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【改訂版】差別やヘイトスピーチ、ヘイトクライムについて

 皆様は差別やヘイトスピーチ 、ヘイトクライムの定義をご存知でしょうか?
 差別は広辞苑に曰く、「差をつけて取りあつかうこと。わけへだて。正当な理由なく劣ったものとして不当に扱うこと。」で、ヘイトスピーチは国連に曰く、「宗教、民族、国籍、人種、肌の色、家系、性、その他のアイデンティティの要素に基づき、個人や団体を軽蔑または差別的な表現で攻撃する言動、記述、ふるまい」で、ヘイトクライムは日本大百科全書に曰く、「人種、宗教、肌の色、民族、性的指向、性別、障害などを理由とした憎悪あるいは偏見を動機とする犯罪」です。
 具体例を挙げるなら、
①イスラム教徒が「キリスト教徒は全員カス。このパリから全員出てけよ。」と発言する。
②シアトルで黒人が「生きる価値無き白豚共が!」と言いながら、白人を殴る。
③オーストラリアでアジア人が、「黒人て頭のイカれたゴリラやん。」と発言する。

以上、①②③全てが差別やヘイトスピーチ、もしくはヘイトクライムに該当します。
 (上記の例3つはあくまで例え話です。キリスト教徒にも白人にも、黒人にも蔑視的な思想や偏見は一切持っていません。)
 「コイツ、何を当たり前のことを言ってんだ?」そう思われたかもしれません。そうです。ここまで当たり前のことしか書いてません。
 しかし、この世の中には上記の例全てを差別やヘイトスピーチ 、ヘイトクライムと認定しない謎の人達がいます。

「ヘイトクライムもヘイトスピーチもいずれも人種、民族、性などのマイノリティに対する差別に基づく攻撃を指す。ヘイトはマイノリティに対する否定的な感情を特徴付ける言葉として使われており、憎悪感情一般ではない。」
師岡泰子『ヘイトスピーチとは何か』(岩波新書)より。

おさらい: 「差別」 「ヘイト」 「マイノリティ」ってなんだ? (あんな)

 まとめると、この人達は「多数派に対して少数派はいかな言動をとっても、差別やヘイトスピーチ、ヘイトクライムにはならない」「差別やヘイトスピーチとは、多数派から少数派に向かうもの」と言ってるんですが、実に意味不明です。彼らの中の勝手な理屈にしかすぎません。(なお、ここでいう多数派少数派というのは、単純な数字の話ではありません。簡単に言うと、権力を持っているか?否か?です。単純な数字の話ならば、アパルトヘイトが差別でなくなり、さらに我が国では女性が多数派となるので女性差別がなくなります。流石にそんなことは上記の人達も言わないでしょう。)

 はっきりと言いますが、「差別やヘイトスピーチとは、多数派から少数派に向かうもの」「多数派に対して少数派はいかな言動をとっても、差別やヘイトスピーチ、ヘイトクライムにはならない」というのは完全に間違いです。それを、日本国内外の判例や事例、統計でもって証明したいと思います。

①日本国内外の事例や統計

 例えば、ウィスコンシン州で起きた黒人(少数派)が白人(多数派)に対しておこした暴行事件がヘイトクライム認定され、連邦最高裁もその判断を合憲としています。

アメリカ合衆国におけるヘイトクライム規制法 (Hate Crime Law)の動向と、日本の課題(新恵里)

 さらに、FBIによる統計も同様に、黒人による白人へのヘイトクライムを認定しています。

FBIのヘイトクライム統計(2019)

 アメリカだけではありません。
 イギリスでも、とある黒人の演説が白人へのヘイトスピーチと認定され、発言者の黒人には有罪判決が下されました。

奈須祐治『イギリスにおけるヘイト・スピーチ規制法の歴史と現状』

 ちなみに、Peter Doggett氏の著作「There's A Riot Going On: Revolutionaries, Rock Stars, and the Rise and Fall of the ‘60s」の109Pによると、以下の発言がヘイトスピーチ認定されました。

「If ever you see a white man laying hands on a black woman, kill him immediately… The most savage human being in the world is the white man
(もし白人が黒人女性に按手しているのを見たら、すぐに○せ。世界で最も野蛮な人間は白人だ。)」

 またOSCE(欧州安全保障協力機構)は、フランスやスペインといったキリスト教国における、キリスト教に対するヘイトクライムを認定し、公式サイトに掲載しています。

OSCEのヘイトクライム統計

 さらに、今年行われた東京五輪の自転車ロードレース男子個人タイムトライアルの競技中に、ドイツ代表チームのスポーツディレクターのパトリック・モスター氏が、アルジェリア代表選手とエリトリア代表選手の事を「ラクダ商人」と表現。人種差別発言であると批判されました。モスター氏は東京五輪開催中にコーチをクビになり、ドイツ五輪スポーツ連盟の会長が謝罪する事態になっています。


 我が国日本ではヨーロッパ人も中東人も少数派です。両者共に、多数派ではありません。しかし、ドイツ代表コーチの発言は人種差別とされたのです。
 以上の事例から、「差別やヘイトスピーチとは、多数派から少数派に向かうもの」「多数派に対して少数派はいかな言動をとっても、差別やヘイトスピーチ、ヘイトクライムにはならない」などという理論が現実を全く踏まえていない理論に他ならないという事がお分かりいただけるかと思います。
 それにしても、社会権力を持っているかいなかで差別かどうかが変わるなど、一体全体どんな理論なのでしょう?本当におかしな理論です。
 ここで断言します。「差別やヘイトスピーチとは、多数派から少数派に向かうもの」「多数派に対して少数派はいかな言動をとっても、差別やヘイトスピーチ、ヘイトクライムにはならない」などというおかしな言論は、多数派少数派双方に対する差別言論に他なりません。こんなおかしな言論、絶対に認めてはいけません。
 もし、このような主張をされている方々を見かけましたら、このノートやノートで紹介した事例を見せてあげてください。

②このような言説の根拠は何か?

 ここまで、差別やヘイトスピーチとは、多数派から少数派に向かうものという主張の反証となる日本国内外の事例や統計、判決をまとめました。
 そもそもですが、「差別やヘイトスピーチとは、多数派から少数派に向かうもの」という主張をする人達は、何を根拠に主張しているでしょうか?
 私が調べた限りでは、師岡康子という人が書いた「ヘイト・スピーチとは何か」という本を根拠にされる方々をよく見かけます。事実、師岡氏はヘイトスピーチ研究の第一人者、権威とされています。
 確かに、師岡氏は同著の48Pにて、

 と記されています。しかし、同著の47Pにて氏は、

 とも記されているのです。
 これ、おかしいですよね?勧告や文書はマイノリティに限定してないのに、なんで師岡氏は勝手に限定してるんでしょうか?
 「主要な対象はマイノリティであるとしている。」と、47Pでは記したのに、次のページでなぜ勝手に主要ではない対象を省いているのでしょうか? 
 
例えば「プリキュアの主要なファン層は若い女性である」と言ったとき、若くない女性や男性がファンにいないわけではないのと同じで、「条約の主要な対象はマイノリティ」と言った時、「マジョリティが絶対に条約の対象にならない」ってことではないハズです。
 師岡氏も師岡氏で大概にしてほしいですが、氏の勝手な理屈を無批判に垂れ流すのもやめてほしいですね。

*このノートの本文で紹介しきれなかった「少数派からの多数派への差別とされた事例」を以下に紹介します。参考までにどうぞ。






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