれないときがあるなと思っていて。がんばれない時に向き合おうとしてしまうと、変わることすらもほんと嫌になってきちゃうから。

別に変わっても変わらなくてもあなたの価値はなんら変わらない、というメッセージを伝えていくことは大事にしたいなと思っています。


ー変わらなくてもあなたの価値はは変わらない…。

そう、なんか結局「こういうことができるあなたが好き」って条件付きじゃないですか。じゃあ「それができないあなたのことは好きじゃない」っていう話になってくるので。

例えば感情のコントロールができなかったとしても、「それも一つのあなただよね」っていうことを、大切にしながら人と接しています。だって人間完璧じゃないし、私も完璧じゃないですから。誰だって欠点や短所があるからこそ、より魅力的にうつるのだと思います。

- - - - - - - - - -

インタビューをしてみて、まず「誰かのために」より先に「自分のために」始めたプログラムだったことがわかり、

でもそれは自己中心的という意味ではなく、本来の事業のあり方として自分とつながったテーマであるからこそ、大切にしていることがブレずに、周りの人にも届けながら、続けられているんだと思いました。

そして、人の変化に寄り添うプログラムや学びの場は普通、「変化や成長をしていくことを提供しますよ」と明示することで対価としてお金をもらう、というしくみな中で、

「変化しなくてもいい」と言うということは、運営側としては勇気がいることだとも思いますし、でも本質的だなぁと思いました。


そして、ひとが「自分の特性と向き合いたい」とか「変わりたい」と思うのは、もっと生きやすくなりたいからだと思います。

そういうポジティブな理由で変わりたいと思うのももちろんよいことだと思いますが、そもそもそういう(なにかしらネガティブに働いてしまう特性のある)自分すら受け入れられれば、今の自分を無理やり変えなくてもいいのかもしれない。

それでもやっぱり「変わらなきゃ」と思ってしまうのは、自分が自分を愛せていないから、という理由が大きいのかもしれません。

それは、条件付きの愛情しかもらったことがない人が多いからなのだと思います。つまり、ゆかさんが伝えたいこと、「ジブン研究」を通してやりたいことは、無条件の愛を与えるみたいなことなのではないかと、今回お話を聞いていて思いました。


https://jibunkenkyu.com/


インタビューされた人

インタビューした人

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?