「自分が活きる場所」に身を置くこと
最近、自分の仕事について説明する機会がかなり増えた。
というのも、伊豆高原に移住してきて、お店づくりにいろんな人が関わってくれたり、近隣の人たちも見守ってくれたりする中で、「お仕事は何されてるんですか?」と必ずと言っていいほど聞かれるので、「ノートを作ってWebショップで販売していて〜」とか「主にSNSで知ってくれた人がお客さんになってくれていて〜」とざっくり説明する。
近隣の方も、お店づくりに携わってくれる業者の方も、わたしよりも年上の人が多いからか、インターネット上で仕事をしていること、SNSやYouTubeのこと、デザインや撮影ができることを知ると、
「オンラインでどこでも仕事ができるなんてすごいね!」
「こんなことできる人は伊東にはいないよ、すごいね!」
と、大袈裟に褒めてくれる。
(一応補足すると、実際のところ伊東市にもきっとこういうことをやっている人はいるだろうけど、たぶん珍しいのだとは思う)
わたし自身は「インターネットで仕事をすること」や「これぐらいの文章が書けること / 写真が撮れること / 動画編集ができること」はさほど稀有なことだとは思ってこなかった。むしろ都市にいるとこのレベルの人はわんさかいたし、それゆえにわたしを含めフリーランスは「どうしたら仕事をもらえるか」に悩んだりするのだ。
しかし、ひとたび地方に来てみると、わたしのレベルのYouTube編集でも、デザインでも、撮影でも、「すごい!」と言ってもらえるのである。もちろんお世辞も入っているとは思うけれど、ここは素直に受け取ってみると、そういうことになる。
初めて都市を離れて暮らしてみて、場所によって「仕事」や「スキル」というものが全然違う表情を見せることを知った。
もうひとつ、伊豆高原に来てから「仕事」という概念の違いを実感する出来事があった。
お店の庭の一部が手付かずで、岩が積み上がっていたり、倒木があったりして自分達だけではどうにもできなさそうだと思い、いくつかの造園業者さんに相談してみたのだが、なかなか決めきれなかった時のこと。「造園業者だけでなく、個人の方にも相談してみようか」と思って探してみると、「庭にまつわる何でも屋さん」的な仕事をしてるフリーランスの方を見つけて、相談することにした。伐採や整地だけでなく、一般的な造園業者だったらサポートしてくれなさそうなことまで、いろいろと丁寧に相談に乗ってもらった。
またある時、建物の近くにクマバチが巣をつくってしまって、撤去してくれる方に来てもらった(ちなみにクマバチは温厚な性格なので本当は撤去するほどではないのだけど、場所が結構よく出入りするところだったので念のため…ということで)。その方は本当に何でも屋さんのような仕事をされていて、草刈りや網戸の交換とか、高いところの電球を替えるとか、そういう「自分でやれるけど面倒なこと」も請け負っているとのことだった。
この地域は高齢の方が多かったり、持ち家の人が多かったりするからこそ、そういう「何でも屋さん」はとても重宝されるだろうなあと思った。実際、わたし達も何度かお世話になっている。
これまで住んでいた東京や神奈川でも、ひょっとしたらそういう「何でも屋さん」のような働き方をしている個人の方は居たのかもしれないけれど、それよりも各分野で名の知れた企業や業者に相談することが多かったし、それゆえに「仕事」というものが分業されているような感覚もあった。
専門性があることが大切で、専業であることがその専門性の証みたいな価値観もあるように思えた。
だから「何でも屋さん」が重宝されること、ちいさな困りごとをまるっと相談できるフットワークの軽い人や業者さんがいることは、わたしにとっては新鮮だった。
改めて思うのは、自分を活かして生きることにおいて、「自分自身が活きる場所」に身を置くことも大事だなあということ。
わたしのスキルは、都市においては「他にもできる人がたくさんいること」だし「どれも専門家ほどではない中途半端なレベル」かもしれないけれども、ひょっとしたら地方においては「あまりできる人がいないこと」「まるっと請け負って良い感じにできるスキル」なのかもしれない。
もちろん都市と地方だけでなく、会社によって、コミュニティによって、国によってなど、いろんな場所の違いがあって。だからこそ自分を活かせる場所に、自ら動くことも心地よく生きるためには必要なことのように思う。
自分を必要とする場所は必ずあって、そういう人達と出逢うためのアンテナを立てておくこと。自ら動くことを、億劫がらないこと。
「誰からも必要とされてない気がする」と落ち込んでいた頃のわたしに、そんな視点もあるのだよと、教えてあげたいなと思った。
おわり
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